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Chapter5 【決着】 5-7

瓦礫が舞う崩壊寸前のステージ。会場の照明は砕け散り、炎が辺りを照らしていた。空には進化した黎が浮かび、彼の血のように赤い翼は、まるで世界を覆い尽くすかのように広がっている。


地上には霧島雷人——。彼は傷だらけの体で立ち、それでも拳を強く握る。雷が彼の体を這い、白熱したオーラを放っていた。


「さあ、始めようか。」


黎が嗤う。


「これが最後の戦いだ。俺を倒せなければ、お前も、お前の大切な人間たちも、全員死ぬ。お前はそれを知りながらも、俺に勝つことは出来るのか?」


「……ああ。」


霧島は顔を上げた。


「お前なんかに負けるわけにはいかねぇんだよ!!」


雷鳴が轟く。


——そして、最後の戦いが始まった。


黎は宙を舞い、一瞬で雷人の目の前に降り立った。


「遅い。」


黎の腕が閃く。


——ズガァンッ!!


雷人はギリギリで腕を交差させてガードしたが、衝撃が地面を砕き、ステージがさらに崩壊する。


「くっ……!!」


次の瞬間、黎の膝が雷人の腹部にめり込む。


ゴッ……!!!


肋骨が軋む音が聞こえた。雷人の体が宙を舞い、瓦礫の中に叩きつけられる。


「フン。そんなものか?」


黎は冷たく言い放つと、指を鳴らした。


——空間が歪む。


次の瞬間、無数の赤黒い槍が生み出され、雷人へと襲いかかる。


「終わりだ。」


黎が手を振ると、槍が一斉に雷人へと放たれた。



——バチバチッ!!


それに反応するように、雷人の体が青白い雷光に包まれる。


「……そう簡単にやられるかよ!!!」


——ドンッ!!!


瞬間、雷人は雷を纏ったまま猛然とダッシュし、槍の群れをすり抜ける。


「ほう?」


黎が驚く間もなく——


——ズドンッ!!!!


雷人の拳が黎の顔面を捉えた。


「グッ……!!」


黎の体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。


しかし——


「……ククッ。」


黎はすぐさま起き上がった。


「良いぞ。その力……もっと見せろ!霧島雷人!!」


「言われなくてもな……!!」


再び衝突する二人。


雷が閃き、衝撃波が会場を揺るがす。


黎の拳が雷人の頬をかすめ、血が飛ぶ。


雷人の蹴りが黎の腹にめり込むが、まるで鉄のように硬い肉体に阻まれる。


二人の打撃が交差するたびに、空気が爆ぜ、地面が抉れた。


その戦いは、まるで神と悪魔が争う終末の光景のようだった。


戦いは続いた。


どれだけ殴り合っても、二人の決着はつかなかった。


雷人の体はボロボロだった。


だが、彼の希望は決して折れていない。


(負けられねぇ……ここで負けたら……!!)


真優、美玲、凛、迅達——仲間たちの顔が浮かぶ。


(俺は....みんなを守るんだ!!!)


——バチバチッ!!


雷の光が、これまでで最も強く輝いた。

雷の色が、紫色へと変色する。


「……!!?」


黎の表情が強張る。


雷人の体から、桁違いの雷の力が放たれていた。


「これで……終わりにする!!」


雷人は全身の力を込め、黎へと突進する。


「来い……!!!」


黎もまた、最後の一撃を放つため、魔力を高める。


「紫電...一閃.....!!!!」


紫に輝く雷を拳に纏い、雷人は力強く地面を蹴り、空中に飛行する黎に飛びかかる。

黎もそれに応じるように、自身の魔力を彼に解き放った。


光と闇が激突した。


空間が歪むほどの衝撃が生まれ、会場全体が光と闇に包まれた。


彼と向き合う中、黎はふと彼の目が視界に入った。


(この男の眼...アイツに....)


——ズガァァァァァァァァンッ!!!!


光が収まったとき——


立っていたのは、雷人だった。


黎は、地面に倒れていた。


赤い翼は消え、彼の体からは力が抜け落ちていた。


雷人は息を荒げながら、それを見下ろした。


「……終わりだ、黎。」


黎は口元に微かな笑みを浮かべながら、静かに目を閉じた。


こうして——悪夢の夜は、幕を下ろした。



雷人は荒い息を吐きながら、目の前でふらつく黎を睨みつけた。確かに、あの一撃で決着はついたはずだった。だが——。


「……しぶといな。」


雷人が拳を握ると、ビリビリとした雷光がまだ微かに体に残っていた。しかし、もはやまともに闘えるほどの力はない。


それでも、黎は立ち上がってきた。


「……終わらない……」


黎は肩を震わせながら、苦しそうに呟いた。


「まだ……俺は……終わらねぇ……」


雷人は身構える。しかし、何かがおかしい。


黎は拳を握り締めようとするが、手が震え、まともに動かせていない。


(……様子が変だ。)


そして——


「——ゴボォッ!!」


黎は突如、口を押さえ、激しく嘔吐した。


「……っ!?」


雷人の目が驚愕に見開かれる。


黎の口から吐き出されたのは——無数の人間の頭蓋骨だった。


ゴロゴロと地面を転がる白い骸たち。その数は、到底数え切れるものではない。


それらは、彼がこれまで喰らい、力を得てきた犠牲者たちのものだった。


「ゲホッ……ゴボッ……!!!」


黎は止まらない。次から次へと、人の頭蓋骨が彼の口から吐き出される。


まだ皮膚がわずかに残っているものもあった。小さな子供のものと思われる頭蓋も含まれていた。


「……っ!!」


雷人は眉をひそめ、口を固く結んだ。


この男が、これまでどれほどの命を喰らってきたのか——今さらながら、理解させられた。


「お、おぇぇ……」


黎は膝をつき、苦しげに吐き続ける。彼の体が小刻みに震え、目は虚ろになり始めていた。


まるで、自らの罪の重さに押し潰されるかのように——。


霧島は拳を握りしめたまま、低く呟いた。


「これが...お前が積み重ねてきた【罪】そのものって事か...」


この光景こそが、黎の終焉だった。


黎は、吐き出された無数の頭蓋骨の山の上に膝をつき、震えていた。


それまでの傲慢な態度はどこへ行ったのか——今の黎は、まるで力を失った子供のように、肩を震わせ、嗚咽を漏らしていた。


「いやだ……いやだ……こんなの、嘘だ……」


両手を地面につき、乱れた髪の隙間から覗く彼の顔には、これまで見せたことのないほどの絶望が滲んでいた。


「返せ……俺の力を……!」


黎の絶叫がドームに響く。しかし、もう彼の体にはかつての力強さはない。


翼は朽ちたように黒い灰となって崩れ落ち、赤い眼光はただの血走った瞳へと変わり果てていた。


雷人は、警戒を解かぬまま、荒い息をつきながら黎を見つめていた。


「……何が、起こった……?」


黎がここまで弱り果てた理由が分からない。確かに、最後の一撃は渾身の力を込めたものだったが、それだけで黎がここまでの状態になるとは到底思えなかった。


だが、黎はすぐにその理由を察知した。


「……なるほどな。」


黎は、泣きじゃくるように震えながらも、憎むように歯を見せる。


「そうか……霧島雷人、お前の最後の一撃……あれには、俺の“力”そのものを消し去る効果があったんだな……!」


霧島の眉が動く。


「力を……消し去る?」


黎は、力なく天を仰いだ。


「俺はこれまで、どれほどの人間を喰らい、その力を我が物にしてきたか分からない……新たな存在に進化したはずだった。」


「だが——」


黎は自分の手を見つめる。その指は、ただの人間のそれだった。力を宿していたはずの手のひらは、今やかつての輝きを失っていた。


「全部……無くなってしまった……!」


黎の声は、絶望そのものだった。



雷人は、ゆっくりとした足取りで黎へと近づいていった。


一歩——


また一歩——


ポケットから、スタンガンを取り出し、無言で進む。


対する黎は、目を見開き、後ずさる。


「……来るな!」


震えた声がドーム内に響く。しかし雷人の足は止まらない。


「聞こえないのか!?来るなって言ってるだろ!」


黎は焦燥の表情を浮かべ、尻をつくように地面に座り込んだ。


「お前、分かってるのか!?ここで俺を始末すれば、組織の奴らが黙っちゃいないぞ! いずれお前の周りの奴らも……皆殺しに——」


脅しの言葉は途中で止まった。雷人の目を見て、黎は悟ったのだ。


(コイツの目..もう止まらないのか...!?)


雷人は一切の反応を見せず、ただ静かに歩を進める。


「……っ!」


黎は奥歯を噛みしめ、顔を歪めた。


「頼む……!見逃せとは言わない……だが……っ!」


黎の声が 震え始める。


雷人は、ただ 黙ってポケットからスタンガンを取り出す。


そして――


「っ!!!」


黎は、 最後の瞬間に見た。


『もし、霧島雷人があの時、自分の側にいたら』


自分はここにいなかったのかもしれない。


雷人がいれば、 あの頃の自分は救われたかもしれない。


雷人がいれば、 奏美は助かったのかもしれない。


(……なんで、お前じゃなかった……)


(なんで、俺のそばには……)


雷人の手が、 無言のままスタンガンを黎の首筋へと押し当てた。


バチッ!!!!!


電流が 走る。


黎の意識が 闇へと沈んでいった。



雷人は、荒い息を吐きながらようやく膝をついた。


静寂が降りた会場。


黎の気絶した身体が地面に転がるのを見て、雷人はようやく 戦いが終わったのだと実感する。


「はぁ……はぁ……っ……」


汗が頬を伝う。体は鉛のように重い。 全身に痛みが走るが、それでも彼は立ち上がった。


――ドンッ!!


突然、背中を叩かれた。


「霧島君!! やったじゃん!!」


振り向くと、そこには美玲の 満面の笑顔。


「すごいよ、君!!」


「お前マジでヒーローじゃん!!」


「見てたぞ、雷人!お前、カッコよすぎるって!!」


Gravity・STARsのメンバーや、観客たちが雷人を囲み、口々に称賛の声を上げる。


やがて、誰かが言った。


「よぉし、英雄の胴上げだ!!」

「おおおおおおっ!!!」


観客たちが一斉に歓声を上げると、雷人の体が ひょいっと持ち上げられた!


「うぉ!? ちょ、ま――」


――わっしょい!


――わっしょい!!


雷人は勢いよく空へと投げ上げられる!


「いや、ちょっと待て!これ結構怖――うわああ!!!」


――わっしょい!!!


雷人が叫ぶたびに、観客は さらに盛り上がった。


「雷人!!君は英雄だよ!!」

「雷人最高!!雷人最高!!」

「マジで助かった!ありがとう!!」


周囲の人々は、口々に 雷人を称える。


彼は 気恥ずかしさを覚えながらも、どこか悪くない気分になっていた。


そんな光景を、凜は静かに見つめていた。


彼女の腕の中には、 未だ眠り続ける鈴本真優。


「……よくやったな、雷人」


凜はそう小さく呟くと、真優の方をふと見やる。

眠っている彼女は、どこか嬉しそうな表情をしていた。


Chapter5 【決着】 閉幕

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