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第20話 決意


 ――アリア視点――



 今日は私の誕生日。


 私、アリア・ヴェリオルは今日二十歳になった。大人になった。ただそれだけで特に変わることなんて何もないだろうと考えていた。


 しかし違った。昨日の私と今日の私は明確に違っていた。


 幼い頃の私には夢があった。この世界に蔓延る悪と戦う正義の味方になる。それが私の描いた夢だった。


 そして私はこの町の衛兵になった。悪を取り締まり、正義のため懸命に働いた。


 幼い頃に描いた夢とは少し違う。


 でも、まぁ現実はそんなもの……だからそれでいいと思っていた。


 世界を悪から守れなくても、この町を守っている。それで納得できているつもりだった。


 しかし昨日耳にした言葉が耳から離れない。


「この世界で起きている出来事で俺に関係のないことなんて一つもない」


 私は直接聞いたわけではないが、デニースさんが助けられたとき、アゼルという青年がお前には関係ないとキミッヒ兄弟に言われて反論したときの言葉らしい。


 ずっと私は聞こえないふりをしていた。この町の外で起きている様々な悲劇は自分には関係ないことだと耳を塞いでいた。


 幼い頃の私は決して今のような私を夢見ていたわけではない。


 幼い頃の私が夢想していた正義の味方は、世界を旅して困っている人を助けるヒーローだった。


 本当はずっとずっと考えていた。


 そのたびに何度も自分に言い聞かせてきた。これでいいのだ、充分だと。


 それでもやっぱり考えてしまう。本当にこれでいいのかと。


 神がこの世界をエーテルで満たす以前、世界は公平ではなかったという。生まれ持った才能や環境に左右されて、願い努力を重ねるだけではなりたいものになれるわけではなかったらしい。


 しかし現在の世界は違う。


 勿論、相応の努力は必要だが、誰だってなりたいものになることができる。才能による差など努力で簡単に覆すことができる。


 人は誰でも願い努力を重ねることで、なりたい自分になることができる。


 だから諦める必要なんてない。私も強く願い、より努力を重ねれば、子供の頃夢見た正義の味方に近づくことができるはずだ。


 町を守る衛兵ではなく、本当の正義の味方に。


 それはとてつもなく難しいことだろう。血の滲むような努力が必要になるだろう。それでも一人では難しいことだったとしても、仲間と一緒になら可能かもしれない。


 昨日、キミッヒ兄弟を連れた教会までの道のり、私はアゼル・イグナスと名乗った冒険者の青年に旅の目的を聞いた。


 彼は幸せになりたいとは言わなかった。彼は旅をしながらたくさんの幸せを集めていると言っていた。


 だからきっと彼は、多くの人を幸せにするために旅をしているのだろう。


 昨日だって彼は見知らぬ女性を助けるために、誰もが見て見ぬふりしかできなかった悪にたった一人で立ち向かった。彼は私が幼い頃夢に見た理想の正義の味方だった。


 だから彼の仲間にしてもらおう。彼と一緒に旅をして、私もたくさんの幸せを集めよう。


 それはきっと私の理想の人生に違いない。想像するだけで心の中がキラキラでいっぱいになる。


 騎士団は辞めることになってしまうが、それは問題ない。


 この町には私の力はもう必要ない。先日町に戻ってきた父が急に正義に目覚めたのだ。利益よりも優先すべきものがあると父といつも対立していた姉のアルエに事業のほとんどを任せて、自分は法律の改善に尽力すると言い出したのだ。


 初めは自分がより金儲けをするために法改正を目指すのかと思っていたが、よく聞いてみるとそうではなかった。


 父は国民がより幸せになれるように改善を目指していた。


 家族が集まって食卓を囲んでいるときも、ずっと父は新しいオモチャを買ってもらったばかりの子供みたいに目を輝かせて、こうすれば国はもっと良くなると熱く語っていた。


 父に何があったのかはわからない。それは話してくれなかったが、私にとっては良い変化であることは間違いなかった。


 父はもともと何か一つの目的に邁進する気質の持ち主だった。それが今までは金儲けだったのだが、国をよくするという目標に変わったのだ。


 父の影響力は大きい。だからこの町は父に任せておけば安心だろう。事業のことも姉に任せておけば大丈夫だ。姉は父とはまた違った力を持っている。父が敵を蹴散らす絶対的な力を持っているとするならば、姉はその誠実な魅力で敵をも虜にして味方に引き入れてしまう。


 そうなると唯一の問題は、私が旅に出ることを父が許してくれるかどうかだ。


 しかし私はもう大人。自分の生き方を決めることに父の許可は必要ない。


 今日の夜、家族が私の誕生日を祝ってくれる。そのときにみんなに報告することにしよう。


 私は旅に出ると……





 ――そして夜。


 父と母、私と姉と弟の家族五人が集まっていつもよりずっと豪華な食事の並んだテーブルを囲んでいた。


 我が家で開かれるパーティーは誰が主役であっても、いつだって父の演説から始まる。


「私は今まで間違っていた。法律を犯していないのならそれは正しいことなのだと勘違いしていた。アルエやアリアが何度も忠告してくれていたのに、私は少しも耳を傾けようとはしなかった。しかし今回の薬の買占めによって起きたことを自分の目で確認して、自らの間違いに気付くことができた。すでに犯してしまった過ちを覆すことはできないが、これからの行いを正すことはできるはずだ。皆にも私が正しく変われるように力を貸して欲しい」


 そう言って、父は視線を私の方に向けると、笑顔を浮かべて言葉を続けた。


「それでは今日はアリアの誕生日だ。しかも今日からアリアは大人の仲間入りだ。アリア、誕生日おめでとう」


「おめでとう。アリア」


「おめでとう」


「おめでとう。姉ちゃん」


「おめでとうございます。お嬢様」


 みんなが私の誕生日を祝ってくれる。家族だけでなく、使用人たちも祝福の言葉を贈ってくれる。


「ありがとうございます。私をここまで育ててくれたお父様とお母様、そしてずっと私を支えてくれた皆様に心から感謝しています」


 お礼を言って私は立ち上がった。そして決意を言葉にする。


「私は今日、二十歳になりました。私は騎士団を辞めて、旅に出ることを決めました。冒険者となって、人助けをしながら幸せを集める旅に出ようと思います」


 私は真っ直ぐに父を見つめてそう言った。


「何を考えている? お前が子供の頃から英雄に憧れていることは知っている。しかしそれがどれだけ危険なことかわかっているのか? お前の努力こそ認めてはいるが、お前一人でいったい何をなせるというのだ?」


 父も立ち上がり声を荒げた。


 反対されることはわかっていたので驚きはない。父が私のことを案じて反対してくれていることも理解している。だから私はこれから父を説得しなければならない。


「一人で旅に出るわけではありません。今この町にいる冒険者のアゼル・イグナスという方の旅に同行させてもらうつもりでいます」


「アゼル……あのスノーリンクスを連れた青年か?」


「彼を知っているのですか?」


「ああ。この町に戻るときに同行してくれた冒険者の一人だ。少し話しただけではあるが、公平で真っ直ぐな印象を受けた。誰かグラウを呼んでくれ」


 父に言われて使用人の一人がグラウさんを呼びに行く。彼は新しく父に雇われた護衛だ。


「お呼びでしょうか。旦那様」


 近くに控えていたのだろう。グラウさんはすぐにやってきた。


「ああ。あのとき一緒にいたアゼル・イグナスという冒険者のことが知りたい」


「アゼルのことですか……実のところ、私も良くは知りません。彼は教会の紹介で急遽パーティーに加わりました。冒険者にはなったばかりでランクはDだということですが、その実力は相当なものであると推測します。あの時……彼はたった一人で私たち他の冒険者全員と戦うこともいとわないようでした。しかし彼の目には怯えも、覚悟すらも感じられませんでした。その背には守るべき妹がいたにもかかわらずです。彼にとってそれは覚悟すら必要としない簡単なことだったのかもしれません」


「そんなことがありえるのか?」


「実際に手合わせをしたわけではないので、確かなことはわかりません。私がそんな印象を受けたというだけです」


 父たちが何のことを話しているのかはわからない。それでも彼の強さについて話していることだけはわかった。


 だから私も知っている情報を提供する。


「彼はAランク冒険者であるキミッヒ兄弟を一人で簡単に制圧していました」


「捕らえられたとは聞き及んでいたが、彼がとは……そもそもあのキミッヒ兄弟の防御魔法は世界でもトップクラスだと言われているのだぞ。それをいったいどうやって?」


「一瞬のことでわかりませんでしたが、彼らに防御魔法を使う間も与えていないようでした」


「確かに展開される前に攻撃されてしまえば、どんな防御魔法も意味をなしはしません」


「なるほど……確かに実力はあるのかもしれない。しかしだからといって、お前を旅に同行させるわけにはいかない」


 父は頑として私が旅立つことを認めてはくれない。


「いいではありませんか、お父様。アリアももう大人なのです。アリアがそれを望むのなら応援してあげましょう」


 姉が援護をくれた。姉はいつだって私の味方をしてくれる。


「そうですね。アリアはこの家で誰よりも真っ直ぐで、頑なです。アリアがもう決めたと言うのなら、今更あなたや私が何を言ったところで無駄でしょう」


 母もまた私の味方に回ってくれた。


「しかし……」


「それよりです! そのアゼルさんという方はアリアの恋人なのですか?」


 父が何か言おうとしたが、それを遮って母が言葉を続けた。


「ち、違います。そもそも昨日会ったばかりです」


私は大きく首を振って答える。母は他人の恋愛話や恋愛相談が大好物なのだ。私たち姉妹はそういう話に縁遠いので、いつも使用人たちの恋愛相談に乗っている。


「じゃあ、一目惚れなのですね」


「違います。そういうのではありません。彼は同じ正義を愛する……そう、同志です!」


「そうですか……はぁ……つまらない。アルエも仕事ばかりで恋のお話はさっぱりだし、アルベルトも部屋にこもって絵ばかり書いているし……いったい何時になったら、私は我が子の恋愛相談に乗れるのでしょうか……」


「まぁ、旅を許可するかどうかの前に、私も彼としっかり話がしてみたい。一度、彼を家に連れてきなさい」


 それていた話を父が元の道に戻す。


「わかりました。彼に旅の同行をお願いして、許可をいただいてから来ていただきます」


「えっ? まだ彼に同行の許可をもらっていないの?」


 姉が言う。


「はい。先にお父様から旅に出るお許しをいただこうと……彼にはまだお願いもしていません」


「じゃあ、まだ何も決まっていないじゃない。彼に断られるかもしれないし」


「そんなことはありません。私が決めたんです。私は絶対に彼と共に正義の旅に出ます!」


「あの……僕、もうお腹がペコペコなんだけど。もう食べていい?」


 いつもマイペースの弟がナイフとフォークでお皿を叩きながら言う。


「わかった。とにかく一度彼を連れてきなさい。そのときにもう一度話し合おう」


「わかりました」


 私は父の言葉に頷いて、イスの上に腰を下ろした。


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