Chapter5 【決着】 5-6
ライブステージの上、二人の男が対峙する。
一方は霧島雷人——真優から力を授かり、新たな力を覚醒させた男。
もう一方は黎——生き延びるために、強くなるために。あらゆる力を貪り、今や怪物と化した男。
黎は宙に浮かびながら、黒い翼を広げると、不敵な笑みを浮かべる。
「さあ、始めようか——俺とお前の、命を懸けた最後の戦いを。」
雷人は拳を強く握りしめ、まるで雷鳴のように体の周囲から青白い電撃が迸る。
「……もう、てめぇの好きにはさせねぇ!!」
轟音とともに、二人の戦いが始まった。
黎が鋭い爪を振り下ろした瞬間、雷人は雷を纏った拳で迎え撃つ。
爪と拳がぶつかり合い、衝撃波が周囲に炸裂する。
「フッ……その程度か?」
黎は余裕の笑みを浮かべ、 黒い靄を纏った脚で雷人の腹部を蹴り上げる。
雷人の体は 弾丸のように吹き飛び、舞台の床を砕きながら滑る。
だが――
雷人は寸前で踏みとどまり、片膝をつく。
全身に電流が走り、雷のオーラがより強く迸る。
「……まだまだ!」
雷人は 瞬時に地面を蹴り、雷を纏って黎に突進する。
疾風の如きスピード。
だが、黎もまた、 影のように動く。
シュッ……!
雷人の拳が炸裂する刹那、黎は体を滑らせるように避け、背後へ回り込む。
そして、 漆黒の刃を生成し、雷人の背中へと突き立てる――!
「チッ……!」
雷人は 直感的に反応し、雷のエネルギーを爆発させる。
雷撃の反動で 瞬時に距離をとることに成功した。
「フン、なかなかやるな」
黎は軽く指を鳴らすと、 地面から黒い蔦のようなものが伸び、雷人の足元を絡め取る。
「ッ!」
雷人は 一瞬、身動きを封じられる。
「終わりだ」
黎は高速で雷人の懐に入り込み、黒い爪を振り抜いた。
鋭い閃光が奔る――!
ザシュッ!!!
雷人の 左肩が深く裂かれ、鮮血が宙に舞う。
「ぐっ……!」
雷人は 痛みに顔を歪めるが、それでも膝をつかない。
「ほう、まだ立つか?」
黎は 冷笑を浮かべながら、雷人を見下ろす。
「お前の雷など、私には通じない。分かっただろう?」
雷人は 荒い息を吐きながらも、拳を握りしめる。
(……確かに、普通の攻撃じゃ通じねぇ)
(でも、俺には……まだやれることがある!)
雷人の瞳に決意の光が宿った瞬間――
雷人の全身が、 さらに激しく雷を帯びた。
周囲の空気が ビリビリと震え、青白い雷光が迸る。
「ほう……?」
黎の表情が、 初めて僅かに変わった。
雷人は、 真優から受け取った力を解放する。
「……行くぜ、黎!」
次の瞬間、 雷人の姿が完全に掻き消えた。
――瞬雷の如き速度。
黎が目を見開いた時には、雷人の拳が目前に迫っていた――!
雷人はまるで閃光のようなスピードで黎へと肉薄する。彼の拳には雷光が収束し、雷鳴が響く。
「雷撃——ッ!!」
轟く雷とともに霧島の拳が黎に叩き込まれる。しかし——。
「遅い。」
黎は余裕の表情でその一撃を躱した。さらに、瞬時に彼の背後へと回り込むと、翼を鋭く切り裂く刃のように変化させ、そのまま雷人の背中を切り裂こうとした。
「っ!?」
雷人は咄嗟に身を屈めて回避する。しかし、ほんの僅かに遅れたため、右肩を浅く斬られる。血が滲み、衣服が裂けた。
黎は冷笑を浮かべながら、宙から霧島を見下ろす。
「力を得てもこの程度か? それでは、俺には届かないな。」
黎は右手を掲げると、その手から黒い影のような魔力が噴き出す。
「...ダークネスプリズンっ!!」
闇の波動が霧島を包み込もうとした。
「くっ……!」
雷人は咄嗟に後方へと飛び退るが、地面から無数の黒い腕が飛び出し、彼の足を掴もうとする。
(このままじゃ逃げられねぇ——!)
瞬時に判断し、雷人は拳を地面に叩きつける。
「雷迅!!」
青白い稲妻が迸り、黒い腕を焼き払う。反動で雷人の身体は跳ね返り、すんでの所で闇の波動を回避する。
しかし、黎はすでに次の手を打っていた。
「グラビティ・クラッシュ!!」
黎は左手を上げると、突然、雷人の体が地面に押しつけられるような強烈な圧力に襲われた。
「ぐっ……!!?」
それはまるで重力が数倍になったかのような力だ。雷人は膝をつき、拳を地面に押しつけながら耐える。
「俺が喰らった者の能力の一つだ。重力を操作する力……お前の速さはもう通用しない。」
黎が手を握ると、雷人の体にさらに圧力がかかる。骨が悲鳴を上げる。
「終わりだ。」
黎が止めを刺そうとした瞬間——。
「——うるせぇ!!」
雷が弾ける音が響き渡った。
雷人が全身から雷光を発し、そのまま拳を振り上げる。
「雷轟拳!!!」
稲妻を纏った拳が地面を砕き、重力の拘束を打ち破った。
「高見の見物を決め込みやがって...だったらそこまで行ってやる!!」
雷人は地を蹴り、全身に雷を纏いながら一気に跳躍する。
黎のいる高空まで、一気に突き上げるように拳を叩き込んだ。
「ッ!? ぐ……っ!」
黎の体が衝撃で跳ね上がる。雷人はさらに追撃するように、空中で回転しながら踵落としを放つ。
「雷旋脚!!」
轟音と共に黎が叩き落とされる。
「ッ……く……!」
地面に叩きつけられた黎は立ち上がるが、その顔には焦りが見えた。
「……なるほどな。」
彼は傷ついた唇を舐めながら呟く。
「お前...なかなか楽しませてくれるな」
再び宙へ舞い上がろうとするが——。
「もう飛ばせねぇよ!!」
雷人はすでに黎の前に立ちはだかっていた。
「——お前の負けだ...!!」
雷人の拳に雷が収束する。まるで稲妻そのものを拳に宿したような輝き。
「雷神——轟破!!!」
雷光が閃き、雷人の拳が黎の腹部に突き刺さった。
「が……ッ!!?」
拳が直撃した瞬間、雷が炸裂し、黎の体を内部から焼くように衝撃が駆け抜ける。
その衝撃で、黎の翼が焼き切れ、彼の体は吹き飛び——。
バキィンッ!!!
ライブステージのスクリーンへと激突し、大きな亀裂を生じさせた。
煙が立ち込める中、霧島は息を切らしながら立っていた。
そして、倒れた黎を見下ろす。
雷人は荒い息をつきながら、倒れ伏した黎を見下ろしていた。激闘の末、ついに彼を打ち倒した……
....そう思った瞬間——。
「——フゥ。」
静かに、残骸の中から息を吐く音が響いた。
次の瞬間、爆発的な魔力が黎の体から溢れ出した。
「なっ——!?」
雷人は咄嗟に後退する。周囲の瓦礫が舞い上がり、圧倒的な魔力が会場を包み込んだ。
そして、黎は再び立ち上がった。
だが——先ほどまでの彼とは、まるで別人だった。
黎の姿は変貌していた。
彼の角はより鋭く伸び、血のように赤く染まっていた。翼もまた深紅に染まり、まるで燃え盛る炎のように揺らめいている。
何より異様なのは、その双眼——。
常に赤い光を放ち、そこには、もはや人間でも悪魔でもない、異質な存在の気配が宿っていた。
「フッ……」
黎は一度拳を握ると、体から黒と赤が入り混じった光を迸らせた。その瞬間、地面が抉れ、周囲の瓦礫が一瞬で消滅する。
「……礼を言うぞ、霧島雷人。」
黎は静かに微笑んだ。
「お前のおかげで……俺は、ついに到達した。人間でも悪魔でもない——新たなる進化の境地へと。」
雷人は歯を食いしばる。
(……マズい。完全に別次元の力を手に入れちまった。)
雷の力を得た自分ですら、黎の放つ魔力の圧に息苦しさを感じる。
「さて……」
黎はゆっくりと宙へと舞い上がった。
「今度こそ、お前を仕留める。」
黎の指が霧島に向けられると、空間そのものが歪む。
「!!?」
次の瞬間——雷人の周囲に無数の黒と赤の槍が生み出された。
「喰らえ...ブラッディ・スピアっ!!」
黎が腕を振ると、槍の群れが雷人へと降り注いだ。
「クソッ……!!!」
雷人は全身から雷を迸らせ、必死に回避する。しかし、槍はただの物理攻撃ではない。空間を歪め、どこからともなく現れる不可避の攻撃——。
「ぐっ……!!」
回避しきれず、彼の肩と足に槍が突き刺さる。激痛が走る。
「ふはははは!!!」
黎は高らかに笑う。
その時ーーー
「っ!?グハッ!?」
突如黎は吐血した。先ほどの戦いのダメージ...いや、以前自分たちの前に直接現れたときのダメージまでもが、蓄積していたのだ。
「ぐ...覚醒した反動で来てしまったか....。だがそれでも、もうお前では俺に勝てん。自分の無力さを後悔し、このまま死ね!!」
雷人は、倒れそうになる体を必死に支えた。
それでも、心のどこかで理解していた。
(……このままじゃ、勝てねぇ……!!)
黎は進化し、さらに強くなった。今の自分では——いや、世界の誰も、この黎を止めることはできない。
この場で決着をつけなければ、黎はダメージを回復し、さらなる力を得てしまう。
そうなれば——世界は終わる。
(俺が……やるしかねぇ……!!)
霧島は、最後の力を振り絞る覚悟を決めた——。
死闘の果て、決戦の幕が上がる——!!