Prologue 【始動】 0-1
霧島雷人は、春の爽やかな朝に胸を弾ませていた。今日は待ちに待った柊高校の入学式の日。希望に満ちた未来を思い描きながら、彼はいつもよりも早く、目を覚ます事となった。
「よし、行くか!」
声を出し自身を鼓舞すると、ランニングシューズを履き、家の扉を開ける。
「母さん!ちょっとその辺走ってくる!!」
まだ静かな町の中で、日課のランニングをする。春の風が彼の頬を撫で、満開の桜が走る彼を見送るように揺れている。まるで、自分がこの日の主役だと言わんばかりの風景であった。
走る最中、雷人はふと、大変だった受験の頃を思い返す。正直、自分があの私立柊高等学校に入学出来るとは思ってもいなかった。別に、それほど名門校..という程でも無いが、それでも、雷人の学力では厳しいくらいの偏差値ではあった。だが、雷人が受かったのは、幼なじみである、鈴本真優の恩恵が大きかったと思う。
彼女とは幼い頃から知り合っており、小学校、中学校共に同じであった。勉強がからっきし出来ない雷人とは違って、真優は定期テストの上位常連組であり、よく授業の分からない所を教えてもらっていた。受験勉強の際も、彼女がいなければ、どれだけ分からない問題が増えていたか、計り知れない。
「あいつには感謝してもしきれないな..」
笑みを浮かべながら、そんな言葉をこぼす。だが、一つだけよく分からない事があった。彼女の実力なら、柊高校よりももっとレベルの高い所に行けたはずだ。だが、わざわざレベルを落として、自分と同じ高校に入学することを決めた。確かに、柊高等学校はここから徒歩で通えるほど近場である。であるならば、彼女がそこを目標にするのも当然であろう。
そうして考え事をしていると、いつの間にかいつものコースを一周していた。家に戻り、汗をかいた身体をシャワーで洗い流す。そして朝食を食べ、ピカピカの制服に袖を通した。
「うん、似合ってるな!」
鏡越しに確認して、ちゃんと制服を着れている自分に少し安堵する。カバンを持ち、勢いよく扉を開けた。
学校に向かう前に、いつものように真優の家の前に立つ。小中学校の時は、どちらかが風邪を引いているとか、そんな時以外は、登校前に毎日のようにこうして雷人が真優の家まで行き、真優を迎える。高校生からはそんな事も出来なくなるのか..と少し寂しくなったが、杞憂だったようだ。約束の時間となり、真優の家のチャイムを鳴らす。しばらくして、制服姿の真優が扉を開け、姿を現す。
「雷人..おはよう」
「おう!制服似合ってるぜ、真優!」
「もう//冗談言ってないで行くよ」
雷人の言葉に、真優は少し緊張がほぐれた。2人は一緒に学校に向かうため、並んで歩き出す。ふと、雷人は気になったことについて聞いてみた。
「そういえば真優、新入生代表のスピーチの方は大丈夫なのか?」
「うーん..勿論原稿は用意したし、何度も練習はしたけど..やっぱり不安だな」
「だったら大丈夫だろ!真優だったらきっと出来るし、いざとなったら俺がいるからな!」
「ふふ、ありがと、雷人」
登校中は、こういった他愛もない会話が続く。これも日課だ。雷人が新しい学校生活への期待を語り、真優はその様子を微笑ましく思いながら、相づちを打つ。2人の間には、心地よい空気が流れていた。
しかし、そんな空気も、一瞬にして切り替わる。2人が河原の近くを歩いている時、人だかりが出来ているのが見える。
「雷人..あれ、何だろ..?」
「確かめてみようぜ」
2人が人だかりに近寄ると、その理由が判明した。小学校低学年くらいの幼い子供が、川で溺れている。必死に浮かぼうと藻掻くが、その抵抗もいつまで続くか分からない。川の側では、溺れている子供の名を必死に叫ぶお母さん。人が沢山集まっていても、救助隊を呼んだり、ただ呆然とみていたり、挙げ句の果てにはこの様子を撮影している者も居た。こんな状況では、子供が本当に溺れ亡くなってしまうかもしれない。
そんな光景を見て、雷人は我慢が出来なかった。
「..真優、ちょっとこれ持ってて」
「え..雷人!待って!!」
真優の制止も聞かず、雷人はカバンとブレザーを預け、すぐさま駆け下りる。人混みを押しのけ、河原まで到達した彼は、自身を鼓舞しながら水の中に入る。周囲はざわめきだすが、気にも止めない。水をかき分け、すぐさま子供の側まで近寄る。そして、子供を抱きかかえながら、陸の方まで上がってこれた。
母親に子供を渡し、親子は涙を流し再会を喜ぶ。
「ありがとうございます!!何かお礼を!!」
「いえ、ただ俺がじっとしていられなかっただけです。気にしないでください。」
母親からこれでもかと言うほど感謝されたが、雷人にとっては、たいしたことでは無かった。
河原を駆け上がり、真優の方まで戻る。
「ごめんな、真優。1人にさせてしまって。」
軽く笑いながら謝る雷人。だが、真優から返事が返ってこない。ただ、身体を震わせていた。
「真優..?」
「..ごめん、雷人。雷人が誰かを助けずにはいられない性格だって事は分かってる..だけど、もし川の流れが急に速くなって、雷人も一緒に流されたらって思うと、私..」
盲点だった。真優の言うとおり、万が一にも自分が犠牲を負う可能性はある。そんな時、残された人達はどう思うのか、考えたことも無かった。
「うん..ごめんな、真優。1人で突っ走ってしまって。だけど、大丈夫。俺はお前を1人にさせない!」
「雷人..うん、ありがとう。」
落ち着いたのか、真優はようやく笑顔を向ける。その瞳には、雷人への信頼と期待が輝いていた。そして、真優からブレザーとカバンを貰う。
「ひとまず、雷人は着替えないと..だね」
「あ、そうだった。」
「「そうだった」って..そのままじゃ風邪引いちゃうよ?」
「ちょうど体操服を持ってきてたし、近くのトイレで着替える事にするよ。」
またいつものように会話する2人。こうして紆余曲折ありながらも、2人は目指すべき場所へ向かう事となった。
人物紹介
【霧島雷人】(きりしまらいと)
容姿:
黒髪のショートで、赤い色の眼をしている。かなり筋肉質。
身長173cm
性格:
・明るく前向きで、どんな困難にも物怖じしない頼れる性格。
・面倒見が良く、特に真優に対しては自然と守りたい気持ちが強い。
・周囲のことをしっかり観察し、冷静に判断する力があるが、自分のことには無頓着な一面も。
・少し天然なところもあり、他人の気持ちに気づきにくいところがある。
特技、特徴:
・高校生とは思えないほどの身体能力の高さ。運動神経抜群で、力仕事も得意。実は料理も得意である。
・困難な状況でも自分を奮い立たせ、周囲を鼓舞するリーダーシップを発揮することがある。
・真優を含む仲間たちのことは呼び捨てで親しげに呼ぶ。
好きなもの→運動、焼肉、友達、日常
嫌いなもの→勉強、友達を傷つける者
真優との関係:
・幼馴染で、普段から信頼関係が厚い。
・真優を「相棒」や「家族」に近い感覚で接しているが、彼女の秘めた恋心には全く気づいていない。
【鈴本真優】(すずもとまゆ)
容姿:紫色の髪で長さはミディアム。髪の色は地毛。眼の色は紫。
身長148cm。
性格:
・内気で控えめだが、心優しく周囲の人々を気遣うことができる性格。
・真面目で努力家。霧島を含む仲間を支えることを自分の役割と考え、行動する。
・繊細で感受性が豊か。喜怒哀楽の表現が少し恥ずかしがり屋なところがある。
特技・特徴:
・勉強が得意で、特に国語や文章理解に長けている。高校受験では首席合格を果たしている。
・静かな趣味が好きで、本を読むことや自然を観察するのが得意。
・霧島のことを「雷人」と呼び捨てで親しみを込めている。
好きなもの→霧島、読書
嫌いなもの→人混み、お化け
霧島との関係:
・幼い頃から霧島に好意を抱いているが、伝えられずにいる。
・霧島の力強さや優しさを尊敬しており、彼と一緒にいるときは自然と笑顔になる。
・自分が霧島にとってどう思われているかを時折気にするが、踏み込む勇気がまだ出ていない。
初投稿となります!このサイトを通じて、皆様に自分の作品を知っていただければと思います!