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さようならはしない1


 一行は斎宮へ戻ってきた。

 出発した時と同じく、帰って来た時も誰にも見つかることはない。

 斎宮内に巫女や白拍子の気配はするが誰も一行に気づく様子はない。鶯のまじないの効力は絶大なのだ。

 もちろん萌黄の部屋も出てきた時のままである。


「今日はありがとうございました。こうしてまたお会いできたこと光栄でした」

「ああ、元気でいろ。お前は俺の義理の妹でもあるからな」

「お言葉、ありがたく存じます」


 萌黄は黒緋に深々と頭を下げた。

 そして次に紫紺と青藍と離寛にお辞儀する。

 斎王とはいえ人間の萌黄にとってここにいるのは天上人ばかりなのだ。

 でも鶯は違った。天上人だがたった一人の身内、双子の姉だ。


「今日は御山に連れていってくれてありがとう。斎王になってから自由に出歩けなかったから楽しかったよ」

「私も楽しかったです。また行きましょうね」

「うん。鶯……」


 萌黄が頷いて微笑んで、でも鶯にぎゅっと抱きついた。

 鶯も萌黄を抱きしめてそっと頬を寄せる。


「萌黄、また会いに来ます」

「うん、会いに来て。許される限り。鶯に会えて嬉しかった」


 萌黄は言いながら涙声になっていく。

 鶯にぎゅっと抱きついて、「姉さま……」と小さく呟いた。

 姉さま。その響きに鶯は目を閉じた。

 いい子いい子と萌黄の背中をなでなでする。


「あなたは私のたった一人の妹。会いに来ます。何度でも」

「うん、待ってるから。……ぐすっ」


 二人はゆっくりと離れた。

 天上と地上に分かたれたけど二人は姉妹である。会う理由なんてこれだけでいい。

 二人はしんみりと見つめあっていたが。


「もえぎー! これにおえかきしていい? あ、せいらんがおててぺったんしてる!」


 待ちきれなくなった紫紺が声を上げた。見ると紫紺は文机ふづくえの横に置いてあった白紙の巻物と筆に興味を持っている。

 紫紺は筆を握っているのでまだしも、赤ちゃんの青藍は小さな手を墨だらけにして手形遊びをしていた。静かだと思っていたら紙や床にぺったんぺったんしていたのだ。


「あいあ~」

「ああ青藍っ、それはいけません!」


 鶯が慌てて青藍を抱き上げた。

 これ以上被害を拡大させるわけにはいかない。


「ぶー!」

「ぶー、ではありませんっ。黒緋様もなに見てるんですか、ちゃんと止めないと!」

「そ、そうか、すまん。こうさせとくのが静かだと思って」


 邪魔したら悪いだろ、と鶯と萌黄に気を使ったんだと少し焦った口調で言った。

 どうやら黒緋なりに気を使ったようだ。


「ああ、黒緋さま……」


 眩暈めまいを覚えた鶯に、萌黄が「天帝ってそういうとこあるよね」と耳元でこそこそ言った。

 黒緋は生まれながらに天上天下で最も尊ばれる存在、天帝である。一般の感覚からずれることもあった……。


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