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Chapter4 【過去】 4-2

凜は目の前の光景を理解出来なかった。装飾を外した犯人の顔は、自分たちがよく見知った顔だったのだ。


「...奏……!?」


凜の目が大きく見開かれる。


目の前にいたのは、鈴本奏――

真優のお世話係であり、凜の養子である大学生であった。


「えっ……?」


真優も信じられないといった表情で、息を呑む。


「奏……どうして……?」


呆然とする凜をよそに、雷人が苦しげに声を上げた。


「待ってくれ!!奏さんは悪くないんだ……!」


凜はハッとして、雷人を振り返る。


「どういうことだ?」


奏はポケットから一枚の手紙を取り出し、凜に差し出した。


「……これが....今朝、ポストに入っていて...受け取ったんです……」


凜は警戒しながらそれを開く。

そこに書かれていたのは――


「霧島雷人を指定の場所へ連れて来い。さもなくば、鈴本真優と鈴本凜を殺す」


その署名には――


「黎」 の文字。


「……っ!!」


凜は拳を握りしめた。

奏の震えた声が続く。


「……私にとって、真優お嬢様も、凜様も、大切な家族なんです……。だから……どんなことをしてでも……守りたかった……!」

「……」


凜は拳を震わせながら、怒りと困惑の入り混じった表情で奏を見つめる。


「……奏...何故だ...何故私を頼ってくれなかった!!」

「……っ」


凜の言葉に、奏の目が揺らぐ。

そして、凜は静かに銃を下ろした。


この事件の裏に潜む、黒い影――

黎 という存在に対する怒りとともに、凜は深く息を吐いた。


「霧島雷人……全ては...私の責任だ...。私が不甲斐なかったばかりに...。」

「凜さん...。」


小屋の中に、張り詰めた沈黙が広がっていた。


そんな中、真優はふと疑問を感じ、口を開いた。


「……おかしい……」


凛が奏を問い詰めている間に、真優は手元のスマホを見つめる。


「どうした?」

「……奏さんが受け取った手紙には『雷人を連れてくること』しか書かれていなかったんだよね?……」

「?えぇ、そうですが..。」

「……でも、私が受け取ったビデオメッセージでは、『私とお姉ちゃんが来い』って言われてた……」


真優の言葉に、凛の表情が強張る。


「……待て...!だったら、彼を誘拐したのは奏だけど……あのビデオを送ったのは、別の誰か……?」

「ちょ..ちょっと待ってください!!そもそも、そのビデオメッセージとは何ですか!?私は送った覚えなんてありませんよ!?」

「じゃ、じゃあ...あのメッセージを送ったのって...」


その瞬間――


バタンッ!!


小屋の入口の扉が突然閉じた。


「っ!?」


凛は即座に反応し、扉に駆け寄る。

勢いよく開こうとするが――


びくともしない。


「これは……外側から鍵をかけられた!?」

「どうして……!?」


その時だった。


――ザーッ……


部屋の隅にある古びたテレビが、突如ノイズと共に点灯する。


「……何?」


真優が震えながらテレビを見ると、そこに映し出されたのは――


以前、逮捕されたはずの『黎』の姿。


「……久しぶりだな、鈴本姉妹...。そして...霧島雷人……!!」


黎は薄く笑いながら、まるで再会を楽しむかのようにこちらを見つめていた。


「貴様……何が目的だ?」


鈴本凛は鋭い眼光をテレビに向け、低い声で問い詰めた。

黎は薄く笑うと、手に持ったワイングラスを傾け余裕のあるような仕草を見せる。


「何が目的か、だと?」


黎は邪悪な笑みを浮かべた。


「そんなの、決まっているじゃないか――お前たちを始末することさ!」

「ッ!?」


全員が息を呑む。


「……つまり、奏さんを利用して雷人を連れてこさせたのはフェイクだったってこと?」


真優がそう尋ねると、黎は満足そうに頷く。


「そうとも。そこの緑髪のメイドに、お前たち鈴本姉妹を連れてこいと命じれば……彼女は必ず躊躇するだろう?」


「……っ……」奏は唇を噛む。


「だからこそ、俺は彼女に霧島雷人を連れてこいと指示した。すると、どうなると思う?」


黎は不敵に笑う。


「霧島雷人を攫えば、鈴本真優は必ず動く。そして、鈴本真優が動けば……鈴本凜、お前も確実に動く。」

「……っ……」

「つまり、わざわざメイドにお前たちを連れてこさせる必要はなかったんだ。霧島雷人をエサにすることで、俺はお前たち三人を一箇所に集めることに成功した。おまけに、ここの扉は外から封鎖済みだ――さあ、チェックメイトだ!!」


突如、テレビのスピーカーから不気味な警告音が響き渡った。


ピピピピピピ――!


「……っ、何の音だ!?」


凛が眉をひそめ、すぐさま周囲を警戒する。

すると、黎が面白がる仕草を見せ、ゆったりとした口調で語り始めた。


「さて、そろそろお別れの時間だ。俺の計画は完璧に進行中だからな――丁寧に説明してやろう。」


黎は愉快そうに笑いながら続ける。


「お前たちは今、密閉された小屋の中にいる。そして、その部屋の中心にあるのは……そう、このテレビだ。」


真優は緊迫した表情を浮かべ、息を呑む。雷人は目を覚ましつつあるが、まだ完全には意識が戻らない。


「このテレビには、ちょっとした仕掛けを施してあってな。今から大爆発を起こすようになっているんだよ」

「爆発……だと!?」


凛の顔色が変わる。


「その通り。お前たちはこの小屋ごと、跡形もなく吹き飛ぶ。炎に焼かれ、灰すら残らないかもしれないなぁ……」


黎の声はどこまでも楽しげだった。


「ふざけるな……!!」


凜が震える声で叫ぶ。


「ふざける? いやいや、これは至って合理的な計画なんだぞ?」


黎は冷笑しながら言葉を続けた。


「まず、大嫌いな霧島雷人と鈴本凜を始末できる。そして、鈴本真優――お前の持つ悪魔の力を、私はこの手に収めることができる。」

「っ……!!」


真優の体が小さく震える。


「お前たちは私にとって邪魔な駒だった。だがな、悪魔の力を無駄にするには惜しい。だからこそ、死後にその力を有効活用させてもらうだけのことさ。鈴本真優の悪魔の力は、私のものになる」


黎は淡々と告げる。


「そうすれば、私は完全なる存在へと至ることができる。悪魔の力を持つ新たな神としてな」

「……ふざけるな……」


凛が低く唸った。

黎は皮肉げに微笑む。


「ふふ……では、せいぜい最後の時間を楽しむといい。さようなら、鈴本真優。鈴本凜。そして霧島雷人。」


そう言い残し、テレビの画面はプツンと消えた――。

小屋の中には、警告音だけが響き渡っていた。


ピピピピピ――!!


爆発の時は、刻一刻と迫っている――。



爆弾が起爆するまで、残り3分。


「くっ……!!」


奏が拳を握りしめ、悔しさを滲ませる。


「まさか、ここまで計算されていたなんて……っ!」


雷人も完全に目を覚まし、状況を理解すると同時に険しい表情を浮かべた。


「……俺たち、本当に終わるのか?」


絶望が全員の胸を締めつける。

だが、凜は違った。

冷静さを保ちつつも、凜は必死に活路を探していた。


(何か手はないか……! 何としてでも、奏と霧島雷人を...そして、真優を生かす方法を……!)


爆弾が起爆するまで、残り2分40秒。

凜は周囲を見回す。

この部屋には何がある? 何が使える?

目に入るのは――


まず、窓はない。壁は鉄製であり、外に通じる通気口も見当たらない。

そして、唯一の出入り口である扉は、すでに封鎖されている。


「……だったら、爆発を抑える方法を探すしかない。」


凜は即座に結論を出した。


「……お姉ちゃん……?」


真優が震える声で、姉の真剣な表情を見つめる。


「とにかく、爆発の威力をどうにか減らすしかない。最悪、壁に穴を開けて脱出する方法を模索する。」

「でも、そんな時間……」


奏が不安げに言う。


爆弾が起爆するまで、残り2分20秒。


「時間はない……真優、雷人、奏!できるだけ部屋の隅へ行け!」


凜が叫ぶと、3人は躊躇しながらも指示に従った。


「お姉ちゃん、どうするの……?」

「……この小屋ごと吹き飛ぶなら、爆風をある程度受け流せば助かる可能性がある。テレビを破壊するのがベストだが……爆発を誘発する可能性もある!」

「そんな……」

「時間がない! やるしかないんだ!!」


爆弾が起爆するまで、残り1分50秒。

凜は覚悟を決めた――。


「真優、奏、雷人――どんなことがあっても、生き延びろ!!」


そう高らかに告げると、凜は皆の前に立ち、爆弾の方を向いて椅子を構える。

凜が何をしようとしているのかすぐには読めなかったが、たった一人の家族である真優には、姉の凜が何をしようとしているのかが分かった。


「待って!!...いや……いやだよ、お姉ちゃん……!」


真優の悲痛な叫びが、小屋の中に響いた。


「お願い……やめて……! お姉ちゃんだけが犠牲になるなんて……そんなの……!」


真優は必死に凜の腕を掴み、涙をこぼしながら懇願する。

だが、凜は優しく微笑みながら、妹の手をそっと外した。


「……お前は、泣き虫のままだな。」

「ちがう……ちがうよ!!」

「大丈夫だ、私が必ず守る」


そう言って、凜は真優、雷人、奏の前に立ち、爆風から庇うように構える。


(これでいい……)


どんなことがあっても、私は真優を守る。

その決意を胸に、凜は静かに目を閉じた――

爆弾が起爆するまで、残り1分30秒。



走馬灯なのだろうか。ふと、遠い過去の記憶が凜の中に蘇った。


「……お母さん、行かないで……!」


当時、高校1年生だった凜は、必死に母の腕を掴んでいた。

目の前にいる母は、優しく微笑んでいたが、どこか哀しげだった。


「ごめんね、凜。……でも、お母さんは行かなきゃいけないの。」

「そんなの、納得できるわけない……! 私たちを置いていくなんて……!」

「……あなたも、もう分かっているでしょう?」


母は凜の頬にそっと手を添え、慈しむように微笑んだ。


「お父さんを探さないと……あの人は、きっとどこかで待ってる。」

「でも、真優が……! まだ小さいのに……!」

「だからこそ、あなたがいるの。」

「……え?」

「凜、あなたはお姉ちゃんでしょう?」


母の言葉に、凜はハッと息を呑む。


「真優は、あなたを頼りにしてる。だから……どんなことがあっても、あなたが守ってあげるのよ。」

「でも……っ」

「大丈夫」


母は、ぎゅっと凜を抱きしめた。


「あなたなら、きっとできる」

「……お母さん」

「強くなりなさい、凜。真優を護る為に....そして、【真優を一人にさせないために】...。」


そう言い残し、母は静かに背を向けた。


(行かないで……お母さん……!)


凜は必死に手を伸ばしたが、母は振り返ることなく、遠ざかっていく。

それが、母との最後の記憶だった。


――意識が現実に引き戻される。


(そうだ……私は……)


凜は目を開け、前を見据えた。


(……私は、絶対に真優を守る)


そう、これは宿命なのだ。

どんな状況でも、どんな危機でも、私は妹を守り抜くと決めた――!

そして..その為には、何があっても自分は死んではいけない...!!


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