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第38話 食事会と模擬戦



「今後、お二人はどうするつもりなんですか?」


「まだ何も決めていません」


 エルウィンさんの質問に首を振る。


 今、俺たちは山猫亭の部屋に集まって、これからのことを話していた。


 俺とアリアさんは、俺がいつも使っているベッドの上に座って、エルウィンさんは隣のベッドの上に座っている。


 そしてタナットはもちろん俺の上で、ネコは今部屋の中にいない。テレサちゃんがズズたちの世話に行ったので、一緒について行ったのだ。


「アリアさんはどうしたいですか?」


 そもそも俺に明確な目的地はなかったので、一緒に旅をすることになったアリアさんの希望を聞いてみる。


「え? 私ですか? 私はアゼルさんの旅にご一緒できればそれで……」


 アリアさんも特に何も考えてはいなかったようで小首を傾げている。


「もともと俺は、ただ西に向かって旅に出ただけなので、目的地とかは全然決めていなくて……」


「それは好都合です。私はこの後ガナスに戻るつもりなのですが、せっかくですから私と一緒にガナスに来ませんか? ララーナ先生の御実家であるアルヴィオン家もありますし、お二人には私の護衛として依頼も出しますので、どうですか?」


「うーーん」


 考える。


「ガナスは魔術大国と呼ばれていますが、魔術に限らず多くの知識の集まる国です。この世界を知るにあたって避けては通れません。ララーナ先生を邪険にしたアルヴィオン家があれでしたら、ヴァジリーヴァ家でお客として歓迎しますよ」


「アリアさん的にはどうですか?」


「私は……ガナスには行ってみたいと思っていました」


「じゃあ、そうします。俺も母が生まれ育った場所は、見てみたい気もします」


「では決まりですね」


 そう言ってエルウィンさんが嬉しそうに笑顔を浮かべると、アリアさんが急に立ち上がった。


 そしていたずらの見つかった子供みたいな困った顔をして、とつとつと話し始める。


「あの……出来ればこの町を出る前に一度、私と一緒に父と話をしてほしいんですけど……」


「アーリングさんとですか?」


「はい。実は父はまだ私が旅に出ることを完全には認めてくれてはいなくて……一緒に説得してほしいんです」


「そういうことであれば私もご一緒しましょう。人を言いくるめるのは得意なんですよ」


 俺より先にエルウィンさんが楽しそうに答えた。


「ありがとうございます。是非お願いします。ただ……父も自分の主張を通すことには長けているので、気を付けてください」




 ――次の日の夜。


 俺たちはヴェリオル家でアリアさんの家族と食卓を囲んでいた。


 豪華な料理の並んだ食卓は円形で俺の隣は左側がエルウィンさんで右側がアリアさん。その隣がアリアさんのお姉さんのアルエさん。アルエさんのさらに隣にアーリングさん。その隣がアリアさんのお母さんのアリソンさんで、次がアリアさんの弟のアルベルト君で、エルウィンさんで俺に戻ってくる並びだ。


 アルエさんとアリアさんの姉妹はあまり似てはいない。アリアさんは父親似でアルエさんは母親似のようだ。


 アリアさんが精巧なガラス細工のような人に近付くことをためらわせるような美しさであるのに対して、アルエさんは柔和で人をひきつけるような美しさだった。


 そしてアルベルト君はアリアさんに似ている。彼も父親似のようだった。


 食事会はアーリングさんのスピーチで始まった。


 そして簡単な自己紹介。テーブルに並べられた料理の話。ミュラー邸での顛末をへて本題に移った。


「アリアは小さい頃から正義の味方になりたいと言っていた。私はアリアの夢のために剣術や魔法の講師を探し、騎士の仕事も用意した。私は一度もアリアの夢を否定したことはない。しかしだからといって自ら危険を伴う道に進もうとしている娘を簡単に送り出すことなど出来ない」


 そう言って、アーリングさんは真っ直ぐに俺を見る。


「そもそも君は正義の味方なのか?」


「もちろん違います。それでも困っている人がいたら、助けにはなりたいと思っています」


「それはどうして?」


 どうしてだろう……自分でもそんなこと考えたこともなかった。だから考えてみる。


 それが正しい行いだから。そんな理由ではないはずだ。


 目を瞑って想像してみる。例えばアリアさんが困っているところや、悲しんでいるところを想像する。


 嫌な気分だった。すごく不快で、怒りが湧き上がってくる。


 次は別の人で想像してみた。今度はあまりよく知らない人がいい。思い浮かべたのはグランベルで出会った熊の獣人のおじさんだった。彼が困っていたり、悲しんでいる姿を想像する。


 やっぱりすごく嫌な気分になった。イライラする。


 だからそれが答えなのだろう。


「嫌だからです。誰かが困っていたり、悲しんでいる姿を見るのが嫌なんです。すごく不愉快な気持ちになる」


「そうか……」


 俺の答えにアーリングさんは少し笑ったように見えたが、すぐにまた眉間に皺を寄せて言葉を続ける。


「それで君とアリアが共に旅をして、アリアに危険はないのか?」


「それは私がお答えしましょう」


 そう言ったのはエルウィンさんだった。


「まず大前提として、危険の伴わない旅などはありません。しかしそれが戦力的な話であるのなら、アゼルさんとアリアさんのパーティーに問題ないでしょう。私はこれからガナスに帰るつもりですが、護衛はお二人に頼むつもりでいます。さらに他の冒険者を増やすつもりもありません。お二人がいれば充分だと考えています」


「なるほど……それほど彼には力があると」


「はい。私がそれは保証しましょう。ただ力があるのはアゼルさんだけではありません。アリアさんも大きな力を持っています」


「アリアがですか?」


「もしかすると、アーリングさんはアリアさんが戦っているところを見たことがないのですか?」


「ありません。しかしアリアのために雇った剣術や魔法の講師からの評価は高かったことと、騎士や冒険者になる試験は問題なく突破できたことは聞いています」


「そうなのですか。では、実際に御覧になってはいかがでしょうか? アゼルさんとアリアさんの実力を自身の目で確認すれば安心できるのではないでしょうか?」


「確かにそうですね。ではアリア、早速明日見せてもらうことはできるか?」


「もちろんです!」


 アリアさんが力強く返事をする。


 というわけで俺たちは明日、アーリングさんに模擬戦を披露することになった。


 明日のことが決まると、食事会は和やかに進んだ。


 アルベルト君と絵の話をしたり、アルエさんがネコにいろいろ食べさせたり、アリソンさんがタナットの髪をアレンジしたりと楽しい食事会だった。


 そして翌日――





 ――グラウ・アカンジ視点――




 戦いには自信があった。


 私は弟の墓前でジャックから声を掛けられる前まではルヴェリアの軍人だった。軍では中隊を率いていた。


 だから今回の模擬戦でも私が指揮を執ることになった。


 相手はたった二人。それに対してこちらは五人。


 さらにこちらはみんなベテランの実力者で、相手は若いDランクの冒険者だ。


 普通に考えれば負けるわけのない戦いだった。


 それでも油断はできない。


 練習用の木製の武器による模擬戦で、実戦ではないとはいえこの戦いは試験のようなものだ。


 だから装備の確認をしているアリア嬢が緊張した面持ちなのは当然のことだった。


 私を含む仲間たちだって少なからず緊張はしている。雇用主の前で戦うわけだし、相手の一人はその雇用主の娘さんなのだ。


 それなのにまだ十代の青年はその背に幼い妹を担いだまま、適当に選んだ木刀を手に笑顔を浮かべて従魔と遊んでいた。


 中には元来緊張とは無縁のような性格の者もいるだろう。だが彼は違う。数日共に旅をしただけだが、彼は表情豊かな青年で、初めて私に挨拶しに来たときは緊張しているようだった。


 しかし戦いの前の彼は違った。あのときもそうだった。


 十四人の冒険者たちと敵対する可能性があったときも彼には怯えも覚悟の表情も見えなかった。


 彼はきっと強いのだろう。この戦いも彼にとっては遊びの延長のようなものなのかもしれない。


 現に彼は簡単にAランク冒険者を倒したというし、魔術大国ガナスの王族もその実力を認めている。


 だから彼の実力を見ることができるこの戦いは、私にとって楽しみでもあった。


 街の中にある個人所有の広場とは思えないような広さの訓練場。


 そこで私たちヴェリオル家の護衛五人の精鋭とアゼル・イグナス、アリア・ヴェリオルは木製の武器を構え、20メートルほどの距離を取って対峙する。


 観客は六人と一匹。ヴェリオル家の四人とエルウィンというガナスの王族。そしてアゼルの背にいる彼の妹と彼の従魔のスノーリンクス。


 そんな観客の見守る中、エルウィンの掛け声によって戦いの火蓋が切られた。


 この戦いの目的は我々の勝利ではない。相手の力量を測ることにある。


 だから私たちは相手の出方をうかがうことにした。


 そんな中、まず動いたのはアリア嬢だった。彼女は剣を構えたままゆっくりとこちらに近づいて来る。


 そのときだった。一歩も動いていなかったアゼルから風が発生する。その風が足元の砂塵を巻き上がらせた。


 それは特に珍しい作戦ではない。風の魔法を使った目くらまし。


しかし彼の魔法は異質だった。


 普通、魔法は構えた手の先から発生する。今回の場合であれば手を下に構えてウインドの魔法を足下に向けて撃つか、自分もしゃがんで低い姿勢から魔法を使う必要があったはずだ。


 それなのに彼は剣を持ったまま何も動かずに魔法を行使した。


 しかもその風は砂塵を撒き散らしながらこちらの五人全員を捕らえるほどの広範囲でせまってくる。


「シールド」


 五人全員がシールドの魔法を唱える。


 予備動作もなく、不意に放たれた魔法ではあったが距離があったのでシールドの魔法は間に合うはずだった。


 いや確かに間に合ったのだ。それなのに砂塵を含んだ風に触れた瞬間にシールドが消失した。


 だから私たちは押し寄せる砂塵に目をつむるしかなかった。


 その瞬間、私は背後から首元を軽く叩かれた。


 確認するまでもない。私は負けたのだ。武器から手を離して、両手を掲げる。


 五対二の戦い。アゼルの魔法で目をくらまし、アリア嬢の特攻で司令塔である私を落としにきたのだろう。


 それは勝利を目指す作戦としては悪くはないものだ。しかしアーリング様を納得させるための戦いで、アリア嬢を特攻させる作戦はいかがなものだろう。


 さぁ、ここからは四対二の戦いになる。それもアリア嬢は四人に囲まれているような状況だ。二人のこの後の出方を楽しみに思いながら、風が通り過ぎ砂塵が晴れた周囲を確認すると……


 手を上げて立っているのは私だけではなかった。他の四人もまた私と同様に武器を地面の上に置いて両手を上げていたのだ。


 訳がわからない。戦いの合図からわずか数十秒で我々は全滅していた。


 何が起きたのか確認するために仲間たちに目配せするも、仲間たちもわからないと首を振るだけだった。


 そんな私たちのもとに背後から声が掛けられる。


「私たちの勝ちですね」


 それはアリア嬢の嬉しそうな声。


「完敗です。私たちには自分たちがどうやって負けたのかすらわかりませんでした」


 私の言葉に彼女は笑みを浮かべるとアゼルのもとに駆けて行った。


 私たちもまたアーリング様のもとに報告に戻る。


「どうでしたか?」


 そう声を掛けてきたのはエルウィンだった。


「どうもこうも……完敗です。我々には何が起きて、どう負けたのかすらわかりませんでした。何故、我々が張ったシールドは消えたのですか? 何故、あの短時間で五人全員が背後からアリアお嬢様の攻撃を受けたのですか?」


「それは私がお答えしましょう」


 そう言って自慢気にエルウィンは話し始める。


「まずアゼルさんはあのララーナ・アルヴィオンのご子息です。彼の魔法は異質で、発声も予備動作も必要ありません。そして彼は相手の魔法を打ち消すことができます」


 その言葉に私は声を失った。


 無発声魔法や予備動作がないことはまだいい。わかっていれば対処ができるだろう。しかし相手の魔法を打ち消すというのは……


 その魔法が自分と相手双方の魔法を消す場合や、シールドの魔法のように自分の目の前の魔法を消すだけであれば対応もできただろう。


 しかし彼はこちらのシールドを消しながら魔法で攻撃を仕掛けてきたのだ。そんなもの対応なんてできるわけがない。


「そしてアリアさんは神速という技を使います。その技は彼女の師である剣聖エルナ・ステアの奥義で、わずか数秒ですが信じられないようなスピードで行動できるようです。そんなお二人が共に戦った結果が、皆さんが今体験したものです」


「なるほど……」


 そう答えたのは私ではなく、アーリング様だった。そしてさらに言葉を続ける。


「私が知らなかっただけで、子はいつのまにか成長しているのだな……」


「アリアは誰よりも努力家ですもの。きっと望む自分になれるはずです。私たちはあの子が上手く飛べるようにそっと背中を押してあげればいいんですよ」


 そう言ってアリソン様はやわらかな笑みを浮かべた。




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