初めての人が忘れられないの……
「中々上手くいかないな……」
放課後となり訪れたファミレスの席でコーヒーを飲みながら、俺は小さくため息をついていた。
「上手くいかないって、なにがですかおにーさん」
「雪菜への対応だよ。なんか日に日に圧が強くなってる気がするぜ……」
俺の呟きを拾うようにそう聞いてきたのは正面に座るルリだ。
ちなみにこの場にいるのは彼女だけ、ということはなく。一之瀬と夏純も同席していたりする。
「まぁ確かに最近の小鳥遊様はちょっとジェラシー全開といった感じですね。以前はもう少し余裕があったように思えたのですが」
「結構露骨に態度に出してるもんね。今日もずっと頬膨らませていたし」
「はぇー。あのセツナセンパイがですか。それは意外ですねぇ。普段のセツナセンパイってもっと完璧超人みたいな感じだと思ってましたよ」
ポテトをつつきながら仲良さげに話す女子三人。
直接的な繋がりはなかったこの三人だが、以前俺がルリと会っていたことが夏純にバレた一件以来、なんやかんや仲良くなっていたらしい。
「そうなのですか?」
「はい。アリサセンパイでもたまにミスするんですけど、あの人はいつもニコニコしながらこなしてボロを出すことは滅多にないですし。マシロセンパイはもう言うに及ばずって感じなんで、ミスどうこうはもうあまり関係ないんですけどね」
「あー、確かにあの人ってドジ担当って感じだよね。スタイルは凄くて憧れるんだけどなぁ」
「まぁ身体は凄いですからねぇ。出るとこは出ていて引っ込んでるところは引っ込んでいるスタイルですし。あ、そういえばこの前、またおっぱい大きくなったで控室でヘコんでたり……」
トークに花が咲いているのは結構だが、生憎いつまでも微笑ましく眺めているというわけにもいかない。
百合の間に入るのはご法度と聞いたことがあるが、少なくともこいつらの内二名は俺に対して好意を抱いているはずだから問題はないだろう。
「盛り上がっているところ悪いが、話を戻させてもらっていいか。いい加減、監禁対策について本腰を入れないといけないからな」
もう季節も六月になっているし、夏休みはすぐそこまで迫っている。
一応対策はいくつか打っているが、どれも事後対応のものばかりだ。
監禁そのものを避ける決定打には至っていない。
「本腰って言ってもねぇ」
「ぶっちゃけ難しいと思いますよ。小鳥遊様のあの執着っぷりですと諦めるとはとても思えませんし」
「アリサセンパイもおにーさんのこと大好きみたいですからねー。ルリの方でひとりは抑えられてもふたりとなるとやっぱり厳しいですし。このままだと監禁ルート一直線ですねー」
「お、お前ら……」
他人事だと思って好き勝手言いやがって。
俺が聞きたいのは対策であって現実じゃないんだよ。そう言ってやろうと思ったが、その前にルリが口を開く。
「そういえば、なんでセツナセンパイは機嫌悪かったんですか? センパイのおにーさん好き好きっぷりでしたら、大抵のことは流しそうなものですけど」
「それはだな……」
「ご主人様が告白されたと知ったからですよ、ルリ様」
食い気味に答えたのは一之瀬だ。
……俺より先に答えてるあたり、まだ昼間のことが尾を引いているっぽいな。引きずらないタイプだと思っていただけにちょっと意外だ。
「告白、ですかぁ?」
「ええ。どうもそれで独占欲が出てしまったようです。ご主人様はあの方たちのモノというわけではありません。わたしのモノでもあるというのに」
やれやれと首を振る一之瀬だったが、俺は別にお前のモノでもないんだが……。
ちょっと呆れていると、ルリが悩まし気に唇へと指を当て、
「ふむふむなるほど。そういうことでしたら、やっぱり早めに初めてを奪っておいて正解だったみたいですねー」
「? 初めてってなんの?」
あ、この流れはちょっとヤバいか?
咄嗟に口止めしようと思ったのだが、ほんの一瞬遅かった。
「おにーさんの初めてですよ。おにーさんのファーストキスをこのルリが頂いたんです♪」
投稿再開します、よろしくお願いいたします。