後宮の雀2
「あぶぶ〜っ」
「青藍、邪魔をしてはいけません。父上と兄上は手合わせをしているのです」
「ぶーっ」
「ぶーではありません。あなたは私といてください」
鶯が後ろからひょいっと抱き上げて膝の上に戻した。
そうすると青藍は不満そうな顔になり、短い手足をジタバタさせてなんとかハイハイで脱出しようとする。もちろん鶯が逃がすはずがない。
「あうーっ、あうーっ」
「ダメですってば。父上と兄上は遊んでいるわけじゃないんですから」
「うっ、うっ……うぅ」
青藍の瞳がうるうる潤みだす。
今度は思い通りにならなくて泣くしかないと思ったようだ。
こうしていると黒緋と紫紺が向かい合って礼をした。手合わせが終わったのだ。
木刀を握っている間は礼儀正しく振る舞った紫紺だが、休憩になった途端に見守っていた鶯のところに駆け寄った。
「ははうえ! みてたか!? オレ、つよくなっててびっくりした!?」
「ふふふ、びっくりしましたよ。よく鍛えています」
鶯が褒めると紫紺は誇らしげな顔になる。
でも涙目の青藍に気づくと呆れた顔になった。
「せいらん、またないてるのか」
「あう〜」
「そんなにないてたら、なきむしになるぞ?」
「心配するな、青藍はもう立派な泣き虫だ」
黒緋がそう言いながら渡殿にあがった。
もちろん鶯の隣に腰を下ろす。
「鶯、お前もそう思うだろ?」
「どうでしょう。赤ちゃんは泣くものですから」
鶯はクスクス笑って答えた。
実際、青藍は泣き虫である。しかも怖がりで甘えん坊だ。猫がしげみから出てきただけで泣くこともあるし、食べていたおやつがなくなっても泣いていた。
鶯は側に控えている側近女官に「あれを」と命じる。すると側近女官は「畏まりました」と両手をついて頭を下げ、さらに控えていた女官に命じた。
天妃と直接言葉を交わせるのは側近の上級女官だけで、それより位が下がると天妃から話しかけた時でなければ直接言葉を交わすことは許されないのだ。
鶯が命じてからすぐに女官が戻ってきた。
手には朱塗りの台盤を持ち、その上の盤には甘い餅菓子が乗っている。鶯が命じたのだ。
「どうぞ、体を動かした後は甘いものが食べたくなりますからね」
「やった〜! ははうえ、ありがとう!」
紫紺が嬉しそうに餅菓子をほおばった。
それを見ていた青藍の涙も引っ込んで、「あうあー! あー!」と瞳を輝かせて自分も食べたいと鶯に訴えた。
しかし赤ちゃんに餅菓子は早いのである。
「赤ちゃんのあなたは栗をいただきましょう。小さくしてありますから」
「ぶーっ」
「ぶーっではありません。兄上と同じものはまだ早いですよ」
「せいらんは、オレといっしょのがたべたいのか?」
「そのようですよ。青藍は紫紺が大好きですからね」
「そうか! でも、まだあかちゃんなんだから、せいらんはダメだ。わかったか?」
紫紺が言い聞かせるようにそう言った。
しかも兄上ぶって青藍にこれからの計画を話す。
「はやくおおきくなれ! そしたらオレがちゃんときたえてやるから!」
「ばぶっ!?」
「これで、えいっえいっ、てしてやる!」
紫紺は庭に飛び出して、えいっえいっと激しく木刀を振った。
しかし。
「ばぶぶっ!? うっ、うっ、うっ、……うええぇぇん」
泣き崩れた青藍。
鶯の膝に突っ伏して「うええん、ええん……」と弱々しく泣きだした。
厳しそうなお稽古はどうしても嫌らしい。
そんな甘ったれな第二子に黒緋は苦笑する。
「泣くほど嫌なのか……」
「ふふふ、そのようですね」
「仕方ないやつだな。鶯、寄越せ」
黒緋が両手を差しだす。
鶯が膝に乗っていた青藍を渡した。
「これを抱いていたらお前もゆっくり菓子を楽しめないだろ。食べろ」
「ありがとうございます」
鶯は嬉しそうに目を細めた。
世話役の女官に青藍を預けても良かったのだが、こうして黒緋が自分たちの子どもを可愛がってくれることが嬉しかったのだ。
以前は青藍も黒緋に抱っこされるとなぜかよく泣いていたが、あの地上で四凶と戦った以降は黒緋に抱っこされても平気になったのである。
黒緋はあぐらをかいた上に青藍を乗せ、「お前はこれだ」と栗の菓子を食べさせた。
「紫紺、あなたもこちらに戻ってきてください。一緒に食べましょう」
「はーい!」
紫紺がまた鶯のところに戻ってきた。
子どもの体力とは無限だ。常に動き回っている。
鶯は隣に戻ってきた紫紺に笑いかけると、黒緋を振り返った。




