偶然って怖いね!
…………………………え?
「ど、どういうこと……?」
頭が上手く働かない。それでも私の目と耳は、抱いた疑問の答えにたどり着いてしまっている。
これって、もしかして……いや、もしかしなくても………。
葛原くんとクズマくんは、お、同じ人……ってコト…………!?
「は、はあああああああああああああああああああああああ!?!?!?」
「うわっ、声でっか!?」
なにそれ!? どういうこと!? こんなの絶対おかしいよ!?
(おち、おち、落ち着いて春風舞白! 冷静になって! そう、クールになるの! クールに!)
完全にパニック状態に陥っているのが自分でも分かる。
落ち着こうにも落ち着かない。というか、落ち着くなんて無理だ。
私の中でどうあっても、クズな葛原くんと優しいクズマくんが結び付かない。
(はっ、そ、そうだよ! きっとさっきのは聞き間違い! もしくはたまたま偶然同じ言葉を、同じタイミングでふたりが同時に発しただけ! 世の中には同じ顔の人が三人はいるっていうし、声のタイミングが合っていたっていう偶然もきっとあるよね!)
なあんだ、そういうことだったんだ。焦っちゃって損しちゃったよ。
馬鹿だなぁ、私。葛原くんとクズマくんが同一人物だなんてそんなこと、絶対あるはずないのにね。
「ふー、じゃあ一応だけど、確認してみよっかな。うん、念のためにね」
真実に気付けたことで気を良くした私はスマホをタッチし、一度クズマくんとの通話を切る。
「あ、切れた」
すると聞こえてくるのは葛原くんのそんな声。
うん、まぁ偶然偶然。私がクズマくんとの通話を切ったら同時に葛原くんの方の通話も切れた。そんな偶然、よくあることだよね。よくあるよくある! 間違いない!
「よし、もう一回いってみよう!」
そのことをようく自分に言い聞かせ、今度はクズマくんの連絡先をタッチする。
これで葛原くんのスマホが鳴らなかったら私の勝ちだ。
ま、絶対に鳴ったりなんてしないけどね! だって葛原くんとクズマくんは別人だって結論が出たわけだし。
そんなわけで今の私はデータキャラ。葛原くんのスマホが鳴らない確率、99%……!
プルルルル……
「あ、またハルカゼさんから電話だ」
「……………………」
「あ、また切れた」
私は無言で電話を切った。続くように、葛原くんの電話も切れる。
…………偶然。そう、偶然だ。これも偶然。皆偶然。あり得ないことは全部偶然。
偶然なら、いずれ確率は収束するはず。その可能性に賭けて、連絡先を再度タッチ。
「あ、またかかってきた」
切る。また偶然が重なってしまった。やり直し。
「と思ったら切れた」
またタッチ。
「またか」
またまた切る。というか、ここまで来たらもはやオーバーキルな気がする。
「切れた……なんなんだ、一体……」
……。
………………。
…………………………。
ふんふん、なるほどね。
ここまで偶然が続いちゃうんだ。偶然って本当に怖いなぁ。
よし、これで最後。もう一度だけ電話をかけた。
「んー、さっきから何度もかかってくるけど、なんでだ? 俺、なにかしたっけ?」
首を傾げながら電話に出る葛原くん。
画面に表示されているのはクズマくんの名前。聞こえてくるのは葛原くんの声。
そして私の耳は、彼の声をクズマくんのものであると認識している。
うん、なるほどなるほど。
確率を考えたら、これはもう間違いなさそうだね。
答えは得た。大丈夫だよクズマくん。私、これから頑張っていくから。
頭の中がぐっちゃぐちゃになりながら、私は大きく息を吸う。
「あの、ハルカゼさん? さっきからなんで……」
「確定だーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
思いの丈とか限界を迎えたメンタルとか絶望とか。そんな色々を絶叫とともに吐き出して、私はそのまま倒れるのだった。




