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は・や・く・や・れ

「さて、皆揃ってるわね。それじゃあホームルームを始めまーす!」


 それから数分後。始まりを告げるチャイムの音とほぼ同時に教室にユキちゃんは姿を見せた。

 いつもはどこか半泣き状態で、情けない表情をしている担任教師だったが、今日に限ってはやたら表情が晴れやかである。


「今日先生機嫌いいね」


「なにかあったのかしら。ちょっと不気味ね……」


 そのことには普段中々学校に来れない雪菜とアリサも気付いたらしく、ふたりでコソコソとユキちゃんの様子について話しているくらいだ。

 要するに、それくらい今のユキちゃんは分かりやすく上機嫌ということなのだが、その理由を知っている俺は敢えて触れることはしない。

 そうして様子見をしているうちに、やがてひとりの生徒が手を挙げた。

 クラス委員長の久方恵だ。切れ長の目を光らせながら、ユキちゃんへと質問する。


「先生、今日は球技大会のことを色々決めるということでいいんですよね」


「ええ。まずは実行委員を誰がやるかを決めて、その後にどの競技をやるかを決めることになるわね。実行委員は各クラスで男女一名ずつ選ぶことになるから、誰か立候補してくれると、先生とっても助かるなぁ」


 途端、クラス中から「えー!」というブーイングが巻き起こる。

 面倒なことをやりたがらない実にうちのクラスらしい反応だが、これくらいはどこのクラスでも起こりえることではあるだろう。

 大抵のやつは時間をただ取られるだけの実行委員なんてやりたくないし、立候補者が現れる可能性は低いからな。

 そうなると次に推薦という名の押し付け合いが始まり、それでも決まらなければ運任せのくじ引きへと突入する。

 それはさすがに嫌だと「お前がやれよ」「いやお前こそ」という空気を読んで誰かやれという空気が流れ始めるのが、この手の行事における定番である。

 俺も例年ならかったるいと思いつつ、あくびをしながら事の成り行きを見守っていたことだろう。そんなことを思いながら、俺はチラリと教卓に立つユキちゃんへと目を向ける。

 すると、丁度こちらを見てきたユキちゃんと目が合った。


『は・や・く・や・れ』


 その目は確かにそう語っていた。なんなら口でも語ってた。

 さすがに声に出さない程度の理性はあったようだが、それでも口パクしながら軽くジェスチャーまで混ぜている。

 見る人が見れば一発で分かる催促に、俺は半ば呆れながらユキちゃんに向けて口を開く。


『約束、覚えてるよね?』


『モチロン。先生、嘘つかないわ。だからはよ。挙手はよ』


 お互い無言ながら、それでも確かに意思を確認しあう。

 誓約書も書いてもらったし、ユキちゃんが約束を破るとは思っていないが、念を押すことは大事だからな。

 まぁ問題ないならこちらとしても不満はない。つまり、俺も俺のやるべきことをすればいいだけだ。

 それはつまり、この場で動くことに他ならない。 俺はゆっくりと、己の右手を宙へと掲げた。


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