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Chapter2 【運命】 2-3

「……朝比奈さん...私ね、ずっと自分のことを隠して生きてきたの。」

「隠して?」


美玲が首をかしげると、真優は少し震える声で続けた。


「私……悪魔の力を持ってるの。」


その言葉を聞いた瞬間、美玲の目がわずかに見開かれた。だが、それは驚きではなく、真優が今まで誰にも話せなかったことを打ち明けたことへの、静かな受け止めだった。


「……悪魔の力……。」

「うん。私、幼い頃に力が発現して……その時、暴走して、友達を……傷つけてしまった。」


真優の声が震えた。


「最低だよね。私は、友達を傷つけたのに、何もできなかった。怖くて、泣いて、何も変えられなかった。皆に見放されて、ひとりぼっちになったのは、全部私のせいなのに……!」


その言葉には、長年の苦しみと後悔が滲んでいた。


「だから、私は……雷人にも言えなかったの。怖かった。彼に知られたら、きっと軽蔑される。嫌われる……! そう思うと、どうしても言い出せなかった……。」


真優は俯き、肩を小さく震わせた。

美玲は、そんな真優をじっと見つめていた。そして、静かに口を開いた。


「……ねえ、鈴本さん。さっきの話、実は続きがあるんだ。」

「え……?」


真優が顔を上げると、美玲は少し呆れたように、それでいて優しい微笑みを浮かべていた。


「私は、男子たちに勘違いされて、それがずっと辛かったって言ったよね?今日もそんな男子に呼び出されて、腕を捕まれて凄く怖かった。 でも、そんな時、霧島くんが助けてくれたんだよ。」

「……雷人が……?」

「うん。何の迷いもなく、私を助けてくれた。あの時、私ね……思ったんだ。ああ、この人は、本当に困っている人を見過ごせない性格なんだなって。」


真優は息をのんだ。


「きっとね、霧島くんは、鈴本さんが悪魔だろうがなんだろうが、関係ないと思うよ。だって、霧島くんが助けるのは、『困ってる人』だから。」

「…………。」

「鈴本さんが、昔、暴走してしまったことを後悔してるのは、すごく伝わってくる。でもさ、それを聞いたら、霧島くんが鈴本さんを見捨てるような人だと思う?」


美玲は、真優の目をまっすぐ見つめながら、静かに問いかけた。


「私は、そうは思わないよ。」


その言葉は、真優の心に深く響いた。


「……でも……もし、嫌われたら……。」

「それはない。」


美玲は即答した。


「……断言するんだね。」

「うん。だって、霧島くんって、そういう人でしょ?」


美玲は、穏やかに笑った。


「私は、霧島くんみたいな人に初めて会ったけど……そんな彼が、鈴本さんを拒絶するなんて、絶対にありえない。」


真優は、美玲の言葉をじっと聞いていた。


「だから……もう、隠さなくていいんじゃないかな?」

「……。」


真優は、ゆっくりと目を閉じ、深く息を吸った。


(……怖い。でも……。)


美玲の言葉は、確かに真優の心に届いていた。


(私は……本当にこのままでいいのかな……?)


真優は、そっと拳を握りしめた。



静寂に包まれたはずの図書室に、暖かい雰囲気が漂う。そんな時、スピーカーから声が聞こえる。


【最終下校時刻10分前です。生徒の皆さんは速やかに下校してください。】


「あ、忘れてた..。下校時間が近づいてるんだった...。」

「先生に怒られるのも不味いし、早く鍵返して帰ろ~!」


真優は鍵を持ち、美玲と一緒に図書室を後にした。静かだった図書室の扉を閉め、鍵をかけると、廊下には夕暮れの柔らかな光が差し込んでいた。


「これで、今日の受付は終わり……。」


真優は小さく呟きながら、鍵を握りしめる。すると、美玲が隣でクスッと笑った。


「ねえ、真優ちゃん?」

「……え?」


突然の呼び方に、真優は驚いた顔をする。今まで、朝比奈さんはずっと「鈴本さん」と呼んでいた。それが急に「真優ちゃん」になったことで、思わず声が出る、

美玲はそんな真優の反応を見て、にこっと笑った。


「これからは、そう呼んでもいい..?」

「……えっと……。」


真優は戸惑いながらも、今までの美玲との会話を思い返す。悩みを打ち明け合い、互いの心の内を知ることができた。何より、美玲は真優を否定せず、ただ真っ直ぐに受け入れてくれた。

そんな美玲の気持ちが嬉しくて、真優は小さく頷いた。


「……うん。いいよ。」

「やった♪ じゃあ、真優ちゃんも私のこと『美玲ちゃん』って呼んで!」


美玲は満面の笑顔でそう言う。


「……美玲ちゃん……?」

「そう、それそれ!」


真優が照れながら呼ぶと、美玲はとても満足そうに頷いた。


「よし、これで決まり! もう他人行儀なのはナシね!」


真優はまだ少し照れくさそうにしていたが、そんな美玲の明るさに自然と笑みがこぼれた。


「……うん。よろしくね、美玲ちゃん。」

「うんっ! こちらこそ、よろしくね、真優ちゃん!」


二人は笑い合いながら、職員室へと歩き出す。そこには、もう警戒心など微塵もなかった。ただ、お互いを信頼する、温かな友情があった。



日がすっかり落ちた帰り道、真優と美玲は他愛もない話で盛り上がっていた。


「でもさ、霧島くんって本当に鈍感だよね?」

「え……えっと、それは……。」


美玲の冗談めいた言葉に、真優は困ったように頬を赤らめる。

だが、そんな和やかな雰囲気は、次第に薄れていった。歩くたびに、目に映る景色が見知らぬものへと変わっていったのだ。


「……ねえ、ここ、どこ?」


美玲が立ち止まり、辺りを見回す。確かに、いつもの帰り道のはずだった。しかし、いつの間にか街灯の光は消え、静寂が支配する異質な空間へと迷い込んでいた。

真優も不安そうに美玲の袖を掴む。


「おかしい……さっきまで普通の道だったのに……。」


そして、その時だった。


「おや……?」


静寂を破るように、どこか優雅な声が響く。

二人が顔を上げると、目の前に白い長髪の男が立っていた。彼はまるで紳士のような装いをしており、穏やかな微笑みを浮かべていた。


「こんなところに迷い込んでしまって、大丈夫かい?」


男は優雅な仕草で手を差し伸べる。


「良ければ、一緒に出口まで行こう。」


その言葉に、真優は戸惑いながらも僅かに安心しかけた。しかし、隣にいる美玲は違った。


「……っ。」


真優の前に立ち塞がるように、美玲は一歩前に出る。そして、迷うことなく男の手をはねのけた。


「……アンタがこんな状況を作ったんでしょ?」


鋭い視線で睨みつける美玲に、男はしばし沈黙した後、クスリと笑った。


「――ほう、勘が鋭いな。」


その瞬間、男の雰囲気が一変する。


先ほどまでの紳士的な態度は消え去り、冷酷な笑みを浮かべた異様な存在へと変貌した。


「だが、まさか部外者まで誘い込むとは..残念だ。」


冷たい瞳で美玲を見下ろし、彼は淡々と告げる。


「私の目的は鈴本真優のみだ。お前は――必要ない。」


その言葉に、美玲は真優を庇うように両手を広げ、強く睨みつけた。


「……ふざけないで。真優ちゃんに手を出させるわけないでしょ。」


緊張が張り詰める中、男は静かに笑みを深める。

男は冷たく微笑みながら、静かに口を開いた。


「自己紹介が遅れたな。私はれいだ。」


名乗りを上げた黎は、まるで当たり前のように交渉を持ちかける。


「今の私は気分が良い...。大人しく鈴本真優を置いていくのならば……お前は助けてやろう。」


淡々とした口調で語られる言葉に、美玲は思わず真優の方をチラリと見る。


(真優ちゃんを置いて行けば、私は助かる……?)


まるで当然の選択を迫るような黎の言葉に、美玲は数秒間沈黙した。


そして――静かにうなずいた。


「……わかった。」


その答えに、黎は満足そうに微笑む。


「賢明な判断だ。」


だが、その一瞬の油断が命取りとなる。

美玲はゆっくりと黎の方へ歩み寄る。

だが――その手が黎に届く寸前、彼女はカバンの中に忍ばせていたスタンガンを素早く取り出し、ためらいなく黎に押しつけた。


「――っ!」


バチッ! と鋭い電流が弾ける。

黎の体が一瞬、ビクリと硬直し、そのまま地面に崩れ落ちた。


(結局、使っちゃったなぁ..コレ。)


【あの時】は使わずに済んだのに、結局ここで使うことになってしまった。


「……今のうちに!」


美玲はすぐさま真優の手を強く握り、出口へと向かおうとする。


...そういえば...

(今まで自分を護る為に使ってたスタンガンを、初めて誰かを護る為に使ったなぁ...)




だが――


「……ほう……良い度胸をしているじゃないか。」


背後から聞こえたのは、先ほど倒れたはずの黎の声だった。


「えっ――!?」


驚いて振り返ると、そこには何事もなかったかのように立ち上がる黎の姿があった。


「よくも..この俺をコケにしてくれたな!!」


黎は冷酷な瞳で美玲を見据えると、次の瞬間――


「――ッ!」


目の前に黎が現れ、美玲の首を掴み上げた。


「がっ……!?」


足が地面から浮く。息ができない。


真優の目の前で、美玲の体が無造作に持ち上げられた。


「やはり、お前は不要だ。」


黎の言葉とともに、冷たい空気が辺りを支配していく―

視界が次第に暗くなっていく。

息ができない。

喉が締めつけられ、肺に空気が届かない。


「……っ……!」


指先が震え、力が抜けていくのが分かる。

目の前で涙を浮かべる真優の姿がぼやけて見えた。


「お願い……美玲ちゃんを……助けてください……!」


必死に懇願する真優の声が耳に届く。

だが――黎はその声に応えることは無い。

意識が薄れていく中、最後の力を振り絞り、かすれる声で呟いた。


「……まゆ....ちゃ……にげ....て……」


苦しい。苦しい。

もう意識が――


(……あぁ、私……こんなところで……終わるのかな……)


走馬灯のように、自分の記憶が掘り起こされる。

皆と仲良くなろうとしていたはずなのに、結局、距離を取られることが多かった。

本当は――真優ちゃんのように、ただ、誰かと心から分かり合いたかっただけなのかもしれない。


(……私って……結局……何がしたかったんだろ……)


何もできないまま終わる。

そんな後悔が胸を締めつける。


そして――最後に、ふと、霧島雷人の顔が浮かんだ。

放課後の廊下で、彼に助けられたときの姿。

明るくて、堂々としていて……まるでヒーローみたいだった。

せめて――


もう一度、話したかった。


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