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Chapter3 【仲間】 3-1

光の当たらぬ暗闇の中、男は口を開く。。


「よしっ!彼のおかげで【運命】を変えることが出来た!後は...」


そう告げると、男の身体は徐々に崩れ、宙へとばら撒かれていく。


「...その時が来るまで、僕は..眠りにつくとしよう..。僕はダメでも、彼女だけなら、あの男..【黎】から救い出せるかもしれない。」


----空間には、何も残らなかった。



黎の事件から一週間後。朝の陽光が差し込み、窓から吹き込むやわらかい風が、椅子に座る朝比奈美玲を包み込む。

霧島雷人と鈴本真優は、いつものように並んで教室に入り、友人の美玲の席へと向かった。


「おはよう!朝比奈。」

「美玲ちゃん、おはよう。」


雷人がいつも通りの明るい声で挨拶し、真優もそれに続いて挨拶をする。だが、美玲の表情はいつもの明るい顔とは違い、どこか疲れきっているように感じた。


「……おはよう。」

「...朝比奈?何だかいつもと様子が違わないか?」


いつものような柔らかさのある声と違う事に、雷人は疑問を感じた。

真優も違和感を覚え、そっと彼女の顔を覗き込む。


「美玲ちゃん……なんだか疲れてるみたい。大丈夫?」

「え!?...あはは..やっぱりばれちゃうか~。」


美玲は普段と違いどこかぎこちない笑みを返した後、少し戸惑ったように視線を落とし、ため息をついた。


「……実はね、昨日の帰り道、誰かにつけられてたの。」

「……何?」


雷人の表情が一瞬で険しくなる。

美玲は不安げに続けた。


「最初は気のせいかと思ったよ?でも、歩くたびに足音が聞こえて……角を曲がっても、ずっと後ろから誰かがついてきてる感じがして……。」

「それで?」


真優が息を呑みながら尋ねると、美玲は頷く。


「怖くなって、思い切って走ったの。そしたら、どこまでもついてくる気配がしたの。でも、何とか交番まで駆け込んで……警察の人に助けを求めたんだけど……その時にはもう、誰もいなかった。」

「……そいつの顔は?」


雷人が鋭い口調で問う。


「分からない……振り向くのが怖くて、ずっと前だけ見てた。」


美玲は震えるように肩をすくめた。


「本当に怖かった。気のせいかもしれないけど、でも……。」


雷人と真優は互いに視線を交わす。



友人に降りかかる恐怖に、どう対処するべきか悩む二人。


「あ、だったら、お姉ちゃんに連絡して、お姉ちゃんや部下の人達に見張りをさせるのはどうかな?」


真優はふと閃いたように話す。真優の姉、鈴本凜は巡査部長であり、多くの部下を率いている。確かに、普通ならそれが一番現実的であるが...


「うーん...ありがたい提案だけど、今凜さん達は黎の事件の処理で大忙しでしょ?何だか悪いなぁ...。」


美玲は頬を少し緩めながらも、軽くため息をつく。

1週間前、凜が長年追跡していた凶悪犯罪者、黎が、雷人と凜達の活躍によってようやく確保された。現在、凜達は確保した黎の身元の特定、処遇に追われている。妹の真優を寵愛する彼女なら、真優のお願い一つで飛んで駆けつけるのかもしれない。それでも、わざわざ彼女に頼るほどでも無いと、美玲は考えていた。


これまでずっと黙っていた雷人が、高らかに声を挙げる。


「だったら、しばらく俺が付き添うよ!そうすれば何かあっても護れるだろ?」

「えっ……?」


朝比奈が驚いたように顔を上げる。


「そんな、悪いよ……。」

「何言ってんだよ。俺たちは友達だろ?」


雷人は笑って言う。


「そうだよ。何かあったらすぐに言って。」


真優も優しく微笑んだ。

朝比奈は少し戸惑った様子だったが、やがて笑みを浮かべ小さく頷いた。


「二人とも……ありがとう。」


だがこの時、誰も気づいていなかった。

――“何者か”が、彼女を狙っているということに。



授業が終わり、放課後のチャイムが鳴り響く。生徒たちがぞろぞろと教室を出る中、雷人は自分の机の上に置いたカバンを手に取ると、ちらりと隣の席の美鈴を見た。


「よし、朝比奈。一緒に帰るぞ!」

「本当に良いの..?迷惑じゃない?」


美玲は少し戸惑いながら尋ねた。


「言っただろ?昨日の事があった以上、朝比奈を一人にするのも心配だし。これは俺がやりたいからやるの!」


雷人はいつものように屈託の無い笑顔で語りかける。

そのすぐ隣で、鈴本真優も静かに微笑む。


「私も行くよ。一人で帰るのは寂しいから。」

「おっ、そうか! じゃあ三人で帰ろうぜ!」


雷人がそう明るく言いながら、三人で教室を出る。


だが、廊下を歩き出した瞬間、周囲の男子たちの視線が雷人へと向けられた。


「……ん?」


雷人は首を傾げるが、すれ違う男子生徒たちがまるで敵を見るような鋭い目で睨んでくる。さらに、ひそひそとした声があちこちで聞こえた。


「おい、あれ見たか……?」

「霧島が鈴本さんと朝比奈さんと一緒に帰ってる……!?」

「あの二人は一年生の中でトップクラスの美少女だぞ!? なんで霧島が!?」

「……くそ、羨ましすぎる……!!」

「俺、殺意が湧いてきた……!!」


雷人はポカンとしながら、真優と美玲の方を見た。


「なあ、なんか俺、すごい睨まれてねえ?」

「……うん、そうみたい。」


真優が苦笑しながら答える。その隣で、美玲は頬を赤らめつつ、少し居心地が悪そうにしていた。


「別に、霧島君は悪くないよ?ただ、私と真優ちゃんって、ファンクラブが設立する程人気で..。」

「ん? それがなんか問題あるのか?」


雷人は本気で不思議そうな顔をしていた。その天然な反応に、美玲はますます顔を赤らめ、真優は呆れたように小さくため息をつく。


「……雷人って、本当にこういうことに鈍感なんだから...。」

「まぁまぁ、気にしないで行こうよ。」


真優が呆れたように呟く中、美玲は気を取り直し、早くこの場を抜ける事とした。

雷人は周囲の男子たちの怨嗟の視線をまったく気にすることなく、二人の少女を連れて校門を出る。



学校を出た三人は、静かな住宅街を歩いていた。夕暮れ時の空は茜色に染まり、少し冷たい風が三人の頬に触れる。


「はぁ~、今日も授業長かったなぁ。」


雷人は腕を伸ばしながら、大きく息をつく。


「雷人、今日の数学の授業、寝てたでしょ?」


真優が呆れたように指摘すると、雷人はぎくりとする。


「うっ……バレてた?」

「バレるよ。あれだけ寝息出してたし..先生が説明してるとき、思いっきり舟漕いでたもん。」

「ま、まあ、難しい公式とか聞くと、どうしても頭がオーバーヒートするんだよ……!」


雷人は苦笑いしながら頭をかく。それを見て、美玲はクスクスと笑った。


「でも霧島君って、体育の授業になると急に元気になるよね。今日のサッカーの試合、すごかったよ!」

「お、見てたのか? いやー、つい本気出しちまったな!」


雷人は誇らしげに胸を張る。確かに、今日の体育のサッカーの試合では、彼は圧倒的な身体能力で相手を翻弄し、シュートを決めまくっていた。


「でも、ちょっとやりすぎじゃなかった? 相手チームの男子、試合後にぐったりしてたよ……。」

「そ、それは……まあ、全力を出さないと失礼かなって……?」


雷人が気まずそうに言うと、真優がまたため息をついた。


「雷人って、たまに本当に加減を知らない時があるよね……。」

「俺なりに手加減してたつもりだったんだけどなぁ……。」


雷人がぼやくと、美玲が小さく笑う。


「でも、霧島君って優しいよね~。」

「ん? 俺、何か特別な事でもしたか?」

「ううん、ただ……今日もこうして一緒に帰ってくれるし、何か怖いことがあっても、霧島君がいれば安心できるなって。」


美玲はふっと微笑んだ。その言葉に、雷人は少し照れくさそうに鼻をこする。


「そりゃあ、友達だからな! 俺がついてりゃ、大丈夫だって!」

「……うん!」


そんな会話をしていると、隣で真優が微かに微笑んでいた。


「ふふ……。」

「お、真優、どうした?」

「ううん。ただ、こうしてみんなで歩いてるのが楽しいなって思っただけ。」


穏やかな夕暮れの中、三人の笑い声が住宅街に溶けていく。

しかし、その背後では、じっと彼らを見つめる影があったことに、まだ誰も気づいていなかった――。

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