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怨恨の影6

「青藍様、ちょっと……っ」


 離寛がほとほと困った顔で黒緋と鶯を見た。

 助けを求めるそれに鶯は苦笑する。


「青藍、離寛を困らせてはいけませんよ」

「あうあ〜……」


 涙目の青藍が鶯に向かって身を乗りだした。

 また格闘を始める青藍と離寛。鶯は青藍に向かって両手を差しだす。


「こちらへどうぞ」

「あいっ! あいっ!」


 抱っこしてもらえる予感を察知した青藍は猛烈な勢いで両手を伸ばした。

 その様子に鶯は小さく笑うと抱っこする。

 すると青藍は鶯の腕のなかで安心したように丸くなり、「ちゅちゅちゅっ」と指吸いをした。

 そんな青藍の甘えた姿を紫紺は呆れた顔で見上げる。


「せいらん、なきむしだぞ」

「あう〜。ちゅちゅっ」

「ふふふ、許してあげてください。青藍はまだ赤ちゃんですからね。まだ言葉を話せないので泣いたり笑ったりして気持ちを教えてくれるんです」

「あかちゃんってたいへんだな」

「そうですね」


 いい子いい子と鶯は紫紺の頭を撫でた。

 こうして鶯は紫紺を構いながらも、ふと憂いた顔で黒緋と離寛を見た。離寛が地上に来ている理由をなんとなく察したのだ。


「さっき邪気に囚われた山犬に襲われました。もちろん浄化しましたが、あの邪気は地上のものとは思えなかったのですが」

「ああ、僅かだが天上から地上に邪気が流れている。おそらく山犬たちはその邪気にてられたんだろう」


 黒緋が険しい顔で答えた。

 それに鶯も納得したように頷く。山犬たちに宿っていた邪気に違和感を覚えていたのだ。


狭間はざまの結界を通り抜けるなんて普通の邪気ではありませんね」

「何者かの呪術によって生み出されたものかもしれない。源泉を探させている」

「早く見つかるといいのですが」


 鶯はそう言うと憂えるように山犬の群れが去った方角を見つめた。

 同じような被害を増やしたくなかったのだ。


「ははうえ、せいらんがおなかすいたって」


 ふと紫紺が鶯の袖をくいくい引っ張った。

 抱っこされている青藍はちゅっちゅっと指吸いしているが、途中で「あうー、あうー」と切なげになにかおしゃべりしている。


「そうですね、お腹が空いては可哀想ですね。黒緋様、萌黄、そろそろ帰りましょうか」

「そうだな。伊勢の山を散策するのも楽しかったが今日はここまでだな」


 気が付くと陽は傾きだしていた。

 あと一刻もすれば西の空が夕暮れに染まる時間だ。

 名残り惜しいが一行は伊勢の御山を離れるのだった。





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