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Chapter5 【決着】 5-2

スポットライトがステージを照らすと、そこに姿を現したのは、大人気バンド Gravity・STARs のメンバーたちだった。


センターにはボーカルの 朝比奈迅。彼は青と白の衣装をまとい、堂々とした立ち姿でマイクを握っている。

その隣にはキーボード担当の 瑠華。クールな雰囲気をまとい、静かにキーボードを構えていた。

ベース担当の 楓花 は柔らかい笑みを浮かべながら観客を見渡し、

ドラム担当の 修生 は既にスティックを構え、準備万端といった表情をしている。


会場は大歓声に包まれ、ファンたちは歓喜の悲鳴を上げていた。


雷人は最前列からその光景を目の当たりにし、思わず拳を握りしめた。

「うおお……! 本物のGravity・STARsを間近で……! すげぇ……!」

間近で憧れのバンドメンバーたちを見られることに、興奮を抑えきれない。


美玲もまた、尊敬する兄の姿に目を輝かせていた。

「お兄ちゃん……! 今日も最高にカッコイイ!」


そんな中、迅がゆっくりとマイクを持ち上げる。

彼が一言発するだけで、会場は一瞬で静まり返った。


「 みんな――準備はできてるか?」


観客たちが一斉に歓声を上げる。


「俺たちGravity・STARs、今日はお前らと最高の一日を作るためにここに来た!」


再び大きな歓声が会場を揺るがした。


「ここにいる全員、声を出せるか? もっともっと盛り上がれるか!?」


歓声はさらに大きくなり、会場のボルテージは一気に上がる。


その瞬間を待っていたかのように瑠華がキーボードを弾き始め、修生と楓花も演奏の準備を整える。

そして、ついに Gravity・STARs のライブが幕を開けた――。


Gravity・STARs の生演奏は、ライブ会場を熱気に包み込んだ。


修生 の力強いドラムがリズムを刻み、会場の心臓のように脈打つ。

楓花 のベースがその上に重なり、深みのある低音が空間を満たしていく。

瑠華 のキーボードが華やかに響き、メロディに彩りを加える。

そして、ボーカルの 迅 がマイクを握り、観客を惹きつけるように歌い始める。


「――届け、俺の声!俺の魂の叫び!!」


彼の伸びやかで力強い歌声が響くと、観客たちは一斉に歓声を上げ、ペンライトの光が波のように揺れる。


雷人 は興奮しながらペンライトを振り上げ、

「うおおおおっ!! やっぱりGravity・STARsは最高だ!!」

と叫んでいる。


美玲 も兄の歌声に酔いしれながら、

「お兄ちゃん!格好いいよ~!!」

とノリノリでペンライトを振る。


その姿を見た 真優 も、思わず笑みを浮かべる。

「ふふ……雷人も美玲ちゃんも、すごく楽しそう……」

と嬉しそうにペンライトを振った。


一方、そんな三人の様子を見ていた 凜 は、静かに微笑みながら、少し控えめにペンライトを振る。

普段、騒がしい場所にはあまり縁のない彼女だったが、

こうして妹の真優や仲間たちが楽しそうにしているのを見ると


「……来てよかったのかもしれないな」

と、心の中でそっと思った。


ライブはどんどん熱を帯び、会場のボルテージは最高潮に達していく――。



ーーーーー直後、会場が混乱に包まれるとも知らずに..



演奏が続く度に観客の興奮が増していき、いつしか会場のボルテージは最高潮となっていた。観客の声は徐々に熱量を増していき、それこそ、迅が最初に宣言した【忘れられない一日】となるはずだった。


その時----


雷鳴の如き爆発音が会場を揺るがした。


突如として、ライブ会場の壁が爆風と共に吹き飛ぶ。

破片が飛び散り、悲鳴が響く中、そこに現れたのは――


白い長髪を持ち、禍々しい角と翼を生やした男.....黎。


その髪は乱れ、以前よりも獣じみた雰囲気を纏っている。

黒いオーラがその身を覆い、足元の床がじわじわと焦げ付いていく。

その赤い瞳は獲物を狙う捕食者のように、真優を鋭く射抜いていた。


「……黎!?」


雷人がすぐさま構えようとしたその瞬間――


黎は強烈な突風と共に、一瞬でステージへと急降下する。

地面を踏み砕くような着地と同時に、その手が迅の腕を掴む。


「ッ……!?」


迅が驚く間もなく、黎の腕が黒く変質し、鋭利な刃へと変形する。

その刃はまるで大鎌のように光を反射し、迅の首元へとピタリと添えられた。


「動くな」

彼の冷徹な言葉に、会場が凍りつく。


観客たちは恐怖に息を呑み、誰一人として動くことができない。

雷人や美玲も、思わず拳を握り締めるが、迅の命がかかっている以上、無闇に動けなかった。


黎はそんな状況を楽しむかのように、冷たく笑う。


「盛り上がっている所悪いな……さて、ショーの続きといこうか!」


静まり返った会場に、黎の低く冷ややかな声が響く。

そのまま、彼はゆっくりと顔を上げ、真優の方を見据えた。


「鈴本真優。」


黎は刃の先を迅の喉元に押し付けながら、はっきりと告げる。


「俺の前に来い」


その声には威圧と殺気が込められていた。

拒めば迅の命はない――そう誰もが悟った。


会場の空気は、今にも崩れそうなほど張り詰めていた。


会場が静まり返る。

自分の名前を呼ばれた真優は息をのんだ。


雷人はすぐに真優の前へ立ち、歯を食いしばる。

「ふざけんな……! てめぇの思い通りになんてさせるかよ!」


だが、黎は冷笑を浮かべながら、刃を迅の首にさらに押し当てる。

「……なら、どうなるか分かるな?」


「お兄ちゃん……!」

美玲の顔が青ざめる。


凜も一歩前に出ようとするが、黎は真優が来なければ迅の命はないと言わんばかりの目で見下ろしていた。

緊迫した空気の中、真優の心は激しく揺れ動く――。


雷人はすぐさま真優の腕を掴んだ。

「行くな、真優!」


凜も冷静な声で言う。

「雷人の言うとおりだ。お前が行ったところで、黎が約束を守る保証はない。迅を解放するとは限らない」


二人の言葉は正しい。黎が約束を守るとは到底思えなかった。

だが、それでも真優の心には揺るぎない決意が生まれていた。


――怖い。


黎の姿を見ただけで、全身が震えた。

禍々しい角、異形の翼、そしてまるで闇そのもののような存在感。

普通の人間なら、その場に倒れ込んでしまうほどの圧倒的な威圧感だった。


黎の手は、まるで鋭利な刃のように変形し、迅さんの首に押し当てられている。

わずかに刃が食い込んでいるのか、迅さんの白い肌にはうっすらと血が滲んでいた。


その光景を見て、真優の心臓は張り裂けそうになった。


――私が行けば、迅さんを助けられる?

――でも、黎が本当に手を引く保証なんてない……。

――行けば、きっと私はもう二度と戻れなくなる。


恐怖が全身を支配しそうになる。

足がすくみそうになる。


でも――


ちらりと横を見ると、雷人が怒りに満ちた表情で睨みつけ、今にも飛びかかろうとしているのが分かった。

その隣では、凜が冷静に事態を分析し、何か対策を練ろうとしている。


そして――美玲。


普段は明るく、前向きな美玲が、今は顔を青ざめ、何も言えずに立ち尽くしている。

唇を噛み締め、拳を強く握りしめて、ただ 迅さんの無事を祈ることしかできない。


それを見て、真優の心は決まった。


「……大丈夫。行くよ」


雷人が驚いた顔で真優を見る。

「おい、冗談だろ!? こんなの罠に決まってるって!」


「分かってる。でも……」

真優は、自分の中にある 確かな意志 を感じていた。


「...迅さんを助けたいの」


その言葉は、真優の本心だった。

誰かを犠牲にして、自分だけが助かるなんて嫌だった。

雷人やお姉ちゃんが守ろうとしてくれるのは凄く嬉しい。

だけど、もし自分が何もしなかったせいで迅さんが犠牲になったら――


――もう、後悔するのは嫌だ。


自分の大切な人が、目の前で傷つくのを見たくない。

だから、たとえ怖くても――進むしかない。


「待って……!」


雷人が引き止めようとするが、真優はそっと微笑んだ。


「雷人、大丈夫だよ」


震えながらも、真優は前へ進み出す。


一歩、また一歩と黎のもとへ向かう。

その姿を、雷人も凜も、美玲も、止めることはできなかった。

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