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第6話 グランベル到着



 野盗と戦ってから三日。道なりに進み、ついに町へと辿り着いた。


 でかい。そうとう大きな町だ。まず見えてきたのが見渡す限りの広大な畑。その向こうには大きな壁。壁の中にはいくつか尖塔が空に向かって突き出している。


 俺は十七年間、アゼル・イグナスとしてこの世界で生きてきたが、この世界の一般常識を全然知らないことに旅を始めて気が付いた。この町の名前はもちろん、実のところ自分が住んでいた村の名前すら知らない。もしかしたら小さい村すぎて、名前なんてなかったのかもしれない。


 両親から教わったのは道徳と剣術と魔法だけだ。特に母さんと二人きりになってからの七年間は、母さんに言われるがままずっと魔法の練習をしていた。


 そんなわけで町に入るための大きな門が近づいてきたけど、どうしていいのかがわからない。


 まず列が二つある。左の列の方がたくさんの人が並んでいて、右は少ない。右側の人の方が身なりが良かったりするわけでもなく、違いがわからない。


 わからないのだからどうしようもない。誰かに聞いてみようとズズから降りると、ココの後ろを歩いていたネコがとことこと俺の横に来る。


 ココは白い馬鳥の名前だ。本当の名前もあるかもしれないが、とりあえず呼べる名前がないと面倒なのでつけてしまった。


 この三日間でココはズズともネコとも仲良くなった。馬鳥は荷物を運ぶのにも役立つので、可能であればこのまま一緒に連れて行きたい。


 ネコを横に引き連れたまま、左側の列の一番後ろにいる、馬車の御者に話しかけてみる。


「すいませーーん」


「なんだい?」


「この町には初めて来たんですけど、列が二つあるのはどうしてですか?」


「ああ。こっちはこの町に来たことがある人用で、向こうが初めての人用だよ。だから兄ちゃんはあっちだな」


「そうなんですね。ありがとうございます。助かりました」


 お礼を言って、右の列に並ぶ。


 三十分くらいで順番が来た。二人の門兵に囲まれて質問を受ける。


「何か身分証はあるか?」


「持っていません」


「じゃあ、名前と年齢を」


「アゼル・イグナス。十七歳です」


「この町を訪れた理由は?」


「旅の途中で、冒険者にもなりたいと思っています」


「旅に出る前に冒険者の登録はしていないのか?」


「はい。故郷は小さな村だったので、ギルドもありませんでした」


「その故郷はどこに?」


「ここから馬鳥で十日くらいのところにある、森の中の小さな村です」


「その連れている魔獣の種類は?」


「スノーリンクス、名前はネコです」


 言いながらネコの頭を撫でると、ネコは目を細めてごろごろと喉を鳴らす。


「猫系の従魔は珍しいな。そいつは街の中で暴れたりすることはないか?」


「はい。俺が頼んだり、先に攻撃を受けたりしないかぎりは」


「そうか。もしその従魔が町や人に損害を与えた場合は君の過失になる」


「わかっています」


「冒険者登録するとき、従魔登録もしておくといい。あまり意味はないが、念のためだな」


「わかりました」


「よし。町に入ることを許可する。ようこそグランベルの町へ」


「あ、待ってください。この町に来る前に、野盗に……出会ってこれを」


 言いながら、小さな布の袋に入ったたくさんの身分証を見せる。野盗に襲われて……と言いそうになったが、どちらかというとこっちが襲ったような気もするので出会ったと言っておいた。


「これは!? その野盗たちは?」


 袋を覗き込みながら、門兵は驚きの声を上げる。


「全員、殺しました。ぇと、罪に問われたりはしませんよね?」


「もちろんだ。野盗は何人いた?」


「十一人です。出会ったのが五人で、アジトに六人いました」


「それを君一人で?」


「俺とネコとで、ですね」


「わかった。いろいろと確認したいことがある。少し時間をもらえるか?」


「はい。大丈夫です」


 というわけで、門の横にある小屋の中に移動して話をすることになった。


 椅子に座って、テーブルの上に身分証を並べる。


「こんなに……それで、その野盗はどの辺りにいたんだ?」


「町に続く道を馬鳥で三日ほど南下した辺りです」


「なるほど。それで十一人も相手にして、君は大丈夫だったのか?」


「はい。冒険者だった両親に鍛えられたので。それに十一人まとめてってわけでもなかったですし。あ、それとこれも」


 テーブルの上にもう一つ、小さな袋を置く。


「これは?」


 言いながら、門兵は中を確かめる。


「野盗のアジトから持ち出したものです」


 中には野盗のアジトから持ち出した金貨やら宝石が入っている。


「ああ。それの所有権は君にある。正義をなした褒美とでも思って、好きに使うといい」


「いえ、もし可能であるならば、そちらの身分証の遺族の方なんかがこの町に住んでいるのなら、その人たちのために使ってもらうことはできないでしょうか?」


「いいのか? 結構な額だぞ。これだけあればこの町で何年も遊んで暮らせる」


「大丈夫です」


「そうか……」


 門兵うつむいてそうつぶやくと、一筋の涙を流した。


「これを見てくれ」


 そう言って、テーブルの上にあった身分証の三つを俺の前に置いた。


「これは七日前、国境付近の砦に食料を運びに出た仲間のものだ。彼らの敵をとってくれたうえ、さらに彼らの家族にまで施しを。感謝してもしきれない」


 門兵は深く頭を下げる。


 あの三人は……俺の目の前で死んでいたあの三人は、彼の知り合いだったのだ。


 テーブルの下で拳を強く握る。


「その三人は俺が見つけたとき、たぶん襲われた直後でした。すいません。俺が……俺がもう少し早く駆けつけていれば……」


「何を!? 君が謝る必要など、一つもない!」


「でも……」


「そんな顔をしないでくれ。私としては君には感謝しかない。そもそも間に合わなかったことが責に問われるなら、たった三人で送り出した我々や、注意を怠った彼らの方が問題だ。君には本当に感謝している」


 優しい彼はそう言ってくれるが、その言葉は俺にとって慰めにはならない。これは俺の問題だ。他の誰かは関係ない。俺よりも他の誰かの方が罪が重いからといって、俺の罪が消えてなくなることはない。俺はいつも間に合わない。いつだって後もう少しのところで、この手は届かない。


 それでも……


「そう言ってもらえると、助かります」


 笑顔を浮かべる。俺がこれ以上自分を責めることを彼は喜ばないだろう。


「あ、それと、そういえば外にいる白い馬鳥。あいつはたぶんその三人は連れていたやつだと思うんですけど、仲良くなったんで、このまま連れて行きたいんですけど。もらうこととかってできますか?」


「もちろんだとも。可愛がってやってくれ」


「はい。ありがとうございます」


「この金はしっかり調べて、遺族のために使うことを約束しよう。貴重な時間を申し訳なかった。それではもう行ってくれてかまわない。我々グランベルの騎士は君を歓迎するよ。私の名前は、ガラン・オーエンだ。この町で何か困ったことがあったらいつでも言ってくれ」


「わかりました。そうさせてもらいます」


 そうして俺は門を越え、グランベルの町に入った。



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