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番外編 リヴァイアサンの胎動・2



 ――ヤクザの男、上沢正樹(うえさわまさき)視点――



 人生とはままならないものだ。


 俺はただ幸福を求めて歩んできたはずなのに、現状は幸福には程遠い。


 俺だけではない。人は誰しもが、幸福を求めているはずだ。


 ただその幸福は人それぞれに違う形をしていた。


 俺の幸福の形。それは得をすることだった。


 得をするとは支払うものより価値のあるものを得ること。


 何を支払い、何を得るかは人それぞれだ。その価値も人によって違う。


 例え大きな対価を支払ったとしても、それでより自分にとって価値のあるものを得られたのなら、それは得をしたということだ。


 だが大きく得をして大きな幸福を得るには、より少ない対価でより自分にとって価値のあるものを得る必要がある。


 その簡単な方法がズルをすることだ。


 万引きすれば対価を払うことなく商品を得ることができるし、相手を脅しても対価を払わずに得ることができる。


 勿論それは犯罪で、悪いことだ。


 しかし決まりを破って、悪いことをすればするほど、大きく得をして、より幸福になれる。


 だが悪事にはリスクが伴った。


 万引きをして得るものよりも、万引きがばれたときに失うもののほうがずっと大きいので、割に合わないと考える者も多いだろう。


 でも結局そういうことなのだ。


 皆リスクがあるから、割に合わないからルールを破らないだけで、善悪は関係ない。


 誰もがこんな台詞を耳にしたことがあるはずだ。スポーツ選手が言う「ルール上問題はない」という台詞。政治家が言う「法律上は問題ない」という台詞。


 この台詞は倫理的には正しくないかもしれないが、ルールや法律に触れてはいないので問題ないということだ。


 大切なのは善悪ではなくルールや法律を守ること。何故守るのかといえば、それはルールや法律に触れてしまえば罰を受けることになるからだ。


 誰もがその罰というリスクを恐れているだけで、善悪は関係ない。


 場合によってはルールや法律の隙間を突いてリスクなく行う悪事は賢いことだと賞賛されることすらある。


 結局誰もがリスクがないのならズルを、悪いことをして得をしたいのだ。


 俺もずっとそうだった。


 親に怒られないために嫌いなものも我慢して食べた。


 先生に叱られないために宿題をした。


 友達に嫌われないために約束を守った。


 店主に訴えられないために商品の代金をはらった。


 警察に捕まらないために信号を守った。


 いつだってそうだった。正しいことをするのを望んだことなんてない。


 リスクを恐れて、仕方なくそうしてきただけだ。


 だから俺はヤクザになった。我慢することなく、自由に望むがまま生きて、誰よりも得をするためにヤクザになったのだ。


 それなのに今の俺は、組の幹部連中の顔色をうかがう毎日だ。


 本当に人生はままならない。


 今は夜中の一時、今日も俺はこんな時間まで仕事に追われていた。


 夜の幹線道路、懇意にしている火葬場を後にして、音楽を聞きながら車を走らせる。


 ここ最近は特に面倒ごとが多かった。今日だってそうだ。


 二時間ほど前、俺はうちのシマで粗悪品の薬物を売っていた男を尋問して、その薬物の出所や背後関係を聞き出していた。


 そこにオカルトオタクの学生が現れた。


 少し前にも同じようなことがあったのだが、どうやら俺たちがよく尋問に使っている廃工場が心霊スポットとして噂になっていると言う。


 まぁ、古い建物だから、数ヶ月ほど前にあった大きな台風の影響か何かで、音が外に漏れるようになってしまったのだろう。


 おかげで不必要な手間が増えることになった。


 とりあえずあの廃工場はもう使えない。そうなるとかわりに使える場所も見繕わなければならない。


 しかし一番の面倒事はそこではない。尋問の現場を見られた学生をどうするかというもっと大きな問題があった。


 前回のときは組の若い奴が逃げようとした目撃者を撃ってしまったので、全員殺して処分した。


 しかし今回は生きたまま捕らえることができた。


 どうするべきだろう。


 別に俺一人で答えを導き出す必要はない。


 しかし今はもう夜だ。それほど緊急性のある事案でもないので、わざわざ急いで上に確認を取る必要もないだろう。


 事務所に戻れば誰かしらいるし、そこで話し合えばいい。もしそこで話がまとまらなかったら、夜が明けてから上に相談することにしよう。


 今は組にとって大事な時期だった。


 先代の組長が引退して四年、現組長はとてもクレバーな人物だ。


 そんな組長が大事にしているのが組に対する噂だった。


 例えば巷ではうちの組が警察と通じているという噂がある。


 これがまた組にとって実に都合がいい。


 それが事実として明るみに出れば問題になるのだろうが、噂であれば所詮噂だ。皆、そう口にするだけであまり本気にしてはいない。


 しかしうちと揉めたとき、その噂は絶大な効力を現す。


噂を耳にしたことがある者は思うだろう。


 もし本当にうちと警察が通じていたのなら、通報したところで意味がないかもしれない。それどころか通報したことが筒抜けになって、自分や家族により被害が出るかもしれない。


 ただの噂だ。しかしその噂があるだけで警察に相談しづらくなってしまうのだ。


 そう考えてみると、廃工場の証拠をしっかりと隠滅した後に、彼らを解放してやるのもいいかもしれない。


 こちらから警察に話してもいいぞと脅してやれば逆に警察には行かないだろう。


 もし警察に通報されてしまっても、証拠さえ出てこなければ何も問題ない。


 そんなことを考えていると事務所についた。


 車を駐車場に止めてから事務所の入り口の門をくぐる。


 違和感があった。


 何かがおかしいと感じるが、どこがおかしいかは説明できない。とにかく何かがおかしい。


 とりあえず門のすぐ横にある詰め所に向かう。


 詰め所の扉は開いたままになっていた。中には二人の死体。二人ともうちの組の者だ。手には銃が握られている。


 そして二人にも銃で撃たれたような痕跡がある。


 何があったのだろう。


 それにこんなことが起きているのにどうして事務所は静かなままなのだろう。


 俺はどうすればいい? 今、何をすべきなのだろう。


 わからない。


 ただ鼓動の音だけが耳に響いている。


 詰め所の隅で隠れるように小さく蹲って、直属の上司である山下さんに電話してみる。


 つながらない。コール音を数回繰り返した後、留守番電話になった。


 もう一度かけてみても山下さんは電話に出ない。


 このまま逃げ出してしまおうかとも考えたが、思い直す。それはそれでやばいことになる。駐車場には監視カメラがあって、その映像は録画されている。


 この状況で俺が逃げ出したことがばれてしまう。


 じゃあどうすればいい?


 とにかく一人でいることが怖かったので、廃工場に置いてきた部下に電話してみるが、二人にもつながらない。


 意味がわからない。何が起きているのだろう。


 ドッキリか何かではないだろうかと考えて、死体を確認するがどう見ても本物だった。


 今になって気付いたが、血の匂いも酷い。鼻を突く錆びた鉄のような匂い。


「くそっ!」


 小さな声で呻いて、役立たずの死体に蹴りを入れる。


 すると外から男の声が聞こえた。


 窓から恐る恐る外を確認する。窓から見えたのはちょうど今駆けつけたと思われる仲間たちの姿。


 俺は急いで詰め所を出て、仲間たちと合流する。


 駆けつけた仲間は三人。三人とも組みで飼っている異能力者だった。三人はとても強力な力を持った異能力者で、彼らには生半可な銃火器では手も足も出ない。


 聞けば三人は組が襲撃にあっていると連絡を受けて駆けつけたらしいが、襲撃相手の情報などは聞いていないという。


 相手が何者かはわからないが、このままここで話していても埒が明かないので、事務所の中に入って状況を確認することにする。


 事務所の中は死体だらけだった。ただその死体は組の仲間のものしかない。襲撃側の死体やそれを運び出したような形跡もない。


 そして仲間の死体にも違和感があった。そのほとんどが銃で撃たれた形跡がある中、一人はナイフが三本も刺さって死んでいた。


 ナイフが刺さって死んでいる男。この男の二つ名はナイフ投げの松葉。その名の通りナイフ投げの達人だった。


 さらに刺さっているナイフにも見覚えがある。これは松葉自身のナイフだ。


 いったいどういうことなのだと考えをめぐらせていると、異能力者の一人が言った。


「もしかすると敵も異能力者かもしれない」


 そのときだった。奥の部屋から一人の男が姿を現した。


 俺はすぐに銃を男へと向けるが、男にこちらを警戒している様子はない。まっすぐこっちに向かって歩いて来る。


 それはまだ若い青年だった。見たことのない青年だ。組の者ではないと思う。


 青年は俺たちの前まで歩いてくると5メートルほど前で足を止めた。


「誰だ。お前は?」


 異能力者の一人が前に出て青年に問う。


「E‐52」


 青年はそう答えた。認識番号かコードネームか何かだろうか。少なくとも聞いたことはない。


「みなさんは外から来たようですけど、この中に廃工場から帰ってきた人はいますか?」


「俺がそうだ」


 答えながら考える。


 こいつは俺を探していたのだろうか。ということは工場で拷問した相手の仲間ということだろうか。


 しかし聞き出した情報では仲間などはいなかったはずだ。どこか別の組の者だとか、何か後ろ盾があったわけではなく、ただネットで仕入れた薬物をクラブなどで売りさばいていただけだと言っていた。


 嘘を付いて秘密を守り抜いたという可能性もなくはないが、嘘を付くような余裕はなかったように見えた。


 じゃあ、この青年は何者なのだろう。


「廃工場で拷問しているところ見てしまった学生たちから奪った物を返して欲しいんですけど」


 ……まさか、そっち側だとは思いもしなかった。


「うるせえなぁ!」


 異能力者の一人が声を上げる。


「お前がこれをやったのか?」


「これというのが、ヤクザたちが死んでいることを指すなら、そうです。俺がやりました。でも俺からやったわけではないですよ。あくまでも正当防衛です」


「お前も異能力者か?」


「そうです」


「そうか……でも、まぁ相手が悪かったな、俺も異能力者なんだわ。俺の炎に焼かれて死ね!」


 異能力者が叫ぶと、青年は炎に包まれる。


 しかしその炎は瞬く間にかき消える。青年は表情一つ変えることなくその場に立っていた。


「異能力者同士の戦闘経験はあまりないみたいですね」


 そう言って青年は笑みを浮かべた。嘲笑ではなく、優しく整った笑顔。


「異能力者同士の戦闘では、固有能力はほぼほぼ使い物にはなりません。もちろんあなたの炎を扱う能力もそうです。異能力同士をぶつけ合うと、当たり前と言えば当たり前ですが、より出力の大きい方が勝ちます。別々の能力をぶつけ合ったからといって、何か特別な化学反応が起きたりすることはありません。火の能力に水の能力をぶつけたら消えるとかはないんです。異能力同士のぶつかり合いでは、ただ出力の弱かったほうが打ち消されるだけです。そして固有能力というものはどれも使い勝手がよくて燃費がいい。ようは出力が低いということです」


 青年はたんたんと説明を続けていく。


「だから固有能力は、ただ力を込めて素の念動力をぶつけてやれば簡単に打ち消せてしまうんです。よって、よほどトリッキーな扱い方でもしないかぎり、固有能力は能力者同士の戦いでは何の役にも立たないというわけです」


「ふかすんじゃねえよ!」


 青年の足下から赤々と燃える大きな炎が沸き立ち、その体を包み込む。


 しかしそれは一瞬のことですぐにその炎は初めから何もなかったように消え去ってしまう。


「ほら……俺は今、念動力を纏っているのでそんな出力の低い炎では、何の役にも立ちません」


「じゃあ、これならどうだよ!」


 叫び声と共に大きな衝撃音。


 青年の後ろにあった壁や柱などいろいろなものが衝撃を受けてひしゃげ、崩れ落ちる。


 しかし青年は何事もなく笑顔を浮かべてそこに立っていた。


 考えろ。考えろ。考えろ。


 俺は賢くはないが、こちら側と青年との実力差が理解できないほど愚かでもない。


 明らかだ。俺たちではこの青年に勝てない。


 こちら側に異能力者は三人いるが、この炎を操る異能力者が一番強い。それが手も足も出ないのだ。


 俺たちに勝ち目はない。


 考える。青年は自分の行為は正当防衛だと言っていた。


 だったなら……


「死ねよ!」


 異能力者がまた叫ぶ。


 こいつは能力こそ高かったが頭が悪い。いまだに実力の差も理解できていない。


 本当に愚かで救いようのない奴だ。


 だから後ろから銃で撃つ。異能力者と言えど、背後から頭を銃で撃たれれば簡単に死ぬ。


「殺したくはなかったが、こうでもしないと俺にはこいつを止めることはできなかった」


 俺は銃を捨てて両手を上げる。


「俺たち三人に抵抗の意思はない」


 そう言いながら、異能力者の二人に目配せをする。


「学生たちから取り上げたものは全部君に返そう。もちろんこれからもあの学生たちに危害を加えるようなことはしない。そして俺たちは悪事からは足を洗って、真っ当に生きることを誓う。それでどうだろう、俺たち三人の命は助けてもらえないだろうか?」


 そう言って俺は真っ直ぐに青年の目を見る。


 もちろん今言った言葉は嘘だ。学生たちから奪ったものを返すことと、彼らに危害を加えるつもりがないことは本当だが、ヤクザを辞めるつもりはない。


 ただその真偽をこの青年はわからない。


 そしてこの青年は自分の行為は正当防衛だと言った。ということはこの青年はこれだけのことをしておきながら法律を守りたいと考えているということだ。


 俺はヤクザになって学んだ。法律とは利用するものであって、守るものでも縛られるものではない。


 例えば誰よりも法律を武器にしている弁護士がいい例だ。


 普通に考えれば悪い奴の味方をして守ることは悪いことであるはずだ。


 しかし法律を利用してやれば悪いことではなくなる。弁護士とはそういう仕事だ。


 奴らが法律を利用して、人殺しを無罪にして自由を与えてもそれは決して悪いことではない。むしろそれは弁護士としては優秀でいいことなのだ。


 だから法律は自分が守るためにあるものではない。うまく利用して自分を守るためにあるものなのだ。


 この青年がそれを知らず、法律に縛られているのなら簡単だ。俺は法律を利用してやればいい。


 こうやって無抵抗を宣言してしまえば、もう青年に正当防衛は主張できない。


 そしてもしこの青年が正しい人間で、道徳にまで縛られているというのなら、さらに事は簡単だ。


「本当は俺たちもこんな機会を待っていたんだ。他に仕事もなくてヤクザになってしまったが、本当は辞めたかった。でもそうはさせてもらえなかったんだ。だがもしここで君に見逃してもらえたら、たぶん組からは死んだものとして処理されて、逃げ切ることができる。もう悪いことはしないと誓う。だから俺たちが正しい道に戻るチャンスをもらえないだろうか」


 嘘八百を並べ立てる。


 だが正しい人間はこう考えるはずだ。


 疑うことは醜く、信じることは美しい。そして許すことは正しい行いだと。


 青年は少しだけ考えてから言葉を吐き出した。


「わかりました。俺はもともと奪われたものを取り返しに着ただけです」


「ありがとう」


 ジャケットのポケットから携帯端末を取り出して青年に返す。


 端末を受け取りながら、青年はまるで品定めでもするみたいに真っ直ぐに俺を見据えていた。


 これ以上何か言い訳を並べてもボロが出るだけだ。何も言葉にはせず、青年の視線を受け止める。


 青年もそれ以上何かを言うでもなく、俺たちを通り過ぎるとそのまま歩いて事務所を出て行った。


 それから数十分、俺たちはその場に立ち尽くしていた。


 そして青年が去っていったことを確認してから俺はたまらずに声を上げた。


「はっはっはっはっ!」


 笑いが止まらない。


「どうしたんですか?」


 突然笑い出した俺に異能力者の二人が心配そうな顔で聞いてくる。


「わからないのか? これはチャンスだ。たくさん死んだが、親父はここにはいない。組が潰されたわけじゃない。監視カメラの映像を全部処分して、もしまだ息のある奴がいたらそいつも殺す。そしてこの出来事はぜんぶこいつのせいにすればいい」


 そう言って目の前で死んでいる炎を操る異能力者を蹴る。


「どうしてそんなことを?」


「お前たちも少し力があるからと偉そうに威張り散らしていたこいつが嫌いだっただろ? こいつは能力こそ高かったが、問題行動も多く、もともと危険視されていた。ここで起きたことは全部こいつのやったことにして、それを俺たち三人が止めたってことにすればいい。そうすれば俺たちは英雄だ。そうだな、こいつが炎の能力者だったのもちょうどいい。事務所は燃やしてしまおう。本当にラッキーだった。あの青年には感謝しないとな。俺たちは上に行けるぞ」


 俺の父親は普通のいい父親だった。


 俺は八歳までは両親のもと、比較的に裕福な家庭で育った。


 しかし八歳のとき両親が離婚した。母の浮気が原因だった。


 そのとき俺が父の本当の子ではなかったこともわかった。それでも父は俺の親権を求めて母と戦ってくれた。


 俺も浮気した母より父のもとにいたかった。


 しかし父は忙しく働いていたこともあって、まだ幼い子供を母親から奪うべきではないと裁判で俺は母に引き取られることになった。


 それからしばらくは最悪だった。母は俺を愛していたわけではない。ただ養育費が欲しいだけだった。


 そして母の浮気相手の男はよく俺に暴力を振るった。


 何一つ俺の思い通りにはならなかった。


 通っていた小学校でもそうだった。クラスの中でいじめがあった。標的は俺ではなかったが仲のよかった友達だったので守ってやりたかった。


 しかし先生に助けを求めても助けてくれなかった。だから俺は虐められている友達を守るためにいじめっ子を突き飛ばした。


 すると暴力を振るったと俺が先生に怒られて、親が呼び出された。


 そこに駆けつけたのが、いつも俺に暴力を振るう母の恋人だった。あいつは学校でもいつものように偉そうに声を荒げていた。


 この学校はいじめを隠蔽するのか。いじめをしていたのがお偉いさんの子供だからか? このことをあることないこと尾ひれを加えて週刊誌に流してもいいんだぞと、机を蹴り上げながらわめき立てていた。


 するとどうだろう。あんなに偉そうに俺を攻め立てていた先生たちの態度が急変したのだ。


 そして俺は学んだ。俺は新しい父親から人生を思い通りに生きる方法を学んだのだ。


 それからは簡単だった。この世界は力があって悪い奴が得をするようになっている。


 力があるのならそれを見せ付けなければならない。そうしなければ相手は従わない。


 力を使ってズルく生きればいい。人生もスポーツやゲームと一緒だ。ルールブックのぎりぎりをついて審判にみつからないようにズルをする。


 そうすれば勝てる。まじめにプレイして勝てるのはよほど才能に恵まれた者か運がいい奴だけだ。


 俺はここまでそうやって生きてきた。


 しかし正直、最近は頭打ちだった。


 法律を利用し、暴力で物事を解決するヤクザの世界でも生まれは重要だった。


 組長の座はほとんど世襲だし、ズルや悪いことをするのにだって生まれ持った才能がいる。


 しかし今日、そのすべてを覆すことのできる幸運が俺に味方をしてくれた。


 この惨劇を解決した俺はきっと組の中で確固たる地位を得られるはずだ。


 俺は更に上にいける。もっと幸福になれる。


 さぁ、これからも思うがまま歩みを進めて行こう。


 これだから人生は最高だった。



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