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Chapter4 【過去】 4-3

「お姉ちゃん……?」


真優は涙をこぼしながら、凜を見上げた。


「.....大丈夫だ。」


凜は優しく真優の頭を撫でると、力強く微笑んだ。


「私は犠牲になんかならない。真優を守るために、私も生きる。」


その言葉に、真優の目が揺れる。


「……ほんと?」

「嘘をつくと思うか?」


凜は軽く笑うと、ゆっくりと床に手をかざした。


「……行くぞ。」


悪魔の能力【物力強化】、発動――

凜の手のひらから、淡く光る紫の紋様が広がっていく。


ギギギ……ッ


不気味な音を立てながら、木の床がまるで生き物のようにうねり始めた。


「な、何だこれ……!?」雷人が驚きの声を上げる。

「……木が、伸びてる……?」奏が息をのむ。


ゴゴゴゴ……ッ!!!


床の木材が一気に伸び上がり、壁を作り出していく。

まるで意思を持つかのように、柱が絡み合い、凜たち四人の周囲に巨大な木のドームを形成していった。


「すごい……!」


真優が目を見開く。


「これなら、爆風を防げる...。」


凜は低く呟きながら、さらに力を込める。

木の壁はどんどん厚くなり、頑丈な防壁となっていった――。

爆弾が起爆するまで、残り10秒。



【……時間になりました。それでは皆様、来世ではどうぞ頑張ってください。】


無機質なアナウンスが流れた直後、轟音と共に衝撃波が走った。


ドォォォン!!!!


テレビを中心に激しい爆風が広がり、熱気と炎が小屋全体を飲み込んでいく。


「くっ……!」


凜は奥歯を噛みしめ、木の壁が崩壊しないよう、全身全霊で魔力を流し続けた。


ミシミシミシ……ッ!!!


爆風の衝撃に押され、木のドームが激しく軋む。


「まだ……まだ耐えろ……!!」


凜の額には汗が滲み、視界がぐらつく。魔力の消耗が激しく、足元がふらついた。


「お姉ちゃん!!」


その瞬間、真優がすかさず凜の腕を掴んだ。


「だ、大丈夫だ……!」


そう言いながらも、凜の足は今にも崩れそうになっていた。


「お姉ちゃん、一人で頑張らないで……!」


真優の必死な声が、凜の胸を打つ。

――守られるばかりだった妹が、今、自分を支えようとしている。

その姿に、凜の中に新たな力が湧き上がった。


「……ありがとう、真優。」


再び力を込める。


バキバキバキ……ッ!!


木の壁は最後の爆風を耐え抜き、ついに爆発が収まった。

シン……と静寂が戻る。


「……終わった?」


雷人が慎重に周囲を見回す。

奏は木の壁に手を当て、崩れた部分を確認した。


「……大丈夫みたい。皆、無事でよかった..。」

「……よし。」


凜は大きく息を吐き、真優の肩にそっと手を置いた。


「お姉ちゃん……」


「私だけじゃない。真優が支えてくれたから……助かったんだ。」


二人はしっかりと頷き合う。

しかし――。


「でも、まだ終わりじゃねぇよな。」


雷人が険しい表情で呟く。


「黎は、まだどこかで見てるかもしれねぇ……!」



凜はゆっくりと木の壁に触れ、魔力を引き戻す。


「……解除する。」


木の壁が音を立てて収縮し、やがて力を失い、地面に溶け込むように消えていった。

視界が開ける。


そこにあったはずの小屋は、跡形もなく木っ端みじんになっていた。


爆風の影響で木々がなぎ倒され、辺り一面には燃え尽きた破片が散乱している。


「外だ……」


雷人は空を見上げた。

薄い煙の向こう、夜空に光る星々が、何事もなかったかのように瞬いていた。

だが、その静けさが逆に不気味だった。


「黎は……まだ見ているのでしょうか?」


奏が震える声で呟く。


「わからない……だが、ここまで用意周到な計画を立てた相手だ。油断はできない。」


凜が銃を構え、周囲を警戒した。


「油断せず、全員で固まって動け。」


その言葉に、全員が緊張を取り戻した。

真優がそっと凜の手を握る。


「お姉ちゃん、凄く..怖いけど……私、頑張る。」

「大丈夫だ。私がいる。」


その時――。


ピピッ……ピピッ……ピピッ……


地面に転がる、破壊されたテレビの残骸から、小さな電子音が鳴り響いた。


「っ!?…これは..まさか!」


凜が叫んだ瞬間、テレビ画面にノイズが走り、再びあの声が響いた。


「……やぁ、楽しませてもらったよ、鈴本凜。まさか、あの爆風を凌げる頭脳と胆力があるとは..。」


黎の声だ。


「だが、本番はここからだ。」


次の瞬間、彼女たちの足元が激しく振動するのを感じた。



ふと気がつくと、爆発で辺りに散らばっていた木材の破片や周囲の鉱石が、一カ所に集約されていた。そして...


「っ!?積み上がっていく...!?」


木材は徐々に高さを増していき、最終的にゴーレムのような姿となった。

その体は黒曜石のように黒く、ひび割れた隙間から赤い光が漏れ出している。

高さは優に5メートルを超え、腕は太い柱のようにごつごつとした木材で構成されていた。


「さて、実験開始といこうか。」


黎の冷笑がテレビ越しに響く。

ゴーレムが赤く光る瞳を動かし、ゆっくりとこちらを見下ろした。

次の瞬間――


「ッ……来るぞ!!」


凜の叫びと同時に、ゴーレムの拳が地面に叩きつけられた。

轟音と衝撃で、大地が揺れる。


「キャッ!」


真優がよろめいたが、雷人がすぐに支える。


「っ!?真優!!くそっ、こいつでかすぎるぞ!」


雷人が舌打ちするが、凜はすでに前へと踏み込んでいた。


「悪いが...お前はここで倒す!」


凜は跳躍し、ゴーレムの腕に向かって拳を振るう。

【物力強化】の力が乗った一撃が、岩の表面にめり込んだ。


ズガァン!!


強烈な打撃音が響く。

だが――


「……砕けない?」


凜の拳を受けたゴーレムは、一歩も動いていなかった。

むしろ、その腕の表面が赤く輝き、ダメージを吸収するかのように硬質化していく。


「このゴーレムはな、単純な物理攻撃を受け止め、防御の力に変換する仕組みだ。真正面から殴るだけでは勝てないぞ?」


黎の嘲笑が響く。


「くっ……!」


ゴーレムが再び拳を振り上げ、凜を叩き潰そうとする。

だが、凜はその動きを読み、紙一重で回避した。


「遅い……だが、ただ避けるだけじゃダメだ。」


凜は素早く周囲を走り回りながら、ゴーレムの攻撃パターンを分析する。


「最初に【何か】が周囲の物質を吸収していた。...つまり、コアがどこかにあるはず……!」


ゴーレムの身体を注意深く観察すると、背中の上部分に不自然に光る部分を見つけた。


「……あれか!」


凜は瞬時に結論を出し、ゴーレムの腕を駆け上がった。

ゴーレムはすぐに振り払おうとするが、凜はすでに肩まで到達していた。


「くらえッ!」


ナックルダスターを装着した拳が、コアに向かって振り下ろされる。


「物力強化――

【極限衝破】!!」


圧倒的な衝撃がゴーレムの胸部に炸裂した。


バギィィィィン!!


コアが砕け散る。


ゴーレムは一瞬動きを止め、次の瞬間、身体がひび割れ、崩れ落ちていった。

黒曜石の破片が地面に落ちる音が響き渡り、最後には塵となって消えていく。


...静寂。


「……終わった...のですか?」


奏が恐る恐る呟く。

凜は荒い息をつきながら、コアが完全に砕けたことを確認し、ゆっくりと立ち上がった。


「……ああ、終わったよ。」


そう告げると、凜の拳からナックルダスターがボロボロと崩れ落ちた。



ゴーレムが崩れ落ち、黒い塵が風に舞う中、凜は拳をゆっくりと見下ろした。

手には、物力強化で威力を底上げしたナックルダスターがあった――いや、正確には、崩れ落ちつつある残骸が残っていた。


金属部分はひび割れ、拳を包んでいた補強部品は砕け、力の反動に耐えきれず粉々になっている。

つい先ほどまで凜の拳を支えていた頼もしい相棒が、静かに役目を終えようとしていた。


凜は、そっとその冷たい金属に触れた。


「……よく頑張ってくれた。ありがとう。」


静かな声に、感謝が滲んでいた。


パリン――


金属が最後の音を立て、ナックルダスターは完全に砕け散る。

凜はしばらくその破片を見つめていたが、やがて静かに目を閉じ、深呼吸をした。


――ふと、静寂を破る音が響いた。


「チッ……やるじゃねぇか、鈴本凜。いや、"巡査部長"さんよぉ。」


テレビが再びつき、そこには黎の顔が映っていた。

その表情は笑っていたが、目は怒りに満ちている。


「部下の手製のゴーレムを破壊するとはな。だが、これで終わったと思うなよ?次は必ず、お前たちを地獄の底に――」


バチッ――


黎が言葉を終える前に、テレビ画面がノイズと共に暗転した。

電源ランプも消え、もう二度と点かないことを示すように沈黙する。


雷人が険しい表情で唇を噛んだ。


「……終わったのか?」

「いや……」


凜は倒れたテレビに目を向け、冷ややかな視線を向けた。


「奴は、必ずまた来る。」


その言葉に、真優が震える指で凜の手を握りしめる。


「でも、お姉ちゃんがいる。雷人も、奏さんも。だから……私、もう怖くない。」


凜は驚いたように妹を見下ろし、やがて小さく微笑んだ。


「そうだな、真優。私たちは、族だ。どんな敵が来ようと――守り抜くよ。」


夜空には、穏やかな月が姿を見せていた。

だが、その光をこれから隠そうとするかのように、遠くで不穏な雲が渦を巻いていた。


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