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第18話 正義の味方


 ――ならず者に捕まっていた女性視点――



 私は幼い頃からずっと事なかれ主義だった。何事にも消極的で顔には微笑の仮面を貼り付けて、波風を立てないように静かに生きてきた。


 十八歳のとき、そんな私を好きだと言ってくれる人が現れた。それは父と付き合いのあった七歳年上の商人の男だった。


 断るのも面倒だったし、両親も乗り気で優しそうな人だったので、私は彼と結婚した。


 その判断は正解だった。共に過ごすうちに私は彼を好きになっていった。今では子供も二人いて、愛に満ち足りた日々を過ごしている。


 それでも私が事なかれ主義であることは変わらない。今日も私は微笑の仮面を貼り付けて、食堂で義理の姉の延々と続く愚痴に付き合っていた。


 おかげで帰路につく時間が少し遅くなった。


 そして帰り道の途中、私は二人の男に声をかけられた。


 私は彼らを知っていた。噂を耳にしたことがあった。彼らはどこか遠くの国で問題を起こして逃げてきた高ランクの冒険者らしい。


 彼らはこの町でも多くの問題を起こしていた。


 例えばある女性が彼らに高額の報酬を約束されて、夜の相手に買われた。その女性は激しい暴力を受けて瀕死の重傷を負った。しかしその傷は彼らの魔法によって癒された。そして回復魔法の代金を差し引いたということで、その女性は報酬すらもらうことができなかったという。


 私がいくら事なかれ主義だからといっても、そんな男たちの誘いに乗ることはない。


 しかし私がいくら断っても、彼らは私を解放してはくれなかった。


 嫌だった。彼らのおもちゃにされることは絶対に嫌だった。


 だから私は慣れないながらも声を荒げて、強い意思を示した。


 それでも彼らは離してくれない。


 助けを求めて辺りを見回すが、誰もが見て見ないふりをして目を合わせてくれない。そんな中、私がこんなことに巻き込まれた元凶でもある、義姉と目が合った。


 しかし彼女も目をそらし、早歩きで行ってしまった。でも彼女を責めることはできない。私も同じ状況なら、そうしただろう。


 誰も助けてくれないなら、自力でどうにかするしかない。しかしどれだけ力を込めて抵抗しても男はびくともしない。それどころか男たちはそんな私の必死の抵抗すらも楽しんでいるみたいに、薄汚い笑みを浮かべていた。


 涙が溢れる。


 どうすればいいのだろう。どうすれば私は愛する家族の下に戻れるのだろう。彼らの言うとおりにすれば、帰してもらえるのだろうか。


 そんな諦めにも似た考えが頭にもたげたときだった。


「やめろ」


 それは少年の声だった。まだ大人ではないだろう。十代後半だろうか、幼さの残る中性的な容姿をした青年だった。


 男たちにお前には関係ないと言われたその青年は「この世界で起きている出来事で、俺に関係のないことなんて一つもない」と答えた。


 そして私は解放された。手を離された瞬間に私は全力で逃げ出した。


 私を助けてくれた青年の方に振り返ることもせず、私は必死で走った。


 本来の私であればこのまま家に戻っただろう。あんな男たちとは二度とかかわりたくない。家に帰って、今日のことを記憶から追い出すために、家族たちに無理に明るく振舞ったりしただろう。


 しかしそんなことはできない。あの青年は言ってくれたのだ。「この世界で起きている出来事で、俺に関係のないことなんて一つもない」と。それなのに私が関係ないと逃げ出すことなんて許されない。


 だから私は助けを求めた。相手は有名な冒険者だ。ただの衛兵なんかでは太刀打ちできない。正義の味方の力が必要だ。


 息子が以前、瞳を輝かせて言っていたことを思い出す。この町には正義の味方がいる――と。


 彼女の名前はアリア・ヴェリオル。彼女もまたこの町の騎士団に所属する衛兵ではあるが、彼女は他の衛兵とは違う。


 彼女は決して悪を許さない。どんな強大な力を持った悪も彼女に凶弾されればおしまいだ。


 なぜなら彼女はヴェリオル商会の令嬢だった。彼女に戦いを挑むということは、ヴェリオル商会を敵に回すということにほかならない。


 どんなに強い冒険者であっても、高ランク冒険者を何人でも雇うことのできる権力者を敵には回したくないはずだ。


 だから私は彼女に助けを求めるために走った。



 ――アリア・ヴェリオル視点――



 明日は私、アリア・ヴェリオルの誕生日だった。明日、私は二十歳になる。


 この国では十七歳から二十歳になるまでは大人への準備期間ということで、どんな失敗も大目に見てもらえる。そして二十歳からは大人として厳しく扱われることになる。


 だから明日、私は大人になる。


 私は生まれときから特別だった。しかし本当の意味で特別なのは私ではなく、私の父親だ。


 私の父親はアーリング・ヴェリオル。この国で一番の商人だ。私は父に溺愛されていた。


 だから私にはすべてが与えられた。その中には教育もあった。私は専属の家庭教師たちから多くのことを学んだ。


 そして知識を得た私は気付いてしまった。私の愛する父親が、決して善良ではないということに……


 父は自分が儲けるために他の誰かが傷つくことを気にもとめなかった。


 もちろん父は法に触れるようなことはしなかった。それでもルールの範囲内であればなんだってやった。


 父は法は犯さない。だから悪ではないのかもしれない。しかし少なくとも、正義ではなかった。


 それでも私は私を無条件で愛してくれる父を愛していた。しかし父のようにはなりたくはないと思った。


 だから幼い私は正義の味方になると心に決めた。父の分も自分が善良に生きようと思った。


 大好きな物語に出てくる英雄のように、悪を挫く正義の味方になると決めたのだ。


 それから私は父に頼み込んで剣と魔法の教師も雇ってもらった。


 剣の先生はこの国一番の女剣士エルナ・ステア。魔法の先生はわざわざ魔法の本場ガナスから呼んだラケーレ・アルヴィオン。


 私は特別何かの才能に秀でていたわけではなかったが、教わることは得意だった。先生たちからはかわいがられ、多くを吸収して戦う力を得た。


 そして私は悪と戦うためにこの町の騎士団に入り、衛兵になった。


 父が多額の寄付をしてくれたこともあって、私には初めから専属の部隊が与えられた。


 金持ちの道楽と囁く声もあったが、私は気にせず精力的に働いた。私の主な目標は普通の衛兵たちではなかなか手の出せなかった権力者たちだ。


 それが父と敵対しているような相手だった場合は、父が全力で力を貸してくれた。


 相手が父の知り合いだった場合などはうやむやにされてしまうこともあったが、悪いことをすれば面倒なことになると印象付けることくらいはできたはずだ。


 結局、私がなしたことは、すべて父の力によるものだったかもしれない。それでも私が行動したからそれをなすことができた。


 今では私もこの町でそれなりに認められている。


 そんな私のもとに、今日も助けを求める女性が現れた。


 それは見知った女性だった。確か父の部下の奥さんだ。名前はデニース・マラシア。何度か懇親会で見かけたことがあるが、とても淑やかで美しい人だ。


 そんな彼女が必死な形相で助けを求めてきた。


 話を聞いてみると、最近町で問題になっている二人の冒険者に絡まれたところをまだ若い青年に助けられたらしい。


 彼を助けて欲しいと彼女は涙ながらに懇願した。


 そんなこと当たり前だ。それが私の仕事なのだから。


 相手の強大さは関係ない。大切なのはそれが正しいことかどうかだ。だって少女だった私は正義の味方になると誓ったのだ。あの日の私を裏切ることはできない。


 だから私は走った。



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