周囲に理解されている主人公です(目そらし)
「――――俺がやろう」
そう静かに声を発すると、周囲が一気に静まり返る。
次に誰が名乗り出たのかという好奇の目が、俺へと一気に集中する。
気の弱いやつなら無遠慮ともいえる数多の視線に心臓が悲鳴をあげるかもしれないが、あいにく俺はそういった緊張とは無縁のタイプだ。
フッと小さく鼻を鳴らし、目を瞑り笑みを浮かべることだって造作もない。
「え……く、葛原!?」
「馬鹿な、何故やつが……雪でも降るのか?」
「頭でも打ったんじゃないの。お金絡みでもないのにクズ原が動くとかあり得ないでしょ」
おい、待て。どういう意味だお前ら。俺のことを普段どんな目で見てやがる。
「カ、カズくん!? やっぱり具合悪いんでしょ!? そうだよね!?」
「すぐに保健室まで連れて行くわよ雪菜! まさかアタシが和真の異変に気付くことが出来なかったんて……!」
「ご主人様……とうとう頭が変に……。元からおかしな方ではありましたが、これはわたしが一生かけてお世話をしなくてはなりませんね。パーフェクトメイドとして腕が鳴ります」
ガタガタと音を立てながら立ち上がる幼馴染×2とメイドその1。
お前らもか。お前らまで俺がこういう行事で手を挙げるようなやつじゃないと思っているのか。
確かに当たってはいるけどさぁ。それはそれとして、俺という人間に対する周囲の評価を垣間見てしまった気がして、ちょっぴり複雑な気持ちになる俺であった。
「ええい失敬な! お前ら、俺が実行委員になりたいと手を挙げるのが、おかしいって言うのか!?」
そんな自分を誤魔化すべく、俺は大きく手を振り、声を張り上げるのだが、
『うん! おかしい! クズ原がそんなことをするはず絶対ない!』
「お、お前ら……」
返って来たのは、一斉に頷くクラスメイト達の迷いなき姿だった。
どうやら変な方向で、俺はクラスの信頼を勝ち取っていたらしい。
さすがにこれには俺も今度こそ動揺を隠せなかったが、そんな中で空気を読まずパチパチと手を叩くひとりの人物がいた。
「やったー! 葛原くん、実行委員をやってくれるのねー。早速名前書いちゃうわね、はい決定―。いい生徒を持てて、先生凄く嬉しいわー」
そう、ユキちゃんである。
半ば棒読みながら嬉々として黒板に俺の名前を書いていく担任教師の後ろ姿に、クラスが困惑した空気に包まれていくのが肌で分かる。
「えぇ……ユキちゃんはそれでいいの……?」
「クズ原とか絶対仕事しないじゃん」
皆明らかにユキちゃんに対して呆れた様子を見せていたが、俺としては正直助かった。
反対意見を挟むタイミングを失ったし、クラスメイト達もこれ以上俺に言及してくることはないだろうしな。
なんだかんだ皆実行委員なんてやりたくないのだから、このまま俺が請け負ってくれるならそれでいいと考えるはずだ……多分、約二名を除いては。
「ねぇ和真。大丈夫? さっきはひどいこと言ってゴメンね? 和真がホントに体調を崩していることに気付けないなんて……これじゃ、幼馴染失格だわ……」
「カズくん……? もしかして、また……?」
なにやらしょんぼりしながら俺の顔を覗き込んでくるアリサだったが、そっちはまだいい。
問題は雪菜だ。ハイライトの消えたヤンデレの眼差しで俺を見ている。
(さすが雪菜、勘がいいな。俺とユキちゃんの関係を疑ってやがる)
内心舌打ちしたくなったが、この後のことを考えるとそんなことは出来ない。
となると、ここはやはりご機嫌取りに走るしかないだろう。
さてどうやるかと考えているうちに、ユキちゃんの声が再度教室に響き渡る。
「さて、男子の実行委員は決まったし、次は女子ね。葛原くんと組むことになるけど、誰かなりたい人は……」
「「「はい! 私(わたし)がやります!」」」
ユキちゃんが言い終わる前に、勢いよく返事をする複数の女子の声。
「カズくんがなにを考えているかは分からないけど、傍にいれば関係ないよね♪」
「和真のことを支えるのはアタシの役目なんだから……!」
「ご主人様が面倒事を引き受けるなんてこれは絶対面白……もとい、愉快なことになるでしょうし、こんなの近くで見ない手はありません。高みの見物より野次馬。これ、メイドの試験にも出てくる一般常識ですのではい」
雪菜、アリサ、一之瀬の三人が、それぞれの思惑を口にしながら立ち上がる。
同時に「ええっ!」とか「俺も立候補すりゃ良かった!」なんて悲鳴にも似た怒号が教室のそこかしこで飛び交うが、そんなことをイチイチ気にする俺ではない。
クラスメイト達のことは一度意識の外へと追いやって、俺は挙手した三人へと改めて目を向ける。
「ふむ、なんだお前ら。俺と一緒に組みたいのか」
「「「勿論!!!」」」
いい返事だ。まぁこうなることは別に予想外というわけではない。
むしろその逆。俺が立候補した場合、この三人が手を挙げるだろうことは予想していた。
なので事前にシミュレーションは済んでいる。落ち着いて対処することなど造作もないことではあるのだが、
「――ちょっと待った」
ただ一点、予想外のことが起きた。
「ウチも実行委員に立候補する……クズ原を、アリサたちに任せるわけにはいかないから」
やる気満々の三人とは正反対。明らかに不機嫌そうな顔をしながら、猫宮たまきがその手を宙へと挙げていたのだ。




