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ハハッ、こやつ煽りおるわ

 六月に突入し迎えたその日は、生憎の快晴だった。

 普通なら天気がいいことを喜ぶべきなのかもしれないが、なんせその分気温が高い。

 おまけに若干湿度もあるし、まだ梅雨前だというのに蒸し暑さを感じるほどだ。

 年々温暖化が進み、春と秋がなくなりつつあると言われてる昨今、外での運動は注意喚起がなされる場合すらある。

 だが我らが鳴上高校は、そんなの関係ねぇ! とばかりに全力で球技に取り組むよう推奨し、そのことを十分ほどの時間をかけ校長が長々と語っていたのだからどうしようもない。よく誰も倒れることがなかったなと、違う意味で感心してしまう。


「ふぃー、やっと終わったか。やってらんねーなぁもう」


 準備体操で軽く身体をほぐしてはいるが、俺の正常な体感温度はあまり動くなと伝えてきている。

 事実、こんな中で全力疾走などしようものなら日頃から運動していない俺みたいな人間は、一発で汗まみれになることだろう。

 体育会系以外の生徒たちがほぼダレきっているなか、わざわざ外で行われた開会式も終わり、俺たちは試合のためにグラウンドに集まっているところだ。


「やあ、葛原。少し前ぶりだね」


 整列していると、対戦相手のひとりが話しかけてくる。

 目を向けてみると、球技大会実行委員長である上北だった。

 同時に、俺たちの対戦相手でもある。

 そう、一回戦の相手は三年C組。優勝候補筆頭に挙げられているクラスだ。


「ああ、どうも。委員長」


「全く、君も運がないね。俺たちが一回戦の相手とは」


 軽く頭を下げるが、上北は俺の挨拶などどうでもいいのか、無視するように息を吐く。

 というよりも、そもそも自分がしたい話をしたいだけなのだろう。

 上北は傲慢な性格のやつによくいるタイプのようだ。


「まぁ君たちは元々優勝するつもりはないようだからいいんだろうけど、俺たちはやる気に満ちているからね。今日のために準備もしてきたし、体調も万全だ。一方的な試合になるかもしれないが、そこは容赦してくれよな」


 口調こそこちらを気遣うようではあったが、内に潜む優越感は隠せていない。

 既に上北には優勝する未来しか見えていないのだろう。

 自分たちが必ず勝つ。そのことを疑ってすらいないようだ。

 やつにとって、正しく俺たちは眼中にない存在らしい。


「そうですか、まぁ胸を借りる気持ちで頑張らせて頂きますね」


「はは、いいよ。頑張らなくて。ただ突っ立っているだけで構わないさ。下手に頑張っている姿を見せて負けるようだと、彼女たちに無様な姿を見せるかもしれないぜ?」


 言いながら、チラリとグラウンドの外を見る上北。

 釣られるように俺もそちらに目を向けると、そこには体育着の雪菜とアリサの姿がある。


「カズくーん、頑張ってねー!」


「勝たないと承知しないわよ!」


「おー、お前ら。応援に来てくれたのか。まぁ頑張るから見ててなー」


 俺の視線に気付いたら雪菜たちが声援を送ってくれたため、手を振って応えるも近くから小さな舌打ちが聞こえてくる。

 なんだと目を向けると、上北以外の三年生が忌々しそうにこちらを見てくるではないか。


「ちっ、気に入られねぇ……」


「アリサちゃんたちに応援されるなんてな……絶対にギタギタに潰してやるぜ……」


 中には怨嗟の声をあげているやつまでいるようだ。

 ありゃ嫉妬だな。自分たちは真白にいいところを見せるために頑張ろうとしているのに、一方ではアイドルからの声援を一身に浴びているやつがいる。

 そんな格差を見せつけられては、気に入らないのも無理もない。そいつを恨んでもおかしくないか。


「ふっ……醜いな」


 持たざる者は、いつだって持っている者に嫉妬するものだ。

 それが世の常である。生まれついての圧倒的勝ち組である俺を憎く思うのは致し方ないことではあるが、こちらとしてはただ憐れみしか感じないというのに……。

 なんというか、ご苦労様としか言いようがないな。彼に対する憐憫から、思わず苦笑が漏れてしまうが、それを目ざとく見つけたやつがいた。上北である。


「……随分余裕そうじゃないか、葛原」


「ん? そう見えますか?」


「ああ、見えるね。これから無様に負けるというのに、彼女たちに幻滅されるのが怖くないのか? あの声援だって、俺のほうに移るかもしれないんだぜ。いつまでも自分が彼女たちに好かれ続けるだなんて、甘いことは思わないほうが賢明だと思うけどね」


 嫌み混じりの忠告。口元も憎々しく歪んでおり、俺に対する羨望を隠せていない。

 イケメンから嫉妬されるという、ある意味稀有な状況に、俺の口からも笑みが零れる。


「ふふっ、幻滅、ですか」


「……なにがおかしい」


「いやだって、笑っちゃいますよ。まさかその程度で幻滅される程度のやつが――アイドルから貢いでもらえると、本気で思っているみたいなんですから」


「…………!」


「意外と考えが浅はかなんですね、委員長。どうやらアンタは俺のことを、大分低く見積もっているようだ」


 たかだか団体競技で負ける程度で見放されるようなら、俺はあいつらにとっくの昔に見限られていることだろう。 


「元から別に敵視なんてしてはいなかったですけど、貴方は俺の相手になりませんね。まぁせいぜい雪菜たちと真白にいいところを見せれるよう、頑張ってください。出来たら、ですけどね」


「……潰すよ、君のことは」


「だから言ってるじゃないですか、そんなことをしても意味はないって。アイドルから貢がれたこともないようなアンタじゃ、俺の敵にすらなれないんですよ」


「葛原……!」


 睨みつけてくる上北を適当にいなしていると、審判から集合の声がかかる。


(ま、こんなとこかな)


 別に煽る必要はなかったが、まぁいいだろう。

 こっちとしては、やるべきことはとっくに終わっている。あとは結果を出すだけ。


「二年D組と三年A組の試合を始めます」


 キックオフ。火蓋は切って落とされた。


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