幕間・その頃、《破滅の邪竜》の箱庭では
「そう言えば……最近、マキナさん見ないな」
《破滅の邪竜》ラグナの箱庭──その中にある唯一の屋敷。
リビングに置かれたソファに座った淫魔と毒竜の力を持つエイスは、ぽつりと呟いた。
彼の膝の上でキョトンとした人間と天使のハーフであり、堕天使のアリスは、顎に指を添えて……こてんっと首を傾げる。
「今、ラグナ様の子孫の令嬢のところにいるのです」
「そうなのか?」
「はいです!馬鹿な竜の隔離箱庭に介入してるので、暫くは帰ってこれないと思いますよ?」
「………………ん?」
アリスは、とある竜がとある目的のために、タリストス王国という国を箱庭化して、時間を繰り返しているのだと。
その中で邪竜の子孫が何度も殺されていたのに気づき、マキナも彼女のお手伝いをしているのだと告げた。
「つまり、花嫁様と同じ状況になってるのです」
「え?それならオレ達も行った方が……」
かつて、ラグナとその花嫁ミュゼの復讐を行った時は、エイス達も手伝いをした。
だから、今度はマキナの手伝いをした方が……と思ったが、アリスは首を横に振る。
「無理ですよ。言ったでしょう?隔離してるって。箱庭化してると、箱庭内はその創造主の思い通りになるじゃないですか。馬鹿竜はあの箱庭内の時間を何度も何度も、なぁ〜んども!無理やり繰り返してるのです。でも、馬鹿竜は時空竜じゃないので、かなーり無理をしてるのです。タイムリープはもう起きないので、一年ぐらい自然崩壊するのを待つか。馬鹿竜を始末するかをすれば、帰ってこれるのですよ」
「…………ふぅん?」
「それに、時空竜じゃないのにタイムリープなんてしてるから、色々と因果律が捻れちゃってるのです。マキナ様は幻術が得意ですから、その因果律を強引に幻術で誤魔化して介入しました。他の人じゃこうはならないのです。下手に外から介入しようとしたら、中の人達もまとめて大爆発ですよ」
「……………うっわぁ……それは面倒だな」
「なのです。だから、マキナ様をお手伝いすることはできません。それに、大丈夫ですよ?私が保証するのです」
ドヤッと胸を張るアリス。
彼女には全てを知る力……《全知》がある。それは過去も、現在も、未来も知ることができる力。
そんな力を持つ彼女が問題ないと告げるなら、大丈夫かとエイスは納得した。
「まぁ、あのヒトなら大丈夫だろ。オレと違って、純血種の竜だしな」
「ですね。それに、邪竜の子孫さんもかなり濃く先祖返りしてるので、これ以上、戦力があったら過剰戦力で危ないのです」
「ん?そうなのか?」
「そーなのです。マキナ様が二人いる感じです。それも邪竜の血ですからね?」
「…………あぁ……心配するだけ無駄だな」
そう呟いたエイスは、膝の上に座るアリスを抱き締める。
アリスは「きゃ〜♡」と言いながら、頬を赤くして。
結局のところ、この屋敷にいるモノ達は自身の大切なモノがあれば良いと思ってしまうタイプなのだ。
マキナがいない邪竜の箱庭で暮らすモノ達は……どこまでもマイペースであった。




