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Prologue 【始動】 0-2

校門にたどり着くと、桜の花びらが風に舞い、まるで二人の新しい生活を祝福しているかのようだった。雷人は花びらを掴もうと手を伸ばす。


「真優、これから楽しい学校生活が始まりそうだな!」


そう力強く言う雷人の言葉に、真優は小さく頷く。彼女の瞳には、雷人への信頼と期待が込められていた。

廊下には既に各クラスの名簿が張り出されており、その前には多くの生徒達が群がっていた。友達同士一喜一憂する光景が見受けられた。


「くっそー..俺たち違うクラスだったか~。」

「向こうの都合だし仕方ないよ。僕たち、クラスは違うけどお互い頑張ろう。」

「ねぇねぇ、昨日グラビティ・スターズがアップした新曲聞いた?」

「聞いた~!やっぱボーカルの【JIN】さんの歌声やばいよね~!あれは惚れる!」


生徒達の他愛他愛もない会話をよそに、雷人は自分と真優のクラスを確認しようとする。だが、真優はどこか不安そうだ。


「真優..?大丈夫か?」

「うん..ただ、もし雷人と別のクラスだったら..私..」

「大丈夫だって!もし別のクラスだとしても、休み時間とか放課後とか、会える時間は沢山あるって!!」

「雷人..」


そんな会話をする二人に、人混みの中から一人の生徒が声をかける。


「お、もしかして君たちも新入生?」


にこやかに手を振り現れたのは、水色の少し短い髪をした、どこか緩い雰囲気を持つ少女だ。


「よっす~ さっきから2人で仲睦まじそうにしてたから声かけちゃった!」

「えっと..初めまして..ですよね?」


突然話しかけてきた少女に、真優は少し緊張しながらも話しかける。


「あはは!そりゃあここに居る人たちは皆新入生なんだし、初めましてで合ってると思うよ~。それと、同い年なんだし敬語は使わなくて良いよ!にしても..」


突然、水色髪の少女は真優の頬を触り始める。


「ひゃっ!?」

「この娘ちっちゃくて可愛い~!ほれ~」(ムニムニ)

「ひゃ、ひゃへへふははい~//」(や、やめてください..)

「えっと、うちの幼なじみを弄るのはそろそろやめてもらっても?」


傍から見れば微笑ましい光景だが、雷人は本題に戻るために、少女と真優を引き離す。


「あ、ごめんね、つい...改めて、私は【朝比奈美玲】。一年A組の一番隊長だよ~!」

「一番隊長?それってどういう意味だ?」

「もしかして..出席番号が一番って事?」

「その通り!いやぁ、「あ」て偉大だよねぇ。」


美玲の言葉に、雷人は目を輝かせる。

「一番かぁ..それって何かカッコいいよな!」

「んー..でも、授業で真っ先に当てられたり、予防接種の最初の犠牲者になったりしそう..」

「はは..皆の先陣を切り真っ先に犠牲になる..一番隊長の宿命だよ..」


薄々感じていた事実に、美玲は誇らしげにしながらも少し顔を曇らせていた。


「俺は霧島雷人。趣味は運動すること..かな?真優とは幼い頃からの親友なんだ!」

「えっと..私は鈴本真優。本を読むのが好きで、雷人とは幼なじみ..です。」

「そっかぁ~幼なじみかぁ..。憧れるね~。ところで、さっきは何の話をしてたの?」


美玲の質問に、2人は先ほど話していた事を伝える。


「なるほど..2人のクラスね。えっと..キリシマ..スズモト..」


美玲は何かを考える仕草をするが、少ししてニヤリと笑みを浮かべたような気がした。


「いやぁ~私には分かんないねぇ~。私は自分の名前しか見てなかったから。」

「まぁ、普通そうだよな。俺たちは自分達で確認する事にするよ。」

「うん!じゃあこの辺で!もし同じクラスになったらよろしく~!」


そう言い残し、美玲は軽やかな足取りで教室に戻っていく。


「なんだか、凄い人だったね。」

「そうだな。ところで、もう見ても大丈夫そうか?」

「うん、朝比奈さんと話してたら気が楽になったかも。」


美玲と話している間に、張り紙の前に出来た人だかりも多少マシになった。2人は意を決し、自分たちのクラスを確認する。


1年A組 8番霧島雷人...13番鈴本真優


「お、俺たち同じクラスじゃん!!良かったな、真優!...真優?」


喜ぶ雷人の横で、真優は静かに涙を流していた。


「真優!?大丈夫か!?何か嫌なことでもあったか!?」

「あ!?えっと、違うの。ただ、雷人と一緒のクラスになれたのが嬉しくて..」

「そっかぁ。何にせよ、同じクラスになれて良かったな。これからもよろしくな!真優!!」


雷人は真優に拳を勢いよく突き出す。


「うん!これから一年よろしく!雷人!」


真優も少し恥ずかしそうにしながらも、それに応じるように雷人と拳を合わせる。

お互い同じクラスになれた事に安堵し合う2人。だが、雷人は視線の先で何かを捕らえた。


「どうしたの?雷人?」

「あれ..教室の扉から覗いてるのって..朝比奈?」


その言葉を受け、真優も同じく教室の方に目を向ける。すると、自分たちのクラスである1-Aの教室の扉から、朝比奈美玲がこちらを覗いていた。こちらが気づいたことを察したのか、美玲はサッと教室の方に姿を隠した。


「アイツ..もしかして名前を聞いたときから気づいてたんじゃないのか..?」

「まぁまぁ、良いじゃん、雷人。それより、早く教室に行こう!」


廊下の窓から差し込む朝日に照らされながら、雷人は真優と共に自分たちの教室へと向かう。


雷人は教室の扉の前で一度深呼吸をした後、扉をガラッと開け中に入る。

入った瞬間、周りの生徒からの視線を感じたような気がしたが、すぐに視線は止み、教室の中に居る生徒達は他の人と話す事を再開する。雷人は先ほどこちらを覗いていた美玲に話を聞こうと彼女の姿を探す。すると、真優が美玲を見つけたようで、彼女の方を指さす。美玲は、既に他の女子生徒達と楽しそうに話していた。


「抜かりないな、アイツ。このままこのクラスの全員と仲良くなりそうだな。」

「朝比奈さん..羨ましいなぁ..」


雷人は早速、真優と共に自分たちの席へと向かう。この教室の席の配置は一列で6席分の机が並び、それが計7列分横にズラッと並んでいる。そして出席番号順に左から座っていく為、必然的に出席番号8番の雷人と13番の真優は席が斜め同士である。雷人と席が近いという事もあり、真優はなんだか喜んでいるような気がした。

廊下で話し込んだ事もあり、始業時間まで残り5分ほどであった。自分の席に座っている雷人の後ろの席で、男女3人組が話している声が聞こえた。話を聞いている感じ、彼らも昔からの親友同士で、同じ学校に入学したばかりか、3人全員同じクラスとなっており、喜び合っているようだった。


「なんか、すげぇ偶然なんだな..」


自分たちと言い、まるで奇跡のようなクラス分けに、雷人はポロッと呟き、悦に浸る。しかし、震えた様子で自分の席に来た真優によって、雷人は現実へと引き戻される。


「ど、どどどどどどうしよう雷人...」

「真優?もしかしてクラスに馴染めるか不安なのか?」

「それは..あるかもしれないけど、そうじゃなくて!」

「直前になって、不安になったの。入学式でのスピーチが..」


雷人は、相変わらずの真優の様子にどこか安心感を覚えた。真優は元々成績優秀であったことや、自身の偏差値よりも明らかに低い高校に受験した事もあって、首席で合格する事となった。そこまでは良かったのだが、首席で合格する事によって、入学式の時に新入生代表としてスピーチをしなければならなくなった。元々人前に立つことが苦手な彼女にとっては、最大級に難しいミッションと言っても過言では無い。

悩んでいる真優の背後から、席に戻ろうとやってくる美玲が顔を覗かせる。


「やっほ~!まさか私たち3人とも同じ教室なんて驚いちゃったよ。運命感じちゃうな~。」

「驚いたって..教室の扉から俺たちの事見てたくせに..」

「あー..アレばれてたのか..実は霧島君と鈴本さんの反応が見たくて、こっそり覗いてたんだよね~。ごめんね~」

「別にもう気にしてねえよ。まぁ、これから一年よろしくな!」

「うん!よろしく!ところで鈴本さん、顔色が悪いようだけど、どうしたの?」

「あぁ、それがな..」


(雷人は美玲に事情を説明する。)


「え!?鈴本さんが首席!?しかも代表!?凄いじゃん!!」

「でも..もし途中で噛んじゃったりしたら怖くて..」

「そっかぁ..確かにそれは大変だね..でも、噛んじゃう事くらいなんてこと無いと思うよ?私だって、この前服に値札が付いてるのに気づかないまま街を出歩いた事があったし、その前は向こうで手を振って呼んでいる人を見て自分かと思って手を振り返したら、全然違う人を呼んでたって事もあったし..。」

「え!?朝比奈さんそんな事があったんだ..」

「そうそう。だからもしスピーチで噛んじゃったら、私の失敗談を思い返してみて。きっと少しは気が楽になると思うよ~。」

「それにな、真優。原稿も用意してるし、内容もそれほど難しい訳でもない。真優は良い声してるから、きっと成功すると思うぞ!」


2人の言葉に、真優は一瞬目を見開いた後、少し俯き考え込んだ。だが、すぐに顔を上げ、2人に笑みを浮かべる。


「うん、大丈夫。おかげで少し勇気が湧いたと思う。ありがとう、朝比奈さん、雷人。」

「うんうん!鈴本さん、笑ってる顔の方が素敵だよ~」


顔を赤らめ恥ずかしがる真優。そんな中、扉が開く音がし、先生と思われる男性が教卓の後ろに立つ。


「お前達~もうすぐ始業時間だ。席に着け~。」


教室で話していた人達は一斉に席に座る。美玲も「また後でね。」と言い残し、自分の席へと座っていった。


真優の席は、教卓の目の前であった。先生はチョークを取り出し、黒板に自身の名前を書き始める。


「今日からお前達の担任となる【天竜辰海】だ。まぁ、よろしく頼む。」


どこか不真面目そうな印象を見受けられる辰海先生だが、その適当さが逆に好印象となる。


ザワザワ..

「名前カッコよ!?なんか接しやすそ~」

「私、ちょっとタイプかも。」

「静かにしろ~。今から入学式の説明をする。」


先生から入学式の流れ、移動方法の指示を受け、校内放送の合図と共に体育館へと向かう。真優は後々スピーチをしに前へ出る事もあり、横並びに並べられた1-Aに割り当てられる椅子の、一番前の列に座る事となった。

他のクラスの生徒が歩く音を聞きながら、真優は持っていた原稿を持つ力を強める。そんな時、隣に座っていた天竜先生が真優にこっそり話しかける。


「君が首席の子か。職員会議でも議題に挙がっていた。緊張すると思うが、出来そうか?」


これまでの真優であれば、もしかしたら弱音の一つや二つ、漏らしてしまうかもしれない。しかし、真優には、仲間達が付いているような気がして、不思議と恐れは無かった。


「はい..出来ます。」

「そうか..。そう言ってもらった方がこっちとしても助かる。それに..仮に何かがあっても、お前を助けてくれるやつは居るようだしな。」


真優は先生の視線の先を見ると、近くに座っていた雷人と美玲がこちらをジッと見ていた。真優の視線に気づいたのか、こっそりとサムズアップをし笑いかける。その光景に、改めて、真優は自分の周りに居る仲間達の大切さを思い知った。



校長先生の長い話も終わり、いよいよ自分の番が回ってきた。


「次は、新入生代表によるスピーチとなります。新入生代表、鈴本真優さん。」

「はいっ!」


席を立ち、マイクスタンドの近くまでゆっくりと近づく。会場では、ざわざわと話し声がする。


「新入生代表って事は首席合格って事だよね~。凄すぎ~!」

「何、あの子!?ちっちゃくて可愛い~」

「俺、あの娘を守る為にこの世に生まれてきたんだなぁ..」


マイクスタンドの前に立ち、原稿を広げ、息を整える。そして、ゆっくりと、一文一文読み進めていく。


「暖かい春の日差しに包まれ、桜の花が満開となるこの季節の中、私たちは今日、この私立柊高等学校の門をくぐりました。」


「本日は、私たち新入生の為に式を挙げて頂き、誠にありがとうございます。」


「これからの三年間、柊高等学校で過ごす日々の中で、勉学はもちろん、部活動、生徒会活動においても積極的に取り組み、新たな経験を通して多くのことを得たいと思います。」


「また、新たな経験をしていくにあたり、壁にぶつかり、前への進み方が分からず立ち止まってしまう事があると思います。」


「そんな時は、先生方、先輩方、保護者の皆様に力を借りながら、仲間と手を取り合い、少しずつ前に進めるように努力していきます。」


「この三年間を何となく過ごし、無駄な三年間にしないために、私たちは今まで学んできたことを活かし、それぞれの夢や目標を掴むために、また、まだ目標が見つからない人は自分の目標を見つける為に、日々精進していきます。」


「改めまして、本日は誠にありがとうございました!」


最後の一文を読み上げ、原稿を閉じ、深々とお辞儀をする。それを皮切りに、嵐のような拍手が会場を包み込んだ。達成感故に、真優は安堵の表情を浮かべ、自分の席へと歩みを進めていく。


入学式初日から、2人には様々な出来事が降りかかった。

それでも今日、彼らの物語は始動する。



雷人「...【夢】....かぁ..」


Prologue 【始動】 閉幕


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