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お金、お金はすべてを解決する……

 正確に言えば、雪菜を挟んだ席の向こうに目にビデオカメラを当てて撮影している、怪しさ全開の金髪女の姿があったのだ。そう、伊集院である。


「あぁ。この瞬間を永遠に網膜と脳に刻み込んでおきたいですわ。まさしく一生の宝。推し同士が仲良くしている光景に勝るものなど何もナシ!」


 いろんな意味で己を隠そうともしていない伊集院によって、瞬時に現実に引き戻されながら、俺は席から立ち上がる。

 雪菜たちしか見ていない伊集院は俺の行動に一切の注意を払っておらず、盛大に鼻血を垂れ流していたが、そんなことは今更気にすることでもない。


「世界平和とはこの事ですわぐへへへへ。これはピューリッツァー賞さえ狙えぐべぇっ!」


「なにをしてるんだお前は。なにを」


 正々堂々と盗撮をしている伊集院の脳天に、俺もこれまた正々堂々チョップを叩き込んだ。

 俺は暴力が嫌いだし、女の子に乱暴をする趣味もないが、日本は法治国家であり、TPOというものがある。

 幼馴染が盗撮されている現場をスルー出来るほど、人間が出来てはいないのだ。


「んぎゃああああああ! 頭が、頭が痛いですわ! 何故!? 突然の天罰!?」


 パニックを起こして騒ぐ伊集院だったが、やがて背後に立つ俺に気付いたらしく、バッとこちらを振り返る。

 相変わらず長くてゴージャスな金髪とやたら整った顔、そして涙が浮かんだ目が俺に向くが、歓迎されていないのは明らかだ。


「貴方ですの、葛原和真! このわたくしの頭に攻撃を仕掛けたのは!?」


「おう、そうだ。神に代わって髪に天罰を食らわせてやったぞ。罰ついでに、これも没収させてもらうからな」


 言いながら、手に持ったビデオカメラをひらひらと振ってみる。

 重さを感じない軽さでありながら、画質はかなり綺麗なあたり、さすが伊集院が使用する物だけあるといったところだろうか。


「え、あ!? それはわたくしのビデオカメラ!? いつの間に!?」


「お前が頭を抱えている隙にだな。教室で盗撮なんざされちゃ困るんだよ。大体、こういうのは普通御法度だろうが。常識ってもんを……いや、通じなかったなお前の場合は」


「返して! 返してくださいませ! わたくしのお宝映像! それは我が家の秘蔵の金庫にしまい込み、代々の家宝にするつもりのものなんですわよっ!」


「アホか。返すわけないだろ。子孫だってご先祖様が盗撮映像遺していたら困惑するわい」


 こちらに向かって必死に手を伸ばしてくる伊集院の顔をグイグイと押し返す。

 そのせいもなって伊集院の顔面は饅頭のように潰れてしまい、美少女が台無しになっていたが、本人は一向に気にした様子がない。


「お願いじまずっ! ぞごはファンクラブナンバー一桁のよしみでっ!」


「一緒にすんな。俺は盗撮なんかせんわ。そもそもする必要なんかないし」


 まぁつい先日しなかったわけではないのだが、あれは我が家でやったことだしな。

 しかも俺の部屋だったし、実質ノーカンだ。ノーカン。

 なんとなく言い訳しながら、俺はビデオカメラを持って自分の席に向かおうとしたのだが、


「おがねっ! おがねをざじあげまずからっ! だがらぞれだけはぁっ」


「む……金だと」


 伊集院の口からお金の三文字が出たことで、無意識に身体の動きが止まる。

 同時に俺の手から解放された伊集院が、媚びを売るような笑みを浮かべて口を開いた。


「そう。お金ですわ! ここはひとつそれで手打ちということで!」


「ふむ……」


 そう言われ、少し考え込んでしまう。

 俺は金が好きだ。歴史上の人物で誰が一番好きかと聞かれたら迷わず諭吉さんと答えるくらいに大好きだ。

 もうすぐ渋沢さんが新しく好きな人同率一位に加わるが、とにかく好きなことには変わりはない。金次第では大抵のことに目を瞑るのもやぶさかでないのである。


「お、これは脈ありですわね! それでは交渉成立ということでさっそぐぅっ!?」


 そんな俺に金での解決を図ろうとした伊集院だったが、彼女はまたしても背後から脳天への華麗な一撃を食らっていた。

 俺は丁度真正面に立っている相手へと目を向ける。


「駄目ですよお嬢様。すぐにお金で解決するのは良くないと、先日旦那様からおしかりを受けたばかりではありませんか」


 無表情かつ平然と諭すのは、頭にヘッドドレスを付けた少し小柄な美少女、伊集院のメイドである一之瀬姫乃だ。

 主へとダイレクトアタックを食らわせたというのに、まるで反省してる素振りも見られない中々にいい性格をしたやつである。


「うぐぐ。姫乃ぉ。ひどいではありませんか。わたくしの頭がパーになったらどう責任を取るというのです。わたくしのメイドである貴方も路頭に迷うことになるのですよ!?」


「その時はご主人様のところにお世話になるので問題ありません。わたしとしてはお嬢様にお金が無くなった時が縁の切れ目だと、前々から考えておりましたので」


「え、マジですの。嘘ですわよね。姫乃、ひめのぉっ!」


 …………なんだ、いつもの漫才か。

 俺をそっちのけにしてふたりの世界に突入している主従ふたりに背を向ける。


(こんなのが当たり前に繰り返されるもんだから、うるさいとか言われるんだろうなぁ)


 ま、ビデオカメラは内容を消して後で返すとしよう。

 そう決めると俺はそのまま静かに自分の席へと戻り、ホームルームの始まりを待つのであった。


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