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邪竜の子孫は、狂った世界で繰り返す。

 




「僕は《迷霧の幻竜》……名をマキナと言います。僕の主人、《破滅の邪竜》の子孫であり、先祖返りである君のお手伝いに来ました」



 ミスティはそれを聞き、困惑した顔になった。

 タリストス王国は竜神信仰をしている国だ。そのため、竜という存在はまさに神に等しい。

 目の前の青年……マキナは、そんな竜であると言ったのだ。

 幼い頃から竜神信仰をしているミスティが困惑するのも仕方ないだろう。

 それに……。



「………私が……邪竜の、子孫?」



 外見には分かりやすい特徴が出ていなくても。数多の種族が入り混じったため、混血化が著しいこのご時世。

 それを理解していても、自分が竜の子孫だと言われれば困惑せずにはいられない。


「えぇ。それに先祖返りだ。現に君の姿は変わったでしょう?」


 マキナはそう言いながら再び彼女の艶やかな黒髪を撫でる。

 しかし、ミスティはその手を振り払いながら冷たい目を向けた。


「許可なく触るな」

「おっと……失礼」


 マキナはクスクス楽しそうに笑うが、ミスティはその冷たい顔の下で驚かずにいられなかった。

 今までの自分は、はっきり言って薬にも毒にもならない人間だった。

 魔法の力も人並み程度。

 性格も平凡で、容姿はそこそこ程度には整っていたかもしれない。

 しかし、それだけだった。

 いや、それ以下の……何よりも価値がない存在だった。



 父──ドラグーン公爵とミスティの母は政略結婚で、公爵には愛している女性がいた。

 母は夫の愛が自分にないことに悩み……身体を壊して徐々に病弱になっていた。

 そして、先日。とうとう母は死んでしまった。



 何が言いたいかと言うと……母が死んだことで、ミスティを守る者は完全にいなくなり、公爵家にいらない存在だったのだ。



 だから、部屋も令嬢らしくない隅の粗末な部屋で。

 いくら叫ぼうと、誰かを呼ぼうと自分でするしかない。

 なのに、四大公爵家の中で一番力がないのがドラグーン公爵家で。

 権力が集まり過ぎないようにする政治的な理由で……ドラグーン公爵家のいらない令嬢は、王太子の婚約者になるしかなかった。



 いらない令嬢は目立ってはいけない。

 高慢な態度でいてはいけない。

 いくら他の令嬢達に相応しくないと言われようが。

 どれだけ酷い視線に晒されようが。

 ミスティはただ、この環境を受け入れるしかないただの少女だった。

 解決できるような術など、知らなかった。

 貴族令嬢は箱入り娘だというけれど、ミスティの場合は放置されていたからこそ知識がない──そんな存在だった。



 だから、どうでもいい存在でしかない自分がこんなに冷たい言葉を放ったことに、ミスティ自身が驚いてしまったのだ。



「まぁ、色々と思うところがあると思いますが……まずは確認から始めましょうか。信じる信じないは話をしてからでも大丈夫かと思いますよ?」

「…………私よりも強者である貴方の提案なのに、私に拒否権はあるの?」

「えぇ。この狂った世界にずっといたいなら、僕の話を聞かなくても構いません」

「…………………」


 その言葉はつまり、人生を繰り返している理由が分かっている。もしくは手がかりがあるということだと、ミスティは考察する。



 〝狂った世界〟──。



 言い得て妙だとミスティは乾いた笑みを浮かべた。

 何度も死ぬ世界など、狂った世界以外のナニモノでもないのだから。


「いいわ。聞かせて」

「ありがとうございます。では、まず……貴女のお名前をお聞きしても?」


 にっこりと笑うマキナに、ミスティは真顔になった。

 早速本題に入ると思ったのに、まさかの名前を聞かれるなんて思わなかったのだ。

 ミスティは真顔のまま、冷たい空気を纏いながら答える。


「……………ミスティ・ドラグーン」

「ミスティ嬢ですね。では、説明を分かりやすくするためにも、少し記憶を覗かしてもらえます?」

「…………竜というのはそんなこともできるの?」

「えぇ。得意不得意はあれど、はっきり言って竜という存在はできないことの方が少ないですよ」

「……………好きにすればいいわ」

「では、触れますね」


 マキナはそう言って彼女の額にゆっくりと触れる。

 温かい手。

 誰かの温もりを感じるのはいつ振りだろう?

 ……ミスティは思わず、そんなことを思ってしまった。


「ありがとうございました」


 時間にしては数秒程度。

 あまりの手軽さに彼女は目を瞬かせる。


「もう終わったの?」

「えぇ。僕は幻覚・精神干渉などを得意とするので。記憶を探るくらい造作もないですよ」


 マキナは笑みを消して、真剣な様子になる。

 そんな彼を見て、彼女も纏う空気を真剣なモノに変えた。


「何からお話するべきか。まぁ、貴女が人生を繰り返している……というのは、縁を感じてしまいますね」

「……どういうこと?」

「まずはそこから語りましょう。我が主人──貴女の祖先、邪竜とその花嫁の物語を──……」





 それから語られた物語は、ミスティが目覚めた力の根源。

 《破滅の邪竜》と《邪竜の花嫁》の物語。



 世界を滅ぼす、全てを破滅に導く存在──邪竜ラグナ。



 そんな彼が愛した花嫁ミュゼは、五度目の人生で自身が何度も死んでは人生を繰り返していることに気づく。



 その原因となっていたのは、一人の転生者の存在。



 乙女ゲームなる恋愛シュミレーションの世界だと思った彼女は攻略対象──邪竜ラグナの寵愛を得るために、花嫁を殺してタイムリープを繰り返していたらしい。

 だが、四回目の最後で邪竜が介入したことで花嫁は人生を繰り返すことに気づき、邪竜も五回目の人生で彼女が死ぬ前にその手を取ることができた。


 それから、邪竜は四回の人生で自身の花嫁を殺した者達──攻略対象の四人の青年達に復讐を行い、最後は自身が生み出した箱庭セカイに帰ったという。





 人生を繰り返していると気づいたミスティ。

 邪竜の力に目覚めたミスティ。

 確かに、縁があるとしか思えない状況だった。


「………で?私が人生を繰り返しているのは、四回目の()()が理由ってこと?」

「ご理解が早いですね」


 四回の人生の中で共通するのは、とある少女の存在と最後のシナリオ。

 ミスティは、全ての人生の中で竜姫(竜の力を使うことができる聖女のようなモノ)候補生カロリーナ・ディスンを虐めたと冤罪を着せられる。

 そして、それは王太子妃となる者として相応しくないと婚約破棄され…………死ぬ。


 死に方はただ一つ。

 カロリーナと、彼女と恋人になった男性に殺されるのだ。



 一度目の人生では、彼女と王国騎士。

 大きな両手剣で首を斬られて、死んだ。


 二度目の人生では、彼女と教会の神官。

 磔の刑に処され、国民達の前で焼死した。


 三度目の人生では、彼女と自身の異母弟。

 毒を飲まされ、銃で頭を撃たれて死んだ。


 四度目の人生では、カロリーナと婚約者である王太子。

 竜姫の力──光の鎖で縛りつけられ、その時、ミスティは竜姫の力に触れたことで邪竜の力に覚醒し、竜化した。

 人々はミスティが竜になったことで、自分達は信仰の対象を害したのではと混乱したが……結局、カロリーナが王太子に与えた聖剣で、心臓を貫かれて死んだ。


 そして……今回の五度目。



 記憶が戻ったのは、四度目で邪竜の力に覚醒したからだと思える。


「邪竜の力でタイムリープに気づけたわ。でも、タイムリープをしている原因は?」

「……前回のタイムリープは、ゲームだと思っていた偽物聖女が持っていた……神の力(バグ)が原因です。ですが、今回は……」

「今回は?」


 マキナは目を閉じてから、ゆっくりと開く。

 そして、真剣な声で告げた。





「はっきり言って分かりません」






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