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Chapter4 【過去】 4-1

「ん...」


冷たい風が頬に当たり、霧島雷人は眼を覚ます。目の前の光景は、いつもの風景では無かった。


「ここ...どこだ?」


雷人は自身の周りにはびこる異常性を目の当たりにする。光があまり当たらず、闇に包まれた小屋。小屋にしては、家具は殆ど無い。そして何より...自分は今、椅子に縛られている状態だった。


「何だこれ...誰だ!!こんなことしやがったのは!!」


大きな声で、この状況を眺めているかもしれない誰かに呼びかける。すると...


コツ..コツ..コツ...


彼の声に応じたかのように、一人の人物が姿を現す。シルクハットと目隠しをつけており、誰かまでは分からない。


「お前..何の為にこんなことをした。」


自身を誘拐した犯人を目の当たりにして、雷人はまず、情報を得ようと探りを入れてみる事とした。


「.....。」


シルクハットの人物は何かを発したかと思うと、突如帽子と目隠しを取る。そして露わになった顔を見て、雷人は大きく驚いた。


「っ!?何で...!?」


風が吹き、扉が軋む音がその場に響く...。



「...ん...ふぁ~..」


朝の光が部屋のカーテンから差し込み、鈴本真優はいつものように目を覚ました。

机の上には、以前迅さんからもらった特等席のチケットが置かれている。


「……ふふっ」


チケットをそっと手に取りながら、真優は小さく微笑んだ。

雷人と美鈴ちゃんと一緒に、あのグラビティ・スターズのライブに行ける。

それだけで、今から胸が高鳴るような気持ちだった。

そんなワクワクした気持ちのままスマホの画面を開くと、雷人からのメッセージが届いていた。


雷人「今日は休む」


「……え?」


思わずメッセージを見つめる。

風邪でも引いたのだろうか? それとも何かあったのだろうか?


「……大丈夫、かな」


少し心配になりながらも、雷人が何も言っていない以上、深くは聞かないほうがいいのかもしれない。

少し残念な気持ちを抱えながらも、真優は支度を済ませ、一人で学校へ向かった。




教室に着くと、すでに美鈴が席についていた。

彼女もまた、迅さんからもらったチケットを大事そうにカバンにしまっているのが見えた。


「美鈴ちゃん、おはよう。」

「あ、おはよう!真優ちゃん!!」


いつものように、美玲はニッと笑いながら元気に挨拶をする。

だが、美鈴は真優の顔を見るなり、少し不思議そうな顔をする。


「あれ? 今日は霧島くんと一緒じゃなかったの?」

「うん……雷人、今日は休むって。」

「えっ、そうなの?」


美鈴は少し驚いたように目を丸くする。


「昨日まで元気そうだったのに……何かあったのかな?」

「わからない...風邪とかじゃなきゃいいけど……」


真優は少し不安そうに呟いた。

雷人が学校を休むのは珍しいことだった。彼はどんなことがあっても基本的に学校を休むタイプではない。

それだけに、何があったのか気になってしまう。


「……じゃあじゃあ、あとで様子見に行ってみない?」


美鈴が提案すると、真優は少し考えて、ゆっくりと頷いた。


「うん……そうしよっか。」


雷人がいない教室は、いつもより少し静かに感じられた。



放課後、真優と美鈴は雷人の家へと向かった。

雷人が朝から学校を休んでいることが気がかりだった。


「……大丈夫かな、霧島くん...。」

「さっきまで雷人からメッセージも返ってこなかったし、もしかしたら風邪で寝込んでるのかもね。」


そう話しながら、二人は雷人の家の前に到着した。

少し緊張しながらも、真優がインターホンを押す。


……シーン。


何の反応もない。


「もう一回押してみるね。」


ピンポーン、と再びチャイムを鳴らすが、やはり応答はなかった。


「……寝てるのかな?」

「うーん、でもメッセージも未読のままだし……ちょっと心配だね」


美鈴と顔を見合わせたが、どうしようもなかった。

真優が「何かあったらまた連絡するね」と美鈴に告げ、二人はそこで別れることにした。


一人になった真優は、夕暮れの街を歩きながらスマホを確認した。

すると、雷人からメッセージが届いていた。


「……雷人?」


少しほっとしながら画面を開くと、そこには動画のデータが添付されていた。



真優は不思議に思いながらも、再生ボタンを押す。

映し出されたのは、薄暗い小屋の中 だった。


「っ……!」


真優は息をのんだ。

画面の中央には、椅子に縛られた雷人 の姿があった。

彼は意識を失っているのか、ぐったりとした様子で動かない。

周囲は埃っぽい雰囲気で、古びた倉庫か廃屋のように見えた。


そして、雷人の近くに 黒いシルクハットとマントをまとい、目隠しをつけた人物 が立っていた。

その人物は、機械的な ボイスチェンジャーの声 で語り始める。


『霧島雷人を預かった。』


『返してほしければ、鈴本真優と鈴本凜の二人きりでここへ来い。』


『ただし、鈴本凜の部下など、関係のない者を連れてくれば、霧島雷人は即刻命を落とすことになる。』


冷たい宣告が、真優の心を凍りつかせた。


「そ……んな……」


動画はそこで終わった。

指先が震える。胸が締め付けられる。


「雷人……っ」


足がすくみそうになるが、今はそんなことを言っている場合ではない。

すぐに真優はスマホを操作し、一人の人物へ連絡を取る。


「お姉ちゃん………!」


震える声で、鈴本凜に助けを求める事に決めた。




指が震えながらも、スマホの画面を操作する。

画面に映るのは、「鈴本凜」の名前。

....すぐに通話が繋がった。


「……真優?どうしたんだ?こんな時間に。」


電話越しに聞こえたのは、鈴本凜の落ち着いた声だった。

しかし、真優は焦りと恐怖でうまく言葉を紡げない。


「お、お姉ちゃん……っ、た、助けて……雷人が……雷人がさらわれたの……!」

「――何?」


凜の声のトーンが一瞬で変わる。


「どういうことか、詳しく説明出来るか?」

「……わ、わからない……っ。でも、ビデオメッセージが届いて、それで、雷人が椅子に縛られてて、犯人が……私とお姉ちゃんに来いって……そう言ってたの……!」


真優の声が震え、息が詰まりそうになる。

電話越しの沈黙の後、凜が低く鋭い声で告げた。


「そこを動かずに待っていろ。すぐに行く。」


それを最後に、通話は終了した。

それからわずか数分後...

エンジン音とともに、一台の黒い車が真優の前で停まる。

運転席側の窓が下がり、凜が真剣な表情で真優を見つめていた。


「乗ってくれ。」


真優は迷うことなく助手席に乗り込み、ドアを閉めると、凜はすぐさま真優の頭を優しく撫でた。


「真優..怖かっただろ..。もう大丈夫だからな...。」

「お姉ちゃん..ありがとう。」

「……落ち着いて、さっきの事をもう一度詳しく話せるか?」


真優は必死に、雷人の誘拐の件、届いたビデオ、犯人の要求を説明する。

凜はそれを冷静に聞きながら、ハンドルを握る手に力を込めた。


「……警察に知らせることは出来ないか。」

「うん……犯人は、お姉ちゃんの部下が来たら、雷人を殺すって……」


凜は考え込むように前を見つめた。


「……それで、犯人の指定した場所は?」


真優は震える手でスマホの画面を操作し、メッセージを確認する。

そこには、廃工場のような場所の住所が記されていた。


「ここ……」

「……ふむ。」


凜は一度ギアを落とし、車を停めた。


「真優、どうする? このまま二人きりで行くのは危険だ。」

「……でも、行かないと雷人が……!」


「...だったら、私が単独で行くという選択肢もある。」

「っ!?それはダメ……! 犯人は私とお姉ちゃんの 二人 で来いって言ったんだから……それに、お姉ちゃんの身に何かあったら..私...!!」


凜は静かに目を閉じ、少しの間考え込んだ。

真優の表情は決意に満ちていた。


「……わかった。」


凜は目を開けると、真優を真っ直ぐに見つめる。


「私たち二人で、指定された場所まで向かう。ただし...真優、絶対に私の側を離れるなよ。約束だ..。」

「うん……!」


こうして、二人は雷人を助けるため、犯人の指定した場所へと向かうことを決めた。



気づけば、すっかり辺りは暗くなっていた。

目の前には、夜の闇に包まれ寂れた小屋。

木々の間を抜ける風が不気味に吹き抜け、錆びついた扉が軋む音を立てる。


凜と真優は、慎重に足を進めながら入口の前に立った。


「……お姉ちゃん……」


不安げに呟く真優を守るように、凜は一歩前へ出る。


「大丈夫だ。私がいる。」


そう言うと、凜は素早く拳銃を構えた。

小屋の中にいるかもしれない犯人に対し、一切の隙を見せるつもりはない。

ゆっくりと、慎重に、扉を押し開ける――


拘束された雷人と、近くにいるであろう犯人。

扉の向こうに広がるのは、薄暗く、埃っぽい空間。


ぼんやりとした明かりの下、椅子に縛られた雷人の姿があった。

彼はぐったりとしていたが、かすかに意識はあるようだった。


そのすぐそばに、黒いシルクハットをかぶり、目隠しをつけた人物が静かに佇んでいる。


「……止まれ。」」


凜は冷静に銃口を向け、犯人に一歩踏み出した。


「霧島雷人を解放しろ。」


犯人は動かない。

その場の緊張感が一気に高まる。


次の瞬間、凜は素早く距離を詰め、犯人の腕を取って拘束した。


「っ……!」

「抵抗するな‼」


犯人の動きを封じ、素早くシルクハットと目隠しを剥ぎ取る――


「...えっ?」


凜は目の前の光景を理解出来なかった。装飾を外した犯人の顔は、自分たちがよく見知った顔だったのだ。

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