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後宮の雀はおしゃべりがお上手で3


 翌日。

 昼餉ひるげを終えると鶯は後宮の奥の間で文机ふづくえに向かっていた。

 巻物を広げて筆でさらさらとふみを書く。もちろん宛先は地上で暮らしている萌黄である。

 鶯は文を書き終えるとしゅるしゅる巻いて紐で結んだ。


「どうぞ、出てきてください」


 そう言うと空間から鮮やかな羽毛の大型のきじが出現する。鶯の式神だ。

 きじは天井をぐるりと旋回すると鶯の前に降り立った。


「この文を斎宮にいる萌黄に届けてください。お願いしますね」

「ピィッ」


 雉は返事をするようにひと鳴きし、差し出された巻物を爪で掴むと飛び立っていった。


「ははうえ、もえぎにおくったのか?」

「そうですよ。紫紺は上手にできましたか?」

「できた! ほら、オレのて!」


 紫紺が自慢気に見せたのは自分の手形だった。

 紫紺は自分の手を墨で塗ってぺたんぺたんと手形遊びをしていたのだ。

 そしてその隣には青藍の小さな手形。紫紺の子どもの手形の隣に赤ちゃんの小さな手形がぺたぺたとたくさん押されていた。


「あうあ〜!」

「ふふふ、二人とも上手にできましたね。可愛らしい手です」


 鶯は可愛い手形に微笑んだ。

 最初は一人で文を書いていた鶯だが、紫紺と青藍がやってきて手形遊びを始めたのである。

 その時は鶯の邪魔をしないように女官たちに世話をされていた紫紺と青藍だが。


「終わったか?」


 黒緋の疲れた声。

 今まで黒緋が手形遊びをする紫紺と青藍を見ていたのである。

 それというのも途中で黒緋が部屋にきて女官を下がらせたのだ。

 本当なら黒緋は政務中だったが、休憩になるとわざわざ鶯の顔を見に後宮へ来るのである。


「黒緋様、ありがとうございました。終わりましたよ。それよりせっかく休憩中だったのにすみません」

「気にするな、お前の顔を見に来ただけだ。目的は果たせたからな」

「黒緋様……」


 鶯の顔が赤くなった。

 言葉を惜しまない黒緋に嬉しいけれど、慣れなくて困惑してしまう。どうしようもなく恥ずかしくなるのだ。


「さあ、そろそろ青藍の手を拭いてあげないとそこら中が墨だらけになってしまいますね」

「誤魔化したな」


 黒緋が少しいじわるな口調で言った。

 しかし誰が見ても甘やかな雰囲気が漂っていて、控えている女官たちの頬が赤らむ。

 少しして女官が水桶みずおけと手拭ぬぐいを運んできた。女官が紫紺と青藍の手を拭こうとするが、鶯はやんわりと制止する。


「大丈夫ですよ。私がします」

「ですが、天妃様の御手が濡れてしまいます」

「ふふふ、大丈夫ですよ。地上では雑巾を絞って床拭きをしていたんですから」

「えっ」


 目を丸めた女官を鶯はクスクス笑いながら下がらせた。

 鶯は手ぬぐいを絞るとまず紫紺の手を綺麗に拭いていく。


「紫紺の手は大きくなりましたね。あ、こんなところに豆が。剣のお稽古もしっかり頑張っているんですね」

「うん、こんどちちうえとてあわせするんだ」

「それは良かったですね。はい終わり。綺麗になりました」

「ははうえ、ありがとう!」

「どういたしまして。さあ次は青藍ですね」


 鶯は青藍に向き直った。

 青藍が黒緋の両手でがっしり捕まって差し出される。準備万端だ。

 しかし青藍は身動きできなくされてプンプンだった。


「あうーっ、あーあー!」

「文句言っても無駄だ。お前、顔まで墨だらけだろ。綺麗にしてもらえ」

「あうあー! あう〜っ」

「また怒りだしたな」

「せいらん、プンプンだ。でももうすぐなく」


 紫紺が楽しそうに言うと、案の定青藍は「うっ、うっ」と泣き崩れた。

 相変わらず思い通りにならないと泣くしかないと思う青藍である。

 そんないつもの光景に黒緋は目を細めたが、水桶で手ぬぐいを絞っている鶯を見た。

 鶯の美しい指が慣れた手付きで手ぬぐいを絞っている。


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