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第17話 ユリウスVSチャーリー

 

 シャルマとリィナがチャーリーの話をしていた同時刻。ユリウスは円卓に同席する少年とにらみ合っていた。


「殿下、ご提案頂いた候補の中でこちらは夏のお茶会の演奏にはいささか陽気すぎるかと。もう少し落ち着きある曲がいいと思います」


 そう言ってくるのは、件の少年、チャーリー・セイレン侯爵子息。オレンジがかった赤毛は色鮮やかでくせ毛は綺麗にまとめられている。伏せ目気味の瞳はいつもであれば、やる気なさげにしているのに、今日は好戦的な目つきをしていた。


「お茶会だからこそ、明るい曲がいいじゃないか。緩やかなワルツがずっと流れるわけだし、もっと遊び心があってもいいだろう?」

「個人的なお茶会やお若い方が集まる社交の場であるならウケると思いますが、今回は国外からもお客様がいらっしゃいます。今回、ルーヴェン殿下はフィリップ殿下のお考えに寄せて会場準備をしているご様子。この曲では浮いてしまいますよ」


 チャーリーが見せてきたのは、兄二人から聞いてきたであろうメモだった。前に兄達と顔を合わせた時に、第一王子ルーヴェンはフィリップと話し込んでいたのを覚えている。次に顔を会わせる頃にはお茶会の雰囲気や内容が固まり、折衷案が採用になるだろうといくつか曲の候補を選んできたつもりだった。しかし、ユリウスの予想を斜め上に飛び越えた内容だった。


「これは意外だな……夏らしい涼やかな内装じゃないか」


 清流を彷彿とさせる淡いブルーを基調とし、清潔感のある白と重厚感があり、王室を象徴するロイヤルブルーをところどころ使うことで可愛らしすぎない品のある印象を与えていた。


(ルーヴェン兄上……さては考えるのが面倒くさくなったな?)


 ルーヴェンは身体能力を向上させる祝福の持ち主で、頭が切れる方ではあるが、フィリップのように流行りものには興味がない。今回フィリップが担当する食事の雰囲気に寄せたのはきっと例年のフィリップのダメ出しが効いたのだろう。


『ルーヴェン兄上~、これじゃザ・独裁者。もしくは魔王の宴だよ! オレ達はもてなされる側じゃなくて、もてなす側だからね? 聞いてる~?』

『何、この肉、肉、肉、脂、時々デザートとかいうメニュー。食事が原始時代から現代に超躍進遂げてるじゃん。食い合わせとか考えてよね~? 聞いてるの~? ねぇ~?』


 ぷりぷりしながら小言を漏らすフィリップにルーヴェンが両耳を塞ぐ様子を思い出してしまった。


「分かった。では、こちらにしよう。私もフィリップ兄上にダメ出しはされたくないしね」

「承知いたしました。では、私がピアノで担当いたします」


 チャーリーもユリウスもヴァイオリンを最も得意としている。今回は王族が主体となって企画するため、ユリウスに花を持たせるつもりなのだろう。といっても、チャーリーはピアノもかなりの腕前だ。


「貴公のピアノの腕の前では私のヴァイオリンが霞んでしまうな」

「ご謙遜を。私のピアノなんてまだまだですよ。では、殿下達でお話し合いが済んだ後、最終決定をいたしましょう」

「ああ、そうしようか。では、今日は……」

「──そういえば、殿下は新しく侍女をお抱えになったとか?」

(来たな)


 夏のお茶会の話が終われば、話を切り出してくると思っていた。チャーリーは普段は絶対に浮かべない愛想笑いをする。


「なんでも専属でお雇いになったと耳にしたのですが?」

「貴公は相変わらず耳が早い。先日、孤児院の訪問で有望な子を見つけてね。スカウトしたんだ」


 彼の赤銅色の瞳が一瞬光った気がした。


「そうですか。実は私、先日殿下が訪問された孤児院の出身なんです。彼女とは家族のような間柄でして。よろしければ、彼女と会う機会をいただけないでしょうか」

「悪いね。今、彼女は研修中でね。逢引は控えてもらえないか?」

「家族に会うのに、なぜ控える必要があるんですか?」

「チャーリー、やめなさい」


 セイレン侯爵が窘めると、彼は不服そうに口を閉じ、頭を下げた。


「失礼いたしました」

「殿下、息子が大変ご無礼を……」

「いやいや、貴公はまだお若い。家族に会いたいと強く願うのも当たり前の感情だ。ただ、やはりまだ彼女と会うのは控えていただきたい。彼女はまだ貴族の慣習や人との距離感を掴み切れていない。きっと周囲を勘違いさせてしまう行動をとるだろう。特に貴公は女性の目を惹きつけやすく、女性と逢引をしていたとなれば、注目の的になってしまう。彼女が侍女として相応しい行動を身に付けるまで待ってもらえないだろうか」

「では具体的に研修はいつまでに終えるのでしょうか?」


 チャーリーとユリウスの間で見えない火花が静かに散らされる。


『お前と逢引なんてしたら、うちの侍女が関係各所から目を付けられるだろうが』

『んだと、コノヤロウ。さっさと会わせろや』


 言葉の裏で殴り合いをしている二人を見かねて、セイレン侯爵が口を開く。


「夏のお茶会はどうでしょう? 大きな催しですし、人手も多く必要になるでしょう。その頃には研修が終わるのではないでしょうか」

(なるほど……そう来たか)


 セイレン侯爵としてはチャーリーのモチベーションを落とさないためにも会わせてあげたいだろう。彼の行動原理はリィナが半分以上を占めている節がある。


「そうだな。大きな催しの参加は夏のお茶会になるだろうから、その時にちらっと顔を見ることもできるさ。ガジェット、例の物を」

「はっ」


 後ろに控えていたガジェットが一通の封筒をチャーリーに差し出した。


「リィナからお預かりしました、先日のお手紙の返事だそうです」


 それを聞いて、チャーリーは大きく目を見開くと表情が一気に明るくなった。


(分かりやすすぎだろう、君っ!)


 おまけに深々と頭を下げながら両手で受け取っている。そんな彼をセイレン侯爵も微笑ましいものを見る目でほんわかした顔をしていた。


 確か彼はリィナの一つ下の十四歳。露骨すぎる態度の変化は年齢相応とも言えなくない。ただ、彼の才能と祝福を鑑みると、貴族社会では目の上のたんこぶだ。


(私が父親なら腹芸の一つや二つ覚えて欲しいところだが、そうなったら一層手強くなるな。それに……)

「では、殿下。本日は御前を失礼させていただきます」


 そわそわしているチャーリーの様子にセイレン侯爵は苦笑して言うと、ユリウスは頷いた。


「ああ、また次回もよろしく頼む」


 退室する二人を見送り、彼らが馬車に乗り込んだのを見た二人は、念には念を入れて防音室へ入った。


「リィナは罪作りな女だねぇ……あんな熱烈な好意に気付かないなんて」


 もらった封筒に書かれたリィナの筆跡を見つめる彼は、どう見ても恋焦がれる少年の顔だった。あの様子に気付かないリィナもなかなかの大物だ。

「リィナの手紙の中身は確認したか?」

「はい。当たり障りのない近況報告ばかりでしたが……」


 珍しくガジェットが言い淀む様子に、ユリウスは無言で続けろと促す。


「恋人、もしくは過保護な姉とも取れる書き方でした」


 やっぱりか、とユリウスは項垂れる。


「後日、リィナには貴族らしい手紙の書き方を……いや、我々が入れ知恵をしたと彼の機嫌を損ねかねない。ほどよく手ほどきを」

「御意」


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