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復讐劇の終演ーそして、真実が暴かれるー(4)

 




「一度目。首を刎ねられて死んだわ」


 ゆっくりと、歌を紡ぐように。


「二度目。火炙りにされた。簡単に死ねなくて、苦しかった」


 軽やかな足取りで、踊るように。


「三度目。毒を飲まされて、銃で撃たれた」


 ミスティは彼女達に近づいていく。


「四度目。心臓を、貫かれた」


 人を殺した恐怖に震える子供。

 不気味なモノを前に震える子供。

 そんな二人の前で、彼女は笑う。



「今回はどうやって私を殺すつもりだったのかしら?ねぇ、教えてくれない?」



 彼女の垂れ流しの殺意に、狂気に、威圧にセルクラースは冷静さを失う。

 正気じゃなくなる。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっっっ!」


 追い詰められたセルクラースは叫びながら、ミスティに襲いかかろうとする。

 しかし、それは叶わない。敵わない。

 ミスティは……セルクラースよりも強いのだから。


「遅い」


 竜化した腕を僅かに身体をズラしただけで躱し、ミスティはその頭に踵落としを喰らわせる。

 バキンッ!と地面を割りながら、セルクラースの頭蓋は地面に埋まった。


「かはっ!?」

「弱い。弱過ぎる。こんなのに私は殺されていたの?こんな雑魚に私は理不尽な死を与えられていたの?」


  ミスティはそのまま、黒い剣を五本出現させて彼の手足、腹部を貫き地面に縫いつける。

 血を吐くセルクラースの頭を踏みつけて、ギリギリとヒールを押しつけた。


「ねぇ、痛い?痛いでしょうね?でも、これだけじゃあ貴方への復讐として弱い。だから、もっともっと苦しめてあげる。喜んで?」


 ミスティは笑いながら彼から離れ……へたり込んでいたカロリーナの方へと向かう。

 セルクラースは、邪竜が何をしようとしているのかを理解して、悲鳴のような声で叫んだ。


「やめろっっっ!」

「嫌よ。だって、貴方はこの女と結ばれるために私を殺して、何度も時間を繰り返したのでしょう?だから、貴方の前で殺してあげる。苦しんで嘆いて泣いて助けを乞いながら愛しい人が死んでいくところをよぉく見てなさい」


 ミスティの残酷な笑みに、セルクラースは考える。

 どうすればいいのかと。

 一体、どうすれば……彼女を救えるのかと。



 …………その答えは、まさかの()からもたらされた。



「彼女を救いたいですか?」

「…………………え……?」


 セルクラースの側にしゃがみ込んで問うマキナ。

 セルクラースは目を見開いて固まった。


「さぁ、君にヒントです。ゲームでは、君の名前は〝ただの光竜〟ではありませんでした。後は分かりますよね?」

「…………………ぁ……」


 セルクラースは目を見開く。

 そう、そうなのだ。

 《竜と愛と、乙女のラプソディー》においてセルクラースは〝ただの光竜〟ではなかった。

 彼は………。



「《生命の光竜》セルクラース」



 その瞬間、セルクラースの力が膨大になる。

 いや、今まで不安定だった力が安定する。

 名は存在を表し、存在を固定する。

 それによって彼の竜としての力が目覚め(安定し)たのだ。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 セルクラースはその力に任せて、ミスティの放った剣を抜こうとする。

 しかし……。



「あはははっ、おめでとう」



 ザクンッッッ!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっっっ!?」


 マキナの放った無数の剣がザクザクザクッと彼の身体を貫いた。

 何が起きているのか?

 セルクラースは驚き、言葉を失くす。


「馬鹿ですね。僕の言葉を信じて鵜呑みして。僕は君の敵ですよ?」

「な、なんでっ……」

「君は平和な世界で生きてきたんですね。あはははっ、とても愚かだ」


 ニタリと、マキナは笑う。

 とても美しく、とても恐い笑顔で笑う。


「君はここで彼女が何度も殺され、何度も生き返るところを見ているといい」

「や、止めろっ……止めろぉぉぉぉぉぉぉお!」


 セルクラースは、叫ぶ。

 だが、ミスティはその叫びを無視して震えるカロリーナの前に立った。


「恐い?」


 ガクガクと震えて、顔面蒼白で。

 カロリーナは言葉を出せずに、彼女を見上げる。



「私も恐かったわ。痛かった。辛かった。でも、貴女達は私を救ってくれなかったわ。殺したわ。だから、だからね?私はお前達に復讐するのよ。ね?」



 こてんっとミスティが首を傾げると同時に、彼女の首が刎ねられる。

 ただ右手を薙いだだけ。

 それだけでカロリーナは死ぬ。

 首から血を吹き出しながら、その身体が倒れ込む。

 セルクラースは……それを見て……絶叫した。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!カロォォォォォォォォオン!」



 彼の絶叫と共に金色の光が放たれ、カロリーナを包み込む。

 そして………目を疑うような事態が起きた。


「かはっ!?」


 カロリーナの首が繋がり、側に立ち尽くしていた騎士の一人の首が刎ねて死ぬ。

 ミスティは、呆然としているカロリーナに微笑みかけた。



「困惑している?でしょうね?そうでしょう?確かに死んだと思ったでしょう?痛かった?ううん、一瞬だったかしら?でも、これからもっと死ねるから安心して頂戴。その度に貴女は、あそこにいる《生命の光竜》セルクラースの力で生き返るから。私達の周りにいる騎士達の命を犠牲にして生き返るから」



「…………………ぇ……?」


 ブワッッッ!

 カロリーナの身体を漆黒の炎が包み込む。

 彼女は叫びながら、地面を転がった。


「熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いっっっ!痛い痛いよぉっ!助けてぇぇぇっ!嫌なのぉぉぉぉぉぉぉおっ!痛いよぉぉぉっ!」


 地面を転がってもその炎は消えない。

 泣き叫ぼうが、炎は彼女の皮膚を焼き、炭化させていく。


「ぁ……あ"……」


 カロリーナの動きが止まり、その命が燃え尽きる。

 だが、そうすれば次の瞬間には金の光によって蘇生され、側にいた騎士の一人が炭化して死ぬ。


「うふふっ、うふふふふっ!」


 ミスティは黒弾を放ち、カロリーナを殺す。

 黒い剣でその心臓を貫いて殺す。

 爪を剥いで、足を折って、手を折って、少しずつ斬り取って、解体して、生きたまま臓物を晒してから殺して。

 殺して、殺して、殺して、殺して。


 死ぬたびに、金の光がカロリーナを生き返らせた。


 その度に、周りの騎士が死ぬ。


 その光景は地獄だった。

 セルクラースの目の前で愛しい少女が殺されては生き返る。

 その光景は、残酷だった。


 もう、何が何だか……分からなかった。


「…………なん、で……何が……」

「これは君の力ですよ、《生命の光竜》。《生命置換》、というらしいです。自分の死を他人に肩代わりさせるんだとか。君とあの竜姫候補は繋がっている。だから、彼女は死ねない」

「…………ど、う……して……どう、して……」


 マキナは笑って誤魔化すが、これを教えてくれたのは……《破滅の邪竜》の眷属の淫魔が溺愛している堕天使だ。

 セルクラースが無理な時間操作なんてした所為で、直接の接触ができないらしいが……こちらの攻勢の影響で何かしらが緩んだようで。伝達魔法だけはできるようになったらしい。

 そうして彼女が伝えてきたのは、《生命の光竜》の力だった。

 いつか、自分達(こちら)に必要となる情報だと言っていたが……まさかこの決定的な瞬間のためだったとは。

 マキナは本当に、《全知》の力を持つ者が味方側にいて良かったと思わずにはいられない。


「おっとちょっと目を逸らしている間にだいぶ進んじゃいましたね。ほら、愚者君。君の愛しい人が死ぬところを、何度でも何度でも。その目に焼き付けるぐらいに見るといいですよ」


 愕然とするセルクラースの頭を掴んで、マキナは彼がその惨劇から目を逸らせなくなるように固定する。

 今もまだ、カロリーナの悲鳴は響き続け。それに応じて人の命が散っていく。


 この地獄を作り上げているのは……他ならぬこの男、《生命置換》で彼女を生かし続けているセルクラースで。





 この光竜の力によって──……彼女の死は、理不尽な死は。まだまだ簡単には終わりそうになかった。





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