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この俺のようには絶対になれませんよ?

 これ以上話を聞いていても無駄だと判断し、俺は席を立ち上がった。

 周りのやつらは事の成り行きを見守るつもりなのか、あるいは流されているだけなのか、未だ席に座ったままだ。

 その行為に何の意味もないだろうに。こういう連中が将来周りに流されるまま社畜になっていくんだろうな……。

 己というものを持たない者たちにほんの少しの憐憫を抱きながら、俺は彼らに背を向ける。


「それじゃお先に」


「待ちたまえ」


 失礼しますと言い切る前にかかる待ったの声。

 呼び止めんなよ、めんどくせぇ。悪態をつきたくなるのを吞み込んで、渋々ながら振り返る。


「……なんですか。俺、帰りたいんですけど」


「さっきまでの俺たちの会話を見てただろう? 今回の球技大会は、どうやら『ダメンズ』のファン同士の代理戦争になりそうだ。マシロとルリのファンとしては、決して負けられない戦いになるだろう」


「はぁ。そうなんすか」


「そこでだ。君からもなにか言うことがあるんじゃないか? なにせ君の二年D組は、セツナとアリサの二人を擁しているクラスだ。しかも葛原くんは、彼女たちの幼馴染だと聞くじゃないか」


「はぁ。まぁその通りっすね」


「彼女たちからお金を受け取っているという噂は耳にしているよ。男としてもファンとしても見下げた行為だが、そんなことをしているといつ愛想を尽かされてもおかしくないと俺は思うけどね。君もそろそろ彼女たちにいいところを見せないと、まずいと思っているんじゃないか?」


 質問が多いやつだな。しかも話も長いと来ている。

 俺の嫌いなタイプだし、答える義理も義務もないことをイチイチ言ってくるやつにロクなのがいないことは経験則で把握済みだ。


「はぁ。そうかもしれませんね」


「……さっきから微妙な返事ばかりですね。それ、余裕のつもりですか。僕から言わせてもらうと、そういうのかっこ悪いですよ、先輩。はぐらかさないでハッキリ言ったらどうですか」


 三下まで割り込んでくるのかよ。

 いよいよ面倒になってきたな。これ以上絡まれるのも嫌だし、望み通りハッキリ言ってやることにするか。


「はぁ……あのですね。うちのクラスは代理戦争なんてやるつもりはありません。そんなことをしても、何の意味もないんで」


「意味はあるだろう。これはファンとしてのプライドの問題で……」


「ただ推しのアイドルにいいところを見せたいってだけでしょう? そのためにクラスを巻き込むとか、いい迷惑じゃないですか」


「それは……」


「そもそも、トロフィーみたいな扱いをするのはどうなんです? アイドルとはいえ、彼女たちも俺たちと同じ高校生なんですよ。少なくとも、俺は幼馴染であるあいつらのことを、特別扱いも神聖視もしていませんけどね」


「うっ……」


 押し黙る二人。俺の言ってることが正論だと分かったのだろう。

 何も言われなくなった以上、今度こそ俺はここに意味はもうない。


「まぁせいぜい競い合えばいいんじゃないですか。好感度を稼げる可能性は一応ありますしね。もっとも……」


 フッと一息置き、告げる。


「いいところを見せた程度で、貢いで貰えるようになるとは思いませんけどね。推しだろうが泣きついたり土下座して養ってもらえるよう全力で頼み込むくらい出来ないと――この俺のようには、絶対になれませんよ?」


 最高にカッコいい捨て台詞を残し、俺は会議室を去るのであった。



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