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アレク・プランタン  作者: イチロー
49/68

049 閑話 ヨゼフとマリア(前)

❸22第3部幼年編

第1章前期教会学校編


北の辺境と呼ばれるヴィンサンダー領の東部ビガス村。

100戸。1,000人を僅かにきるほどの小さな農村だ。


長引いた戦火もようやく収束をみせ、領内の農村には多少なりとも落ち着きがみられるようになった。

いつの世も戦火の影響をモロに受けるのは末端の平民(農民)である。

幸いにもここビガス村は徴兵の結果亡くなった若者も少なかった。また戦火に応じて現れる盗賊団や魔獣の被害もほぼ無かった。

これは村の戦後復興に向けていい材料なのだが‥適齢期となった貧しい農家の末っ子世代には、残念ながら慶事とは言い難いものだった。つまりは、彼等には居場所が無かったのである。

次男三男でさえも将来の生活に困るのだ。子沢山の農家の末っ子に居場所などあるはずもない。

もちろん適齢期とあっても嫁をもらうなんてことは夢のまた夢の話である。

そんなビガス村に新興開拓村の案内が掲示板にかけられた。


開拓村デニーホッパー村の開拓民募集


開拓から10年間は無税

とする


在)ヴィンサンダー領北部



「新興の開拓村はここと変わらず生活は厳しいらしいぞ」


「ただあまりに荒れた土地だから魔獣も少ないらしいぞ」


「それでも耕したら耕しただけ自分の土地になるからな」


居場所がない若い農民たちからも、興味はありつつもその評価にマイナスが多い。


「ヨゼフどうする?」


「俺は‥このまま村に残っても居場所は無いからな。冒険者になれるほど自分の力を過信もしていない。このままここにいるより開拓村のチャンスにかけてみたいと思う。チャンはどうする?」


「俺もお前と同じだよ。何せ貧乏農夫の5男だからな。よし、一緒に行くか?」


「そうするか!」


ヴィンサンダー領東部の寒村ビガス村。

そんな村に生まれ育った青年のヨゼフとチャン。どちらも多数いる兄弟の末っ子である。

兄弟が多い貧民の倅が生きていくには、騎士に憧れて兵士となるか、清貧を旨とした教会の神の下に集うか、一攫千金を狙って冒険者となるしかない。

ヨゼフとチャンという2人の若い農民にとって開拓民として新たな土地で夢を繋ぐのは新たな選択肢として新鮮にみえたのかもしれない。

兵士や冒険者に憧れるほど腕っぷしに強い自負があるわけではない。また日々の生活には追われながらも、女神様に乞い願うほどの信心深さもなし。生命の危機に直面することもなかった。

ごくごく平凡な農民の彼らが開拓村を選ぶことは非現実的な選択ではなかったのだ。





「「ヨゼフ、達者でな」」


家族兄弟からは意外とあっさりとした別れとなった。わかってはいたのだが。


ヴィンサンダー領東部から北部のデニーホッパー村まで。途中、領都サウザニアで東西南北各方向からの開拓村への入村希望者が集まる。

徒歩1ヶ月ほどの道中。盗賊や魔獣を避けるため集団での移動だ。

道中は、個人又は小規模な商人や冒険者その他も集まって100人弱の集団となった。

もちろんデニーホッパー村への移住希望者以外も含まれている。

この中には後に世帯を営むことになる他の村出身のマリアも含まれていた。





「ヨゼフ、腹減ったなー」


「ああ‥」


ゆっくりと荒野を進む一団。

危険は無さそうに見えるのだが‥。

この一団を眺める者たちがいることに誰ひとり気づかなかった。


「お頭、移民集団が来ますぜ。少しばかり商人もいますな。冒険者も何人か」


「あまり儲からなさそうだが行くか。奴隷に売るにはそこそこの数だろうしな。お前たち準備しろ」


「「「あいよー」」」


待ち構えるのは盗賊団である。





領都サウザニアに向けて東から旅する集団が凡そ100人。

移民を中心に、領都で兵士になることを望む者や個人を含む小規模な商隊、若干の冒険者も含まれる。

集団での移動は小規模な盗賊団を防ぐことは元より、魔獣を避けられるメリットも大きかった。

が、注意深くある盗賊団には格好の獲物ともいえた。


荒野を抜け、一列となって岩場を歩いているときである。


シュッ!シュッ!


「うっ‥」


「うぐっ‥」


冒険者の形をした男が2人、相次いで倒れた。

痙攣後すぐに息絶える。ほぼ即死に近い。

毒矢である。


「敵襲ー!敵襲ー!」


ここからは冒険者及び商人、しかも機微に聡い者たちの動きは早かった。反転、即座に集団からの離脱を図ったのだ。

盗賊団もまた心得たものである。そうした手練れの冒険者たちを相手にせず、敢えて退路を塞がなかった。

結果、残ったのは「獲物」ばかりである。

一列となった獲物が盗賊団の意のままとなるのに時間はかからなかった。


移民を中心とした集団の最前列から、手短な命令を発していく盗賊団は20名ほど。


「全員座れー」


「その場から動くなよ」


「お前は立て」


「お前も立て」


「お前は‥サヨナラ」


高齢の農民の喉元を切り裂く短刀。


こうして。幾許かの金銭と「奴隷」を獲得した盗賊団だった。





「あれは‥盗賊だなモンデール」


「はいディル師。どうしますか」


「鷹の爪、不倒の盾の実力。見せてもらうぞ」


杖を手に、色褪せたローブを纏った小柄な初老の男がニヤリと笑いながら言う。


「王国不断の剣の師がそれを言いますか」


同じような粗末なローブを纏った長身の男が口角をわずかに上げて応えた。


のちに、デニーホッパー村の司祭となるディル神父と領都教会の司祭となるモンデール神父である。



急な雨が降りだした。

雨が多くのものを流し去る。倒れ伏した人々の血も。


「おいおい、これはこれは‥上玉じゃねぇか」


「本当だなぁ。泥塗れでわかんなかったぜ。売っちまう前にな、へっへっへっ」


雨は女性の顔に塗られた「泥」も流し去ったようだ。女性が道中の災難から身の安全を図るために顔に泥を塗り醜女を装うのも旅の常套であった。


「おい女。お前だよ、お前。立ちな」


「いっ、嫌!」


パーン!(頬を平手打ちする音)


「煩い!口答えすんな!」


「嫌!離して!誰か‥」


盗賊団の1人に腕を掴まれた若い女性が必死の抵抗をする。

見て見ぬふりをする周りの人々。


「やめてあげてください!」


見ず知らずの女性が叩かれたことに、思わず立ち上がるヨゼフ。


「なんだよ、てめえ」


ガッ!


「うっ‥」


手にした刀の柄で力任せにヨゼフを殴る盗賊の男。

倒れるヨゼフ。


「おい、ヨゼフ!」


心配するチャンを前に、尚も盗賊に対して毅然と言うヨゼフ。


「どうか勘弁してください」


顔は腫れ、唇からは血が流れる。

それでも女性の前に立ち塞がるヨゼフ。


「てめえ、いい度胸だな。生命が要らないんだな」


力任せにヨゼフを殴り蹴る盗賊の男。それだけでは飽きたらず、ついには刀を振りかざす男。これまでかと目をつぶったヨゼフ。


そのとき。


ヒュッ!


石礫が男に飛ぶ。


「痛てー!」


小石が盗賊の顔に直撃する。


「だ、誰だ?」


いつのまにか。瞬時にヨゼフの前に立つローブの男がいた。

長身のヨゼフよりもさらに背が高い男。

モンデール神父であった。


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