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第10話 ランク査定



 グランベルの町に着てから三日目。


 昨日は丸一日、孤児院で子供たちと過ごした。そして今日は午前中から買い物だ。


 タナットを肩車し、横にはネコ、後ろには二羽の馬鳥を引き連れている。馬鳥はココだけを連れてくるつもりだったのだが、馬屋に残されたズズが悲しそうな鳴き声を上げていたので、結局二羽とも連れてきた。


 まず買ったのはココ用の鞍。結構いいやつが金貨一枚払って銀貨十枚のお釣りがきた。これがこの世界で俺が始めてした買い物だ。


 村では父さんが生きていて普通に交流のあった頃でも、物々交換ばかりでお金を使った買い物はしたことがなかった。


 いろいろ見て回った結果、金貨一枚が前世でいうと二十五万円くらいで、銀貨が五千円、銅貨が百円といったところだろうか。


 俺の今の手持ちは家から持ち出した金貨が二百枚くらいある。大金持ちだ。両親には感謝しなければならない。


 お釣りの銀貨で子供たちへのお土産を買って、昼前には孤児院に戻る。


 そして午後、俺は冒険者ランクの査定のために、冒険者ギルドの近くにある広場に来ていた。とても大きな広場だ。この広場は冒険者ギルドのものではなく町の土地で、お祭などでも使われることもあるが、普段は騎士団の人が訓練に使っているらしい。


 査定を受けるのは俺と、もう一人だけだった。俺より少し年上くらいのガラの悪そうな男だ。


「おい。お前のランクは?」


「Gです」


 男に聞かれたので素直に答える。


「新人か。俺は今はEだが、今日でDになるだろう」


 自信満々にそう宣言するが、俺はなんて答えたらいいのだろう。無難に「そうですか」と頷いておいた。


「ところで、その女はなんだ?」


 その質問はもっともだ。今から戦闘力の査定を受けるというのに、俺の背中にはタナットがへばりついている。


「妹です。いろいろあって、今はこんな状態です」


 説明は難しいので、これでゴリ押すしかない。俺の説明に男は大笑いだ。そんなに悪い奴ではないのかもしれない。


「おっ、そうだ。どうせなら妹は右肩の上に顔を出したほうがいいんじゃないか?」


 男が何やらよくわからないことを言い出した。


 でもまぁ、タナットも俺の背中に顔を押し付けているより肩越しでも前を見ていたほうが楽しいかもしれなので、男の言ったようにしてみる。


「あ、ごめん。逆だった。俺から見て右だから、お前の左肩から妹が顔を出したほうがいいな」


「どっちでもよくないですか?」


「いやいや、超重要だって」


 重要だそうなので、言われたとおりにしてみる。


「完璧だな。これこそまさに月の様に仲の良い兄妹だ」


 そう言って男は満足そうに何度も頷くと、また大笑いだ。


 なるほど。この世界に月は二つあって兄妹月と呼ばれている。月の様に仲の良い兄妹というのもよく使われる言い回しだ。確かにこのフォルムは兄妹月っぽい。


「査定を始めるぞ」


 二人で話していると、強面のおじさんがやってきた。いかにも歴戦の戦士といった趣のおじさんだ。


「今日は、二人だけか。俺がお前たちの査定を担当する。Bランクのバドル・ダルミアンだ。まずはお前からだ。ミラン・ザノッティ」


「はい」


 名前を呼ばれ、ミランは前に出た。


「お前は剣術と魔法だな」


「はい」


「ではまずは、剣術からだ」


 二人は訓練用の木剣を構える。バドルさんが一本なのに対してミランは両手に剣を持っている。二刀流だ。


「ほう。双剣使いか、面白い。かかってこい」


 ミランが斬りかかる。右、左、右、左、交互に攻撃を重ねるが、全てバドルさんに見切られて跳ね返される。


「ほら、足下ががら空きだぞ」


 言いながら、バドルさんがミランの足を蹴る。


「せっかくの双剣なら、腕だけでなくもっと体全体を使え。視線も俺の剣だけでなく全体に向けろ。攻撃は剣からだけとは限らないぞ」


 バドルさんはアドバイスを与えながら、ミランからの攻撃を受け流す。


「まぁ、こんなものか」


 そう言うとバドルさんは、一瞬でミランの双剣を地面へと叩き落した。


「じゃあ、次はそのまま魔法だ。早くしろ」


 膝に手を付いて、肩で息をするミランをバドルさんが急かす。


 バドルさんを追って少し移動すると、金属製の的が五つ並んでいた。的から15メートル程度離れた場所に線が引いてある。そこから魔法で的を狙うようだ。


「よし。じゃあその線の上から、魔法で的を狙え。魔法の種類は問わない。得意なのでいいぞ」


「わかりました」


 ミランは線の上に立つと右手を前に突き出して構え、目をつむる。そして三十秒ほどの沈黙の後、目蓋を開いて叫んだ。


「ファイヤーアロー」


 突き出された右手から尖った炎の塊が生まれ、的へと向かって直進。見事に命中する。


 それを五回繰り返す。


「ふむ。発動には少し時間がかかっているが、精度は素晴らしい」


「ありがとうございます」


 アレイナさんに教わって知ったのだが、あれがこの世界における標準的な魔法らしい。目をつむり、魔道書と呼ばれる教本の手順にのっとってイメージを作る。そして魔法の名前を唱えてイメージを具現化することを願い、発動させる。


 俺が母さんに教わったやり方とは少し違う。母さんのやり方では魔法に決まった形や名前はない。好きに魔法をイメージして望んだ形に魔法をコントロールする。


「じゃあ、次はアゼル・イグナス、お前の番だ。お前は剣と体術、魔法でいいんだな?」


「はい」


「従魔を連れているようだが、魔獣使いは従魔の強さも冒険者ランクに加味される。それなのに従魔の査定はしなくていいのか?」


「はい」


 俺はこの町に来て魔獣を連れた戦士のことを魔獣使いと呼ぶことを知った。しかし、俺はたぶんそれとは違う。確かに野盗と戦ったときもネコと一緒に戦った。それでも俺はネコを使って戦ったわけじゃない。ネコと協力して戦っただけだ。ネコは俺の武器の一つではなく、家族であって仲間だ。


 だからネコの力がパーティーのランクとして反映されるのは構わない。しかし俺自身のランクとして反映されるのはおかしいと思うのだ。


「ほう……従魔に頼らないその姿勢には好感が持てる。しかしだ、その背負っている少女はなんなんだ」


 またこの質問だ。用意してある答えは一つしかない。


「妹です。いろいろあって、今はこんな状態です」


 これでゴリ押すしか道はない。


「そのまま査定を受けるつもりか?」


「はい。とても意思の強い妹です。今日はもう俺から離れるつもりはないようです」


 横で見学しているミランはやっぱり笑っている。心の底から楽しんでいる好感の持てるいい笑顔だ。


「……そうか。俺にも娘がいる。そのくらいの歳の女の子は難しいからな。妹には害が及ばないように配慮はしよう。しかしそのぶん、お前には厳しくいくぞ」


 簡単にゴリ押せた。前世の世界よりこの世界の人々は寛容であるようだ。


「ご配慮、ありがとうございます」


「それではまずは剣術からだ」


 剣を構えて考える。タナットが背中にへばりついているので、相手に背中は見せられないし、あまり激しい動きもできない。


 それにこれは査定なので、きっと初めのうちは俺に攻撃させてくれる。


 だから――上段から剣を振り下ろす。その攻撃を受け止めるために相手は剣を頭の上に移動させる。その動きを確認してから俺は左足を大きく後ろに下げながら脇を締める。振り下ろされるはずだった攻撃は強制的にキャンセルされて剣は左に移動する。そのまま剣を左から攻撃しようとした――が、簡単に押さえ込まれた。


 頭の上で構えていた剣でではなく、右手で俺の右ひじを制された。


「面白いフェイントだ。ほらどんどん攻めて来い」


 その後も俺は剣での攻撃を繰り返すが、一度もバドルさんには届かなかった。たぶんバドルさんの剣の腕は父さんと同じくらいだ。


「じゃあ、次は体術だな。しかし、体術をそんな状態でいけるのか?」


「大丈夫です。やれるだけやってみます」


「わかった。それでは構えろ」


 俺は構える。右足が前の半身、俺は右利きだがあえて構えはサウスポースタイルだ。左手を顔の前で、右手は少し下げた状態だ。


 体術は特に初手が難しい。だからだろうかバドルさんから攻撃してきてくれた。様子見の右のジャブ。


 あまりスピードもない軽い攻撃だ。俺はそれを見逃さない。大きく前に左足を踏み込んで、左手でその攻撃をいなす。そして右フック。バドルさんは左腕で顔をガードする。俺はそのガードの上から右フックを入れるのではなく、相手の腕ごと右から巻き込むように左に後ろへと押す。その圧力に耐えるため、バドルさんの体重が右足に大きく乗った瞬間、その右足を俺の右足で狩る。柔道でいうところの大外狩りだ。


 バドルさんは大きく宙に浮き上がり、背中から倒れた。


「面白い技だ。そもそも俺は体術にはそんなに自信がない。査定は今ので充分だろう。次は魔法だ」


 線の上に立って的を見据える。


 さて、どうしよう。アレイナさんからは無発声はあまり人に見せない方がいいと言われている。だからといって、必要以上に実力を隠すメリットもない。


 俺には必要はないのだが、手を前に出して構える。そしてつぶやくように言う。呪文を口にするのは初めてなので、なんだか少し恥かしい。


「ファイヤーアロー」


 構えた手の前ではなく、頭上に矢の形をした炎が五つ現れ、直進する。そして五つ、全て的を射抜いた。


『おお』


 ミランとバドルさんから歓声が上がる。


「これは、たまげたな。すげえ、新人が現れたもんだ。お前は魔術師か?」


 この世界では練習さえすれば誰だって魔法が使える。それゆえに魔法使いと魔術師は分けて語られる。魔法使いとは魔法を主軸として戦う者を指し、魔術師は魔術ギルドに所属して魔法を研究する者のことを指す。


 だから俺は魔術師ではない。そしてギルドに所属すつもりもない。母さんは魔術師ギルドを嫌っていた。トップは頭の固い年寄りばかりで、老害共から学ぶことなど一つもないと、母さんはいつも魔術師ギルドの悪口を言っていた。


「いえ。魔術師ギルドには入っていません」


「そうなのか。入ったらどうだ? 歓迎されると思うぞ」


「入るつもりはないです。めんどくさそうなので」


「ははっ。確かにな。あそこはめんどくさい奴らばっかりだ」


 そう言って、ひとしきり笑うと、バドルさんは言葉を続けた。


「じゃあ、査定の結果だ。アゼルは余裕でDだな。ミランはギリギリでDだ。より上を目指すなら、もっと早く魔法を顕現させられるようにしたい。それこそ魔術師ギルド入ってみるのもいいかもしれん。この後はギルドに戻って、ギルド証を交換しておしまいだ」


 よし、これで俺もDランクだ。背中に張り付いていたタナットを肩車して、ミランと互いの健闘を称えあいながら、ギルドに向かった。



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