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【連載版】悪食鑑定リィナの平和な食事  作者: こふる/すずきこふる
五章 バクシン王女、ヒルデガルド
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第33話 波乱再び

 

 会場に戻ると、リィナ達に気付いたレイモンド公爵が慌てた様子でやってきた。


「あぁ、リリーナ! 大丈夫かい? 気分は悪くないかい?」


 リィナは頷いて答えると、レイモンド公爵は安心しきった様子で笑みを浮かべた。


「よかったぁ~。君に何かあったら私は君の家族に顔向けができない」

(そんな大げさな……)


 リィナはヴェール越しで苦笑をしていると、ユリウスが小声で「バルロード侯爵令嬢は?」と訊ねる。


「彼女なら、そこだよ」


 レイモンド公爵が視線を向けた先には、バルロード侯爵令嬢が取り巻きを連れてこちらを睨んでいた。


(こっわ……)


 女性の嫉妬は怖いというが、あそこまで露骨に敵意を向けてくるとは。貴族は腹芸が得意と聞くが、彼女はどうでもないようだ。


「大丈夫だよ、リリーナ。私や殿下のそばにいれば、何もしてこないさ」


 リィナの心情を察してレイモンド公爵がそう言い、ユリウスが肩をすくめる。


「まったく、彼女も懲りないね……」

「殿下がもう少し上手なあしらい方を覚えてくだされば……」

「……次回からは善処しよう」

「では、殿下の今後に期待して……ところでリリーナ。お腹は空いてないかい? 先ほどの料理はダメになってしまったが、別のテーブルに新しいものが用意されたよ?」

(ご飯!)


 料理という言葉を聞いただけで、リィナは先ほどの嫌な記憶が吹っ飛んでしまう。うきうきした足取りで向かった。

 レイモンド公爵が言っていた通り、先ほどとは違った料理がテーブルに並んでいる。夜会が始まってしばらく経ったのもあるのか、デザートが多めである。


(あれも美味しそう……あ、これも!)

「リリーナ、これはどうかな?」


 レイモンド公爵が差し出してきた皿には白いプリンのようなものが乗っていた。


(ババロアだ!)


 リィナが頷きながら受け取り、一口目を食べる。


 ちーんっ!

 分析結果『おいしい」


(ん~、美味しい!)


 口いっぱいに広がるバニラの香りにリィナは恍惚としていると、レイモンド公爵はさらに続けた。


「リリーナ、フルーツも好きだったよね? ババロアの次は苺タルトとかどうだい?」

(苺タルト!!)


 リィナが目を輝かせたところで、ユリウスの不機嫌そうな声が聞こえてくる。


「ちょっと、甘やかしすぎでは?」

「いいじゃないか。幼い頃から知っている子がこんなに美味しそうに食事をしているのを見ているとおじさんはつい嬉しくてね」

「はぁ……そうですか」


 呆れまじりのため息を漏らしたユリウスは、リィナが食べている様子をじっと見つめた。


(なんで、こっちをずっと見てるのかしら? あ、もしかして、殿下も食べたいとか?)


 しかし、毒見も無しに彼が食べるわけにはいかないだろう。夜会の食事を食べることを条件にリィナは彼のパートナーとなったが、彼を差し置いてずっと食べるわけにもいかない。


(とはいえ、人前で口をつけたものを食べさせるのは違うよなー……うーん?)

「どうしたんだい、リリーナ嬢?」


 リィナの手が止まっていることに気付いたのか、ユリウスにそう声を掛けられた。リィナがなんとなく自分の皿に目をやると、彼はにっこり笑った。


「もっと食べたいのかい? なら、たんとお食べ」

(違う違う!)

「そんなに首を振らなくとも。ああ、もしかしてババロアが気に入ったのか? 君の食事担当に言って、レパートリー増やしてもらう?」

(シャルマさんのババロア⁉ 食べたい! って、違~う!)


 リィナが首を横に振っているのを見て、ユリウスはどこか嬉しそうだ。なぜこんなにも笑うのだろう。


(むー、喋られないって大変)


 再び、リィナがババロアを食べていると、ふとお手洗いに行きたくなってきた。


(どうしよう……着替えた時に行けばよかったな)


 そわそわしているリィナに、ユリウスが耳打ちする。


「どうした?」

「ちょっとの間、そばを離れてもいいでしょうか?」


 リィナは小さな声で言うと、ユリウスは察してくれたのか頷く。


「控室に行けば侍女がいる。そこまで付き添うよ?」

(いやいやいや!)


 控室までとはいえ、王族にお手洗いに付き添ってもらうってどうなのだ。


「とはいえ、君に興味がある貴族とかに話かけられたらどうするんだ?」

(うっ)

「それと、私を一人にするつもりかい?」


 ユリウスの言う通りだ。リィナは渋々頷き、控室までユリウスについてきてもらうことにした。



 お手洗いを済ませた後、リィナは侍女を連れてユリウスがいる控室に戻ろうと廊下を歩いている時だった。


「見つけましたわ~~~~っ!」


 聞き覚えがある声がしリィナが振り向くと、ヒルデガルドがこちらに向かってきていた。しかし、彼女のそばにアイリーンの姿がなかった。


(あれ? なぜヒルデガルド殿下が?)


 隣にいる侍女も一瞬顔を強張らせ、廊下の端によった。


「リリーナ様、わたくしとお友達になってくださいませ!」

(え~~~~~~~~~~~っ⁉)


 あれだけユリウスに言われていたのに、まだ諦めていなかったのか。


(というか、アイリーン様は⁉)

「ああ、アイリーンは撒いてきましたわ! 結構アイリーンはうっかりさんなところがあるのです」


 リィナがアイリーンの姿を探しているのを察して、ヒルデガルドは胸を張って言った。


「ユリウス兄様もアイリーンもダメと言いましたが、肝心のあなたの意見を聞いていませんわ! ご本人がいいと言えば、ユリウス兄様もアイリーンも諦めるはずです!」

(いや、殿下は相手に『いいえ』と言わせない身分だということを忘れていませんか⁉)


 ユリウスはそういった立場であること理解して、こちらの意志を確認してくれるが、彼女はそれを分かっていなさそうだ。さすがについてきた侍女からの助け舟を期待できない。

(どうしたものかしら……)


 ニコニコして返事を待っているヒルデガルドに、リィナは身振り手振りを使って返事ができないことを伝えようとしてみる。


(殿下、私はあなたと対等の友達になれるほど、釣り合いがとれる身分ではないんですよ! 伝われ! 私のパッション!)

「ああ、そういえば、あまり声が出せないとアイリーンが言ってましたね。首を縦か横に振るだけでよろしくてよ!」

(何、その究極の二択⁉)


 リィナとしては返事を全力で濁したいのに。


(あ~~~~っ! どうすれば、いいの~~~~⁉)


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