表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/149

あっ(察し)

「はぁ……」


 ほんの少しだけ肌寒さを感じる22時。人気のない夜道をひとりとぼとぼと歩きながら、俺はため息をついていた。


「なんだよ、プロデュースって。俺は働くつもりなんてないんだぞ……」


 口をついて出る愚痴は、ついさっきまであったある出来事に起因するものだ。

 俺はファミレスでたまたま出会った同級生である夏純に弱みを握られ、渋々ながら彼女の頼みを聞くことになっていた。

 遅い時間というのもあって、詳しい話は明日聞くことになりその場で解散したのだが、解決したわけじゃない。

 むしろ本番はこれから。夏純が俺になにも求めているのかはイマイチピンと来ないが、はっきり言って面倒事になる予感しかしない。


「全く。どうしてこんなことになったのやら」


 原因は分かってる。俺自身の脇の甘さだ。

 もう少し警戒を強くしていれば、防げた事態であったはず。

 そりゃルリがバラしたからこうなったのは否定しないが、あのファミレスで会うことを指定したのは俺だし、人が入店してきたことに気付いてもいた。

 たまたま相手が見知った相手だったというだけで、金の手渡しの現場を目撃されたのは明確な俺の落ち度だ。

 だから逆ギレみたいなみっともない真似はするつもりはないのだが、それでも厄介なことになったのは変わりない。


「今日は徹夜でゲームするつもりだったんだけどなぁ……まったくもって参ったぜ……」


 再度ため息をつきながらも、足を止めることはしない。

 その場に止まって考え込んだところで落ち込むだけだし、なんの得もありはしないからだ。

 頭の中にいる冷静な自分が、そんなことをするくらいなら家に帰って今後のことを考えたほうがいいと判断している。それにはまったくもって同意であるため、俺は一路家へと向かい歩を進めた。

 そうしているうちに、俺はやがて自宅付近へとたどり着いていた。

 見知った光景を当たり前のように受け止めながら、ポケットを探り、玄関の鍵を取り出そうとしていたのだが。


「遅かったじゃない、和真」


 聞こえてきた声に、俺は反射的に足を止めた。

 よく見ると、家の前に人影がある。壁に寄りかかるように立っているようだが、街灯に照らされ、ちょうど頭にあたる部分が光を反射しキラキラと輝いていた。

 その色は銀色。そんな髪色をしていて、俺のことを和真と呼ぶ人物に、心当たりはひとりしかいない。


「アリサ……? お前、なんでこんな時間に家の前にいるんだよ」


 俺からすれば当然の疑問を幼馴染へと投げかけたのだが、アリサは無視した。

 何も言わず背を預けていた壁から離れると、こちらに向かって歩いてくるが、まとっている空気がどことなく重い。どうも怒っているようだ。


「おい、アリサ……」


「随分遅かったじゃない、和真」


 やがて俺の前で立ち止まると、アリサは顔をあげ、こちらをハッキリ睨んでくる。


「早く帰ってこいって言ったのに、随分のんびりしていたみたいね。どこでなにしてたのよ」


「いや、ファミレスで飯を食ってちょっとのんびりと……お前こそ、なんでここにいるんだよ」


「夕御飯が余ったから、持ってきてあげたのよ。どうせアンタ、明日の朝も適当に済ますつもりだろうと思ってね」


 そう言いつつ、アリサは右手をあげた。

 その手には袋が握られており、確かに俺へのおすそ分けのつもりで持ってきたのだろうことが分かる。


「それは助かるけど、わざわざこんな時間まで待たなくても……」


「……アンタって、ホントバカよね。バカ和真」


「えぇ……」


 なんで遅くなっただけで、そんなことを言われないといかんのだ。

 抗議しようとアリサに改めて目を向けたのだが、


「アンタに会いたかったからに決まってるじゃない、そんなことも分からないの」


 赤らんだ顔で、アリサはそう言ってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] アリサがこんなにも素直に...!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ