表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人狼は静かに暮らしたい  作者: 古月
第2部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/64

第64話 焼き肉パーティ

 中間テスト最終日が終わった。雉真(きじま)と答え合わせをした限り、赤点は回避していそうだ。


 戌井(いぬい)は軽い昼食を摂ってから『リトリト』でバイトをしにいく。メモ帳を眺めながら、注文されたリトリト・ラテを慎重に作る。受け渡しカウンターにマグカップを持っていき、ニコニコしている草鹿(くさか)総一郎(そういちろう)に手渡した。


 戌井(いぬい)は何も言わなかったが、清水野(しみずの)動物園は廃園の危機を乗り越えたのだろうと予想できた。


 いつも「笑顔、笑顔」と注意してくる先輩の女の子が、戌井の表情を見てぐっと親指を立てている。


 夜になって焼肉屋に行くと、既に日和(ひより)猫屋敷(ねこやしき)雉真(きじま)が到着していた。日和(ひより)猫屋敷(ねこやしき)は隣同士、雉真(きじま)は向かいの席に1人で座っている。後で鳩貝はとがいウツロとカモメちゃんが来ることを考えると、3人ずつ座るのがよいだろう。戌井(いぬい)日和(ひより)の隣に腰を下ろした。


「ねえねえ、テスト終わったけど『ユイシロ・マスター』の使い心地はどうだった?」

「かなり良かった」戌井(いぬい)は言った。

「おいおい、そんなのあるなら教えてほしかったぜ。猫屋敷(ねこやしき)さんが良ければ、次は俺も使わせてくれ」

「もちろんいいよ。ひよりんはこんなアプリなくても勉強できるから、微妙だったかな」

「そんなことありません。ただ私が欲しいのは……読み上げ機能ですね。『ちごのそら寝』はもう二度と音読したくありません」

「ちょっと、戌井(いぬい)くん。ひよりんに何したの?」

「音読してもらっただけだ。俺が傷を縫っている間に」

「想像したらシュールすぎる」雉真(きじま)が言った。「日和(ひより)さんにトラウマ植え付けんな」


 そこへ鳩貝はとがいウツロとカモメちゃんがやって来た。ウツロは雉真(きじま)の隣に、カモメちゃんは戌井(いぬい)の膝の上に乗ってくる。


「どもども。鳩貝はとがいウツロ、探偵です。どうぞご贔屓に」


 ウツロは雉真(きじま)に名刺を手渡している。雉真(きじま)はウツロを怪訝けげんそうに見つめた。


「あのう……戌井(いぬい)のそっくりさんと一緒にいませんでした? 車を運転していて俺を助けてくれた……」

「あー、たぶん他人の空似じゃないかな」

戌井(いぬい)のそっくりさんと一緒にいた人のそっくりさん……ってこと?」

「そゆこと」


 もう雉真(きじま)に全て話してもいいのではないか、という気もするが、話せば日和(ひより)のように戌井(いぬい)を手助けしようとして悪事に加担させてしまうかもしれない。雉真(きじま)は暴力や血生臭いことには耐性がないので、巻き込みたくはなかった。


「ところで君の名前は? 息子のお友達なんだろ? よく見たら可愛い顔してるね」

雉真(きじま)っす。ええっと……」

「おい」


 戌井(いぬい)はウツロをたしなめた。


「こいつに手を出すなよ」

「ボクを何だと思っているんだ? 未成年には手を出さないよ。そういや猫屋敷(ねこやしき)ちゃん、人工肉の研究しているんだって? ボク、その手の研究に熱心な大学教授と寝て……ねんごろだから、話し合いの約束とか取り付けられるかも」

「本当ですか!? 詳しく教えてほしいにゃ」

「あ、じゃあ席替えします?」雉真(きじま)が言った。「向かい合った方が話しやすいですし」


 雉真(きじま)とウツロが席を入れ替わり、ウツロと猫屋敷(ねこやしき)は2人だけの話を始めた。


「お肉まだ~?」


 カモメちゃんが言うと、ようやくホルモンと牛タンが運ばれてくる。


「色々突っ込みてえが」雉真(きじま)が言った。「俺は肉を食うことに集中するぞ」

「それでいい。肉を焼くから、膝から下りてくれないか」


 戌井(いぬい)がカモメちゃんに向かって言うと、彼女は「やだ」と首を振る。


「お肉なら私と雉真(きじま)くんが焼きますので、カモメちゃんはそのままでいいですよ」

「そうだぞ。戌井(いぬい)に肉を任せたら、ボーッとして焦がすに決まってる」


 戌井(いぬい)が不服そうに唸ると、日和(ひより)雉真(きじま)はその様子を面白がって笑う。


「あっれえ~? 戌井(いぬい)くんじゃあないか。進路決まってる~?」


 見覚えのある赤いポニーテールが視界に入ったかと思えば、赤熊隊長が肩に手を回してきた。彼女からはいつもイチゴの匂いがするが、今は酒のにおいが混じっている。


「まさかこんなところで出会うとは。これは運命だね。君はSTに入るべきだ」

「赤熊隊長、どうしてここに?」日和(ひより)が言った。

「ブラスターが『白狼被害者の会』を開いたんだ。私と馬庭(まにわ)を誘ってな。馬庭(まにわ)ヤヨイって知ってるかい?」


 戌井(いぬい)はよく知っているが、首を振った。


「バイクの運転が上手い、すごいやつだよ。逃げる白狼に追いついたのは彼女だけだ。でもレインコートの男にやられたらしい。私がやられたのと同じ奴だな。つまり、レインコートの男は白狼だったってわけだ」

「赤熊。学生たちに恥ずかしい失態を語らないでちょうだい。品性の欠片もないのね」


 馬庭(まにわ)ヤヨイが腕を組みながら言った。彼女はバイクを運転するので酒は飲んでいない。


「肉が来たわよ。どっちが多く食べるか勝負しましょ」

「なんでいちいち私に張り合うんだ? まあいいだろう。肉を食べながら白狼を倒す作戦を練ろうじゃないか。私と馬庭(まにわ)が力を合わせれば、白狼を追い詰められるかもしれない。今度バイクの後ろに乗せてくれ」

「あ、あんたなんか誰が乗せるもんですか!」

「ブラスターさんがこの会を開いたということは」日和(ひより)が言った。「彼もここへ来るんですか?」

「いや、あいつは来ない。『私は白狼の被害者じゃないんでね』とか言ってな」

「ふんっ。ショットガンの弾、受け止められたくせに」


 赤熊と馬庭(まにわ)が自分の席に戻っていくと、人狼組――戌井(いぬい)猫屋敷(ねこやしき)、カモメちゃんはホッと息をついた。ウツロはテーブルの下に隠れていたので這い出てくる。


「みんなどうした? 肉焼けたぞ」


 何も知らない雉真(きじま)だけが能天気に肉を食っていた。


<第2部 完>

数ある作品のなかで、本作を第2部の最後までお読みいただき、本当に本当にありがとうございます。


もしご感想などありましたら、好きなキャラや面白かったシーンなど、ひと言でもかまいませんのでお聞かせいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ