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第12話 別れと旅立ち



 グランベルに来てから十一日目。


 孤児院の子供たちと、牧師さんたちに見送られて俺は教会を後にする。


 教会で過ごした十一日間は、多くの笑顔に囲まれたとても幸せなものだった。昨日の夜はお別れ会までしてくれた。豪華な料理をみんなで食べて、贈り物も貰った。リサが中心になって孤児院の女の子たちでネコ用の脚飾りを作ってくれた。糸で編んで作ったミサンガだ。表にはネコの名前と俺の名前まで編みこんである。


 男の子たちとは拳と拳を付け合せて別れの挨拶をした。エドガーは「師匠、ありがとうございました。俺も絶対に強くなって冒険者になります」と涙を流しながら言ってくれた。


 牧師さんたちは旅の安全を祈ってくれた。


 たくさんの思い出と温かな想いを受け取って、俺たちは新たな旅に出る。


 まず向かったのは冒険者ギルドだ。俺たちはアレイナさんの口利きで、商人の護衛としてグラスブルクに向かうことになっている。


 ギルドに到着すると、ランク査定のときにお世話になったバドルさんが二十代後半くらいの男の冒険者と揉めていた。


 耳をそばだてて、様子をうかがう。


「話が違う! どうして俺たちに相談もなく、勝手にメンバーを加えた?」


「お前たちに断りもなく加えたのは悪かったが、依頼主の方には許可はとってある。依頼主が追加メンバーのぶんも金は出してくれるんだから、お前たちの分け前が減ることはない。護衛が増えるぶんには不都合はないだろう?」


「確かにそうだが、気心の知れたメンバーで計画を立てていたんだ。名前も知らない新人の面倒をどうして俺たちがみなくちゃならない?」


「Dランクの新人だが、腕のほうは俺が保証する。あいつの魔法はちょっとお目にかかったことのないレベルだぞ。それにそもそも今回の護衛のメンバーはほとんど寄せ集めじゃねえか。新人が一人増えたくらいでぐだぐだ言うな」


「しかし」


「しかしもくそもねえ。これはもう決定事項だ。護衛が増えるのが気に食わないのなら、護衛対象が増えたとでも思えばいい」


 ああ……たぶんこれは俺のせいで揉めている。アレイナさんが口を利いて、俺たちを無理矢理護衛にねじ込んでくれたのだろう。


 俺が諍いの理由であるのなら、ここで眺めているだけというわけにはいかない。


「あの……」


 言い合いを続けている二人の間に、恐る恐る割って入った。


「おう、アゼル。来たか。ほらジャック、こいつが追加の新人アゼルだ。そんで妹ちゃんはまた後ろにはりついているのか」


「はい」


 タナットは顎を俺の左肩の上に置いて背中にはりついている。ミランに一度進められて以来、タナットはこの兄妹月スタイルがなかなかのお気に入りだ。


「新人で、しかもガキまで連れているのかよ……」


 確かにタナットの存在は、真面目に護衛の仕事をしようとしている人から見れば、仕事を舐めていると思われても仕方がない。


「特に問題はない。こいつはこの状態で査定をクリアしている。従魔のスノーリンクスもいるし、馬鳥も二羽連れている。充分な戦力だ」


 すぐにバドルさんが庇ってくれる。


「わかったよ。仲間に伝えてくる」


 そう言って、ジャックさんはどこかに行ってしまった。


「無理を言ったようで、すいませんでした」


 バドルさんに頭を下げる。


「いやいや、お前に謝られる必要はない。アレイナに頼まれたんでな」


「バドルさんはアレイナさんとは知り合いなんですか?」


「ああ。あいつが冒険者をやっていたとき、何度か組んだことがある。それこそ俺のかみさんの命を助けられたこともあるんだ。だからあいつの頼みは断れないのさ」


 バドルさんは豪快に笑いながら言う。


「それより、五日から六日はかかる旅になるはずだが、妹は大丈夫なのか」


「はい。タナットは大丈夫です」


「ならよかった。それとだな……文句を言っていたジャックなんだが、ああ見えてなんだかんだ真面目でいいやつなんだ。ただ……あいつも確か一ヶ月ほど前に、流行り病で家族を全員亡くしていたはずだ。それで今はちょっと、あんな感じだ。そのへんは察しやって欲しい」


「そうですか……わかりました」


 彼の気持ちは痛いほどよくわかった。悲しみ以上に怒りがわく気持ちも理解できる。理不尽な現実に、そしてその理不尽を覆すことのできなかった自身の無力さに怒りが溢れるのだ。


 それはもしかしたら、深い悲しみで身動きが取れなくなることを避け、新たに前進するための精神的な作用であるのかもしれない。


「じゃあ、初仕事頑張って来い。それで冒険者としての拠点はそのままグラスベルクに移す予定なんだな」


「はい。そのつもりです」


「わかった。お前の活躍を耳にするのを楽しみにしているぞ」


「はい。行ってきます。いろいろありがとうございました」


 お礼を言って、隊商と合流するために市門へと向かう。


 合流した隊商は思ったより小さな規模だった。


 先頭に護衛の馬車。これは御者もジャックさんの仲間の冒険者たちで、馬車の中にも冒険者がいる。彼らは昼間に馬車の中で休んで、夜見張りをするのが役目だ。二番目の馬車は豪華な仕様で依頼主が乗る。三番目と四番目の馬車には商品が積んである。本来は先頭の馬車以外の御者は依頼主が連れてきた者たちが担当する予定だったのだが、食中毒を起こしたため、それも冒険者たちが担当する。食中毒の回復を待つという選択肢もあったが、依頼主の娘の誕生日が近く、期日どおりにグラスベルクに戻りたいらしい。


 そして最後尾で警戒に当たるのが馬鳥に乗った俺の役目だ。


 新参者である俺は出発前にとりあえず、挨拶に回る。


 まずは依頼主のアーリング・ヴェリオルさんとそのお付きのベルナルド・マハレズさんだ。


「急遽、護衛に参加させていただくことになりました、アゼル・イグナスです。よろしくお願いします」


「こちらこそ。護衛よろしくお願いします」


 アーリングさんはルヴェリアで一番の商家ヴェリオル家の当主らしいが、偉そうなところはっまったくない。金髪で青い目をした、背の高いかっこいいおじさんだ。年齢は五十歳くらいだろうか。


「ところで、そちらのお嬢さんは?」


 とベルナルドさん。ベルナルドさんもアーリングさんと同じ歳くらいのおじさんだ。お付きということだが、彼は専属の護衛だろう。視線の動き、足運びが明らかに戦士のそれだ。


「妹です。名前はタナットといいます」


「タナットさんもよろしくお願いします」


 ベルナルドさんがタナットにも挨拶してくれるがもちろんタナットからの返事はない。


「すいません。妹は話せないんです」


「そうですか……タナットさんはお兄さんが大好きなのですね」


 ベルナルドさんの言葉にタナット俺の肩の上で頷いた。


「これはまさにお月様のように仲の良い兄妹ですね。それでは護衛、よろしくお願いします」


「はい。後ろは任せてください。それとこいつを夜番に回したいんで、一番後ろの馬車に乗せてもらうこととかってできませんか」


「その従魔はもしかして、雪夜の死神と言われるスノーリンクスですか?」


「はい」


「おお。スノーリンクスを従魔にしている方を見るのは初めてです。わかりました。元々荷物は少ないので、荷物を壊したりしないのであれば問題ありません」


「ありがとうございます。もちろん荷物を壊したりはさせないので大丈夫です」


 これでネコを昼間は馬車の中で休ませて、夜の見張りにまわすことができる。


 ネコはなんといっても夜目が利く。それこそベルナルドさんが言っていたように、スノーリンクスは雪夜の死神とも呼ばれるほど危険な魔獣だ。雪山の夜、スノーリンクスに狙われることは死を意味する。雪に紛れて音もなく近づき、四肢を魔法で凍らされ、生きたまま食料にされてしまうらしい。


 そんな恐ろしい異名を持つネコが夜の見張りをしてくれれば、見知らぬ冒険者たちよりずっと安心できる。


 依頼主には挨拶が終わったので、次は共に護衛する仲間の先輩冒険者たちに挨拶に行く。


 俺以外の冒険者は御者役が二人一組の八人と一番前の馬車の中にいる夜の見張り役が四人。そして直接馬に乗って先行し道の安全確認や、馬車間の伝達などをする係りが二人の計十四人だ。


本当は十四人の一人、一人にしっかりと挨拶したかったのだが、みんな準備をしたりしていて忙しそうなので、とりあえず先頭の方にいる今回のパーティーのリーダーたちだけにでも挨拶することにした。


「急遽メンバーに加えていただいた、アゼル・イグナスです。足を引っ張らないように頑張ります。よろしくお願いします」


 挨拶した相手は、先ほどバドルさんと揉めていたジャックと呼ばれた冒険者と、彼と同じくらいの歳の女性冒険者。それともう一人、四十歳くらいのいかにも寡黙そうなスキンヘッドの男の冒険者だ。


「ああ。俺がこのパーティーのリーダー、ジャック・ルイスだ。後方と馬車から荷物が落ちたりしたときなどの確認はお前に任せる」


「はい。任せてください」


「私はナチェ・ブライネ。妹ちゃんもよろしくね」


「よろしくお願いします」


 話せないタナットのぶんも丁寧に挨拶を返す。


「私はグラウ・アカンジだ。私は夜番を任されている。君は腕が立つと聞いているよ。その技術を見られる機会を楽しみにしている」


「はい。もし機会があれば、期待にそえるように頑張ります」


 グラウ・アカンジ――この人はおそらく、この隊商の中で一番の実力者だ。背も高くはないし、それほど筋肉質でもない。しかし所作の一つ一つがしなやかで洗練されている。


 そして寡黙そうな表情の奥に強い怒りを感じる。俺は怒りには敏感だ。彼は溢れる怒りを必死で押さえ込んでいる。その怒りは俺に向けられているわけではないが、それでも彼が怒りを向けている相手はきっと近くにいる。


 しかしそんなことを俺が気にしても仕方がない。そろそろ出発だ。挨拶も済ませたので俺は後方へと戻った。



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