010 探る者たち
屋敷の人間から厩の爺と親しく呼ばれる男、マシュー。
厩に住み込み、ヴィンサンダー伯爵家所有の騎馬を世話している。
齢60少々。小柄で柔和な顔だち。物腰も穏やか。好々爺然とした、男である。
その男・マシューが今、当主の葬儀の準備で主だった者が出払った伯爵家屋敷内を軽やかな忍び足で高速移動をしている。
もしこれを斥候職の冒険者が見れば、感嘆するほどのスキルの高さである。
勝手知ったる屋敷の部屋配置。
とある部屋の鍵穴を器用に解錠し、室内に侵入する。
当主アレックス・ヴィンサンダー伯爵の執務室である。
生存時の伯爵はこの執務室で、領内統治に関するあれこれ執務をおこなっていた。
机を皮切りに書棚も含めてあれこれ探しながら1人呟やく。
(やはり無い。どこに隠した?)
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ほぼ同時刻
アレックス・ヴィンサンダーの遺体が安置された教会奥の小部屋。
遺体を前に、初老の男女が小声で話し合う。
この領都教会のモンデール神父と王都で薬師をしている女性ルキアである。
遺体の口元。
ほんの微かな異臭を嗅ぎわけると、顔を顰める薬師ルキア。
「ノクマリ草の香りがするねぇ」
「ふむ…」
モンデール神父が思案げに長い顎髭に手をやり薬師ルキアを見遣った。
「確証を得るには、腹の内容物を調べるしかないね。その結果によっては、王都のサイラスの力も必要じゃろ」
薬師ルキアが言う。
「なるほどのお。致し方あるまい。お館様ならお身体の傷もお許しになるはずじゃ。旅立ちの祭壇前。よもや首謀者たちにも気づかれまいて」
モンデール神父が呟く。
しばらくして。
トン トトトン
特徴的な調べで小部屋をノックする音がした
。




