ついに発覚しましたね(知ってた)
『良かった。えっとね、実は今、私も友達の家にお泊りしてるの』
「例のお泊り会でしたっけ」
『うん、それで色々あったんだけど……』
私はクズマくんに今日あったことをかいつまんで説明していった。
勿論、葛原くんのことは上手く誤魔化して。
彼のことを話したらきっとクズマくんは怒るだろう。私のことを心配してくれるとも思う。
だってクズマくんは優しいから。彼の優しさに、私は凄く惹かれている。
だからこそ、そんな彼に心配をかけたくない。
なにより、私が今彼ではない他の男の子と同じ屋根の下にいることを知られたくはなかった。
これまでたくさん彼に相談に乗ってもらっていたのに、その相談ごとの元凶である葛原くんの家に私はいるんだ。
あんなにたくさん忠告もしてもらったのに、今日一日一緒に過ごしたことで、ほんのちょっとだけ警戒心が薄くなってしまっていた自分もいる。
彼の前でバニーガールとか水着とか、露出の多い衣装を着てて最初は恥ずかしかったのに、途中から慣れてしまったことも罪悪感を覚えている理由のひとつだ。
そのことをクズマくんに知られてしまったら……なんて、想像するのも怖い。
クズマくんには絶対に嫌われたくない。もし今日あったことを話して、万が一でも幻滅されてしまったら。
嫌。それは絶対に、絶対に嫌だ。
だから話はしなかった。でも、好きな人に隠し事をするのは辛い。
私は嘘が下手な自覚があるし、上手くやれるなんて思ってない。
それでも……葛原くんなんていう、どうしようもないクズのところにいることだけは、どうしても……。
『……なるほど。色々あったみたいですね』
ひと通り話し終えると、クズマくんが納得したように小さく呟く。
『それで、後輩の子たちとは仲良くなれたんですか?』
「うん、前よりは、少しは仲良くなれた……はず……」
『なんでちょっと自信なさげなんですか……』
「だ、だってぇ……」
『その様子だと、前言ってた説得もまだ出来てないんじゃないですか? あのクズから解放するんでしょ? しっかりしないと』
「そ、そうなんだけどぉ……」
うぅ、葛原くんに対して手遅れなくらい入れ込んでるって分かっちゃったから、あまり踏み込めなかったんだもん……。
言い訳だっていうことは分かってるけど、確かに何も出来ていないも同然だし、呆れられるのも無理はないよね……。
『はぁ……なんていうか、お互い苦労してるみたいですね』
「クズマくんも、なにかあったの……?」
『まぁそうですね。俺の方はなんとかしようとしたら、ドンドン不安が膨らんでいってるって感じですが』
「へぇ……そうなんだ……」
相槌を打ちながら話に耳を傾けるけど、正直これはかなり嬉しいことだった。
彼の方からこういった愚痴を聞くことなんて滅多にない。
こんな話をしてくれるということは、彼も私のことを信用してくれているということだし、なにより。
(クズマくんも、上手くいかないことがあるんだ……!)
私と同じで、彼が完璧ではないと知れた。
なんとなく感じていた、私の中にあるクズマくんに対する壁のようなものが取り払われた。そんな気がする。
『あの、ハルカゼさん?』
「あ、な、なんでもないの! うん、ホントに!」
そのことが嬉しくて、またつい大きな声を出してしまう。
自分でも分かっていないうちに、テンションが上がってしまっているのかもしれなかった。
『ん? また廊下から声が……やっぱ気のせいじゃないのか?』
だからだろうか。クズマくんが何かを訝しむように立ち上がる音に、私は気付かなかった。
「クズマくん?」
『すみません、ハルカゼさん。先に言っておきますけど、場合によってはこのまま電話切っちゃうかもしれません。別にハルカゼさんが悪いってわけじゃないんで、どうか気を悪くしないでくださいね』
「えっと……何かあったの?」
『あったというか、あるかもしれないからそれを確認しようかと思って』
そう言った後、クズマくんは無言になった。
少し静かになったせいか、通話の向こうからギィッという、ドアが開くような音が微かに——。
ギィッ……
「え……?」
その時、すぐ近くからも同じような音が耳に届いた。
続くように、すぐに人影が現れる。それが誰かなんて、考えるまでもない。
「葛原くん……」
クズマくんと正反対の人。クズマくんと話して幸せな気持ちでいる間は会いたくなかったのに……。
そう思っていると、
「あれ、舞白さん?」
『あれ、舞白さん?』
何故かふたつの声が同時に聞こえてきた。
ひとつは目の前にいる葛原くんの声だ。そのことはいい、当たり前のことだから。
でも、もうひとつの方はおかしい。だって、こっちは耳に当てていたスマホから聞こえてきた。
クズマくんと会話してたんだから、そんなの聞こえてくるはずがない。
そもそも、クズマくんは私のことをハルカゼさんって呼んでいるんだ。
だから舞白さんなんて呼ばないし、本名だって教えてない。
だったら、なんで——。
(あ……)
そこまで考えて、私は気付く。
葛原くんもスマホを持っていて、耳に当ててることに。
それはつまり、誰かと会話している途中だったっていうことで——。
「なんでこっちの廊下になんているんです?」
『なんでこっちの廊下になんているんです?』
困惑が続くなか、もう一度二つの声が耳に届いた。