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第13話 愛のマーチ

 

『やぁ、ボクの愛しい愛しいリィナ。元気かい? ボクの方は、君が傍に居ないということ以外は何も問題ない日々を過ごしているよ。


 この間、孤児院を訪問した時、君の音が聞こえなくてびっくりしたよ。院長に話を聞いたら引き取られたなんて聞いて、さらにびっくりさ! なんでもあの第三王子に引き取られたんだって? ボクもたまに王宮へ行くんだけど、君の音が聞こえなかったから分からなかったよ。君の音に関しては、ボクが一番分かっていると思ってたし、自分の祝福に過信しすぎていたみたい。あともう少ししたら君を迎えに行こうと考えていたのに、誰かに見つかって先を越されるなんてちょっと妬いちゃう。


 おまけに王宮じゃ、君の音を堪能する時間が短くなっちゃうのが残念で仕方がないよ。でも、他の貴族の小汚い雑音が君の音で浄化されると思うと王宮に参上するのも悪くはないかなって思うことにするさ。


 リィナは自分の祝福を隠していたから、変に利用されていないか心配だよ。それも王族に仕えるなんて。


 王宮での生活はどう?

 他の侍女達にいじめられてない?

 毎日ご飯を食べてる?

 面白半分でその辺の石ころとか雑草とか髪の毛とか爪とか齧らされてない?


 リィナの精神と胃の頑丈さは分かっているつもりだけど、やっぱり心配です。


 そのうち、夏のお茶会に向けて打ち合わせがあるからお義父様と一緒に王宮へ同行するつもりだよ。その時に会えたら嬉しいな。


 もし君が会いに行けなくても、幾億の足音を聞き分けてでもボクは君に会いに行くよ。

 では、またその時に。愛してるよ。


 キミが大好きでやまないチャーリーより』


 ◇


 その手紙を読み終えたユリウスはそっとため息を漏らした。


「リィナ……」

「はい?」

「この手紙を読んで君は何も不思議だとは思わないのかい?」


 傍に控えていたガジェットとアイリーンも深刻な顔をして頷いており、シャルマにいたってはひどく警戒心をあらわにしていた。

 しかし、なぜ彼らがそんな反応をするのか、リィナは皆目見当がつかない。


「いつも通りの手紙ですけど……?」


 そう、いつも通りの手紙だ。

 彼の手紙を読んだ人は、何故だかみんな酸っぱい顔をするが、それもリィナにとっていつものことだった。

 それを聞いたアイリーンとシャルマが前に身を乗り出した。


「殿下! これはいけませんわ! リィナは完全に毒されています!」

「そうですよ! こんな怪文書! 通報ものですよ!」

「ええっ⁉ そこまで⁉」


 黙っていたガジェットすらも無言で頷き、ユリウスは遠い目をしていた。


 そもそもなぜ手紙をみんなで読むことになったかというと、リィナが自ら手紙を開けたのだ。


 宛名に『誰よりも君を愛しているチャーリーより』なんて書かれたら相手が恋人だと勘違いされてしまう。実際にアイリーンから『リィナも隅に置けませんね』と乙女の顔で言われてしまえば訂正せざるを得ない。

 彼とは恋仲でもないし、リィナとしては親友からのただの手紙だったので『そんなことないですよ。なんなら一緒に読みます?』とその場で封を切ったのだ。


 そして三人で手紙を読み終わった時、アイリーンとシャルマが血相を変えてユリウスの私室へリィナを引きずり込んだのだ。


「アイリーンとシャルマが彼女を連れてきてくれて正解だよ。いいかい、リィナ。これは世間一般でいうところ恋文だ。そして、相手はストーカー癖がある恐れがある」

「こ、恋文っ⁉ え、これのどこが⁉ それにストーカーって⁉」


 あまりの衝撃にリィナは手紙を読み直す。


「え……えぇー? むしろいつもより普通じゃないかな……」


 その一言で室内が一瞬ざわついた。きょとんとするリィナをよそに、ガジェットが顔を引きつらせたまま尋ねる。


「リィナ。そのチャーリーなる人物から今までいただい分のお手紙は手元にありますか?」

「え、はい。孤児院にいた頃にもらったものも」


 この離宮へ越してきた時、ガジェットが孤児院にある荷物を持ってきてもらえるよう頼んでくれた。数少ない所持品の中で、親友からの手紙は大事なものの一つだった。


「全部机の引き出しに……」

「「持ってきなさい。今すぐに!」」


 ガジェットとアイリーンが声を揃えて言い、リィナは風のごとく自室へ取りに行った。

 手紙をみんなで読み回し、ユリウスは頭痛がするのか額を抑えていた。


「想い人がいるとは聞いていたが、まさかここまでとは……」

「ユリウス殿下はチャーリーをご存じなんですか?」

「ご存じも何も、彼の養父は私のヴァイオリンの先生だ」

「ええええええええええええっ⁉」


 まさかそんな繋がりがあったなんて知らなかった。そんなリィナのようにユリウスが呆れて言った。


「この間、予定を話した時、先生の家名を聞いただろうに。なぜ気づかなかったんだ?」

「一門なら同じ姓なんて当たり前じゃないですか……」

「一理ある……とにかく、この蝋印の紋章はセイレン家のものだ。君の親友とやらにも何度か会ったことがある。実に底知れない奇妙な男だった」


 他の三人も心当たりがあったんだろう。うんうんと大きく頷いている。しかし、リィナだけは首を傾げた。


「き、奇妙? チャーリーがですか?」


 怪訝な顔をしたリィナを見て、四人は一度顔を見合わせてから順々に口を開いた。


「彼は演奏家、そして作曲家として最高の腕を持ちながら王宮にほとんど姿を現さない。演奏のために呼び出されて、用事が済んだらずっと防音室で楽譜を書き殴っている」


「この間、お会いした夜会では耳栓をしていて、バルコニーで空を見上げていましたね」


「ヒルデガルド王女殿下のピアノのお稽古の時、防音室から急に出てきて『侍女の中に軍人が紛れているんだが?』っておっしゃっていましたの。わたくし含め、淑やかな侍女しかいないのに不思議ですわね」


「この間の演奏会では女性ファンにゴミを見るような目を向けていました」


 ユリウス、ガジェット、アイリーン、シャルマが順にいうが、リィナは首を横に振った。


「その人、私が知っているチャーリーじゃないです。別人です。もっと彼は優しくて協調性のある子です!」

「目をお覚まし、リィナ!」


 アイリーンがリィナの両肩を掴んで揺さぶった。


「貴方は……貴方はそう! 洗脳されているのだわ! きっと彼が奏でる演奏に有害な超音波が潜んでいて、知らず知らずのうちに洗脳されていたのです! でなければ『君が奏でる生活音を全て五線譜に綴りたい』なんて馬鹿げたこと抜かす男を親友なんて呼びません!」

「あ~、去年の誕生日に送ってくれた手紙のやつですね。もうホントお茶目ですよね、チャーリーってばぁ~」

「リィナ!」


 悲鳴のような声を上げるアイリーンとリィナのやり取りを見て、男性陣も「これはもうだめだ」と頭を抱える。

 ユリウスは長いため息をついた後、げんなりした顔で言った。


「リィナ……念のため聞いておくが、彼とは恋人でもなければ将来を誓い合った仲でもないんだな?」

「いやですね、何度も行ったじゃないですか。私と彼は友達です」


 リィナの返事に、四人はさらに深い深いため息をついたのだった。


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