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第27話 恐怖! 人を食べる家。一日目・午前


 エルウィンさんとの約束どおりに俺とアリアさんは冒険者ギルドにやって来た。


 ギルド内にあるテーブルにはすでにエルウィンさんが座っていて、俺たちが来たのを確認してニコニコ笑顔を浮かべている。


 互いに軽く挨拶を交わして、俺たちはエルウィンさんと向かい合って座った。


「もうお二人に向けて指名依頼は出してあります」


「指名依頼ってなんですか?」


「不特定多数の冒険者に向けて出す依頼ではなく、個人やパーティーに向けて出す依頼のことです」


 アリアさんが説明してくれた。


「なるほど。それでその依頼とはどんな依頼なんですか?」


 昨日、エルウィンさんはこの世界の謎の一端を紐解く手伝いをして欲しいなどと言っていたので楽しみだ。


「実はある噂を耳にしまして、それで私はこの町に家を買いました。その家にまつわる噂の謎を解き明かす手伝いと、その間の護衛をお願いしたいのです」


「ま……まさか、その家というのはミュラー邸ですか?」


 アリアさんが声を上げる。


「そのとおりです」


 笑顔で頷くエルウィンさん。


「そのミュラー邸というのは?」


「呪われた家です」


 俺の問にアリアさんが答えた。


「もしかしてお化けが出たり?」


「赤い服を着た少女の霊が出るという噂もありますが、ミュラー邸の呪いの本質はそこではありません。あの家は住人を食べると言われています。すでにあの家に住んだ三家族が、ある日突然に行方をくらませているんです」


 心霊案件だ!


「何それ。超おもしろそうなんですけど!」


 まさか剣と魔法のファンタジー世界で心霊現象と邂逅できるなんて思いもしなかった。


 わくわくが止まらない。ドキドキと胸が高鳴った。優羽だった頃のオカルト好きの血が騒ぐ。


 俺はただ霊を見て怖がったり、驚いたりしたいわけではない。


 その不思議な現象のシステムを解明したいのだ。エルウィンさんの目的もそうなのだろう。


「やっぱり、そう思いますか?」


 興奮を隠せない俺にエルウィンさんも目をキラキラと輝かせて問う。


「はい!」


「ではこの依頼を受けていただけますか?」


「もちろんです。協力させてください」


「ええっ? 受けるんですか」


 アリアさんは嫌そうだ。お化けとかは苦手なのかもしれない。


「アリアさんは嫌な感じですか?」


「嫌というか……噂とかではなく、本当に三家族も失踪しているんですよ?」


「だったら、なおのこと正義の味方として放っておけないじゃないですか!」


「そうですけど……」


「肝試しに行こうっていうんじゃないんです。どうしてそんなふうに家族が消えしまうことになったのかを解き明かして、この事件を解決するんです」


「そうですね。わかりました。私も……少し怖いですけど、正義のために立ち上がりましょう!」


「おお! ありがとうございます。ではまずはカウンターで手続きをしてしまいましょう」


 手続きを済ませる。前金で金貨十枚。大金だ。依頼完遂で別途金貨五枚という契約だった。


 前金のほうが多いのは、依頼の性質上解決に至らない可能性も高いので、エルウィンさんの配慮だろう。


 手続きが終わったら、もう一度テーブルに戻って作戦会議の始まりだ。


「実は私も少し噂を聞いただけなので、そこまで詳しい話は知らないのです。まず一度、アリアさんが知っている情報をできるかぎり詳しく教えてもらえませんか」


「わかりました。この話はこの町に住んでいる者なら誰だって一度は聞いたことがあるでしょう」


 そう言って、一度大きく息を呑み、アリアさんは話し始めた。


「家が建てられたのは七年ほど前になります。建てたのはクリストフ・ミュラーという男性で、彼はこの町で一番と評判の高級レストランのオーナーシェフでした。レストランで成功して建てた家がミュラー邸です。確か家族は奥様と、まだ小さな女の子二人の四人家族だったはずです。その四人がある日突然失踪したそうです。その後、ミュラー邸は持ち主を変え、そこに住むことになった別の二家族も立て続けに失踪しています」


 そこまで矢継ぎ早に話し続けると、少しだけ間を置いてアリアさんは言葉を続けた。


「さらに先ほども言いましたが、赤い服を着た少女の霊が出るという噂もあります。私も特別に詳しいわけではないので、知っているのはこれくらいです」


「ではとりあえず、一度ミュラー邸に行ってみましょうか」


 エルウィンさんはそう言って立ち上がる。


「わかりました!」


「はい……」


 俺は元気に頷くが、やっぱりアリアさんはまだ少し怖がっているようだった。


 そして俺たちはミュラー邸に向かうことになった。


 ミュラー邸は冒険者ギルドのあるこの町一番の大通りを町の中心へと向かって進み、中心の少し手前で西に入った高級住宅地の一角にあった。


 その家は豪邸の並ぶ住宅地の中では珍しく、それほど大きくない家だった。ただ、その家を覆う敷地だけは他の豪邸よりずっと広かった。


 その広大な庭はまったく手入れされておらず、雑草が生え放題になっていて、広い空き地の中にポツンと家と納屋のようなものがある。


 俺たちは敷地を囲う門を開けて、膝ほどまで伸びた草を掻き分けながら家へと向かった。


「ずいぶんと広い庭ですね」


 エルウィンさんが言う。


「そうですね。この家を建てたクリストフさんの実家は畜産業をしていて、彼はとても食材にこだわる料理人だったそうです。それでこの広い庭で、家畜を育てたり畑を作ったりしていたそうです」


「なるほど。それでこんなに広いんですね」


「じゃあ、あの納屋みたいなのは家畜小屋ですか?」


「たぶんそうだと思います」


 家の前に立つ。


 高級住宅地には不似合いな普通の平屋だ。


 手入れがされていないわりには外観に問題は見受けられない。


 それでも庭が荒れ果てているからだろうか、それとも噂の話を聞いたからだろうか、何か不気味で嫌な感じがした。


 なんと言えばいいのだろう。この場所だけ宵の淵にあるような感じだ。


 悪寒というか温度が下がったような、闇が落ちて少し暗くなったように感じる


 エルウィンさんが鍵を取り出して鍵穴に差し込む。


 隣からはアリアさんが生唾を飲み込む音が聞こえた。


「では、開けますよ」


 そう言って、エルウィンさんがドアを開けた。


 留め具が錆びていたのだろう、キィーっときしむような耳障りな音が響いた。


 ドアが開くと共に、そこから闇が広がっていくように嫌な感じがより濃くなった。


 きっとプラシーボ効果のようなものだろう。噂を聞いたからそう感じるだけで、何も知らなければ何も感じなかったはずだ。


 現に一番怖がっているのは、この家について一番よく知っているアリアさんで、気配や敵意に敏感なネコはとくに何か感じている様子はなく平常運転だ。


「では、入ってみましょう」


 エルウィンさん、俺とネコ、アリアさんの順番で家に入っていく。アリアさんは俺を盾にするみたいにタナットの隙間から俺の背をぎゅっと掴んでいるが、あえて指摘はしないことにしよう。


 家の中に入るとまた一段階温度が下がったような気がした。


 広めの玄関で靴を脱ぐ。


「汚れていると思うので、上履きを用意しておきました。どうぞ使ってください」


 さすがエルウィンさん、用意周到だ。エルウィンさんの用意してくれた布靴のようなものを履いて家に上がる。


 玄関を抜けて、一つ一つ部屋を回っていく。


 何か気配のようなものを感じる気もするが、神経が過敏になっているだけだろう。ネコも普通にしている。


 家の状態はほこりが積もってはいるもののそれほど荒れ果ててはいない。


 家具もそのまま残っていて、掃除さえすれば今日から移り住むことだって可能だろう。


 シェフの建てた家というだけあって、特にキッチン周りは充実していて、とても大きな冷蔵庫があった。


 冷蔵庫といっても、この世界に電気は存在しないので、魔法で作った氷と一緒に保存するタイプのものだ。


 他に気になったものといえば、いくつかの部屋の天井付近の壁にある直径5センチほどの四角形の黒い穴。エルウィンさんの考えによれば、空調のためのものだろうということだった。


 そうやって家の中を見て回っていると、俺の横を歩いていたネコが急に足を止めた。


 何か異変を感じたのかと身構えたが、違った。視線の先に風呂場があっただけだった。ネコはお風呂が嫌いなので、風呂場だって嫌いなのだ。


 だから俺たちはネコをその場に置いて、風呂場に近付いていった。


 俺が先頭に立って、風呂場のドアに手をかけて開こうとしたときだった。


 首筋に悪寒が走った。鳥肌が立つ。何かすごく嫌な感じがした。


 それでも俺はドアを開く。


 むわっと嫌な感じがさらに広がった。


 ドアの向こうでは、石造りの風呂場に大量の黒カビが発生していた。カビ特有の腐った木材のような嫌な匂いがする。


 不快感の理由が心霊的な現象ではなかったことに胸をなでおろしたその瞬間――


 俺の背を掴んでいたアリアさんの手に驚くほどの力がこもった。


「きゃあーーー!」


 そして悲鳴。


 アリアさんに引っ張られるような形で抱きつかれた。


「あ……あれ……」


 アリアさんが俺の背中越しに、先ほど通って来た廊下の先を指差す。


 そちらに目を向けてみるが特に何もない。


「あれって何ですか?」


「私もわかりません」


 エルウィンさんも首を振る。


「お二人には見えないんですか?」


「アリアさんには何か見えているんですか?」


「きゃあーーー!」


 また叫んで、抱きつく力が増す。俺とアリアさんに挟まれているタナットが心配になるレベルの強さだ。


「大丈夫ですか?」


「き……いなく、なりました」


 息を切らしながらアリアさんが言う。


「それで何が見えていたんですか?」


「本当にお二人には見えなかったんですか?」


「俺には何も」


「私もわかりませんでした」


 俺とエルウィンさんは首を振る。ネコも特に何かを警戒している様子はない。


「噂で聞いた、赤い服の少女がいました。そして私の方を見ながら、ここから出て行けというようなことを叫んで消えていきました」


「その少女の見た目などを詳しく話すことはできますか?」


 エルウィンさんが興奮気味で聞く。


「はい。でも一度、ここから出たいです」


 アリアさんは俺の背にしがみついたまま酷く震えている。


「そうですね。一度、外に出ましょう」


 そう言ってから家を出ると、アリアさんはやっと俺の背から離れて話し出した。


「あれは噂に聞いたとおりの赤い服の少女でした。とにかく赤い服が印象的でした。赤いワンピースだったと思います。顔も見たはずなんですけど、赤い服だけがはっきりとしていて、他はぼやけていたというか、濁っていたというか……思い出そうとすると夢の中の出来事みたいに、ぼんやりとしか思い出せないんです」


 アリアさんは必死に自分だけが見たものを言語化していく。真剣に話すその姿は、嘘や冗談を言っているようには見えない。


「それと……何か強い違和感のようなものがありました。何と言えばいいのでしょうか……無理矢理言葉にするのなら、写実的な絵画の中にあるのに、黒く縁取られた輪郭線があるような、そんな違和感がありました」


 おもしろい話だ。それはきっと前世でいうところのできの悪い合成写真のような感じだったのだろう。


 本来それが存在しない空間に、無理矢理上から貼り付けたような違和感。


「それはとても興味深い話ですね。霊が見える人と霊が見えない人がいるというのはよく聞く話です。アリアさんはこれまでも霊を見たことなんかはあるのですか?」


「ありません。今回が初めてです」


「なるほど。そうですね……ではいったんお昼にでもしましょうか」


 そう言われて、空を見上げると太陽は空の真ん中にあった。


「そういえば、この家を建てたというクリストフさんのレストランはまだ営業しているのでしょうか?」


「はい、営業を続けています。私も家族で行ったことがあります。この町で一番値の張る高級店ですが、客を選ぶことはなく、服装規定などはありません」


「ではせっかくなので、そのレストランに行ってみましょうか」


「あ、ただ人気店なので予約なしでは無理かもしれません」


「それは大丈夫でしょう。高級店では上客の急な来店に対応するため、常に数席空きが用意してあるものです。ガナスの王族である私や、ヴェリオル家の令嬢であるアリアさんの名を出せばどうとでもなるでしょう」


 そう言って笑うエルウィンさんに、俺は少しだけもやっとしたものを感じてしまう。


 優羽はそういった権力者の特別扱いが嫌いだった。でもそれが誰かの席を奪うわけではないというのなら、わざわざ目くじらを立てる必要はないだろう。


 それに店側が上客にサービスすることだって当然のことなのだから。


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