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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

遠雷

作者: 相井らん

どうぞ読んでいただけると幸いです。

評価もお待ちしております。

外ではどんよりとした雲が空を覆い月の光が見えない晩にダリア家の夕餉の席は普段とは違う雰囲気に合った。

「ミレディよ。先日の誕生日でお前も15歳になったな。」

父ブレッド・ダリアがそんなことを言ってきた。


「ええ、そうですわお父様。それがどうかいたしまして?」


嫌な予感がする。

父は自分のあごひげを触りながら言った。


「そうだな。お前には来月から王都にある魔法学院に編入してもらおうと思っている。」


ブレッドの言葉に私は唐突に思いながらもどこか予想通りという感想を得た。

この王国では15歳の貴族階級で生徒の大半が占められている魔法学院が王都にあるのだ。その魔法学院は建国時に創立された歴史ある学院で当時は要塞として王都を守る目的で作られた。


そんな物騒な成り立ちである学院であるが、現在私の住む王国は幸いにも平和であるためその役割を忘れられつつあり、貴族の交友の場として、王国の未来を支える若者の教育にもっぱら使われている。学院では将来の国を支える者たちが拍をつけるため、切磋琢磨しているという。


そんな学院であるが私は貴族階級といえど、立場としては辺境貴族の3女で将来的に国の中枢でその腕を振るえるほどの権力を得ることは難しいだろう。


つまり、、、、


「どこか素敵な王子様を見つけて、その男に嫁げるように努めて参ります。」

私は神妙な面持ちで父にそう返した。

どこかで雷が鳴った気がした。


「話が早くて助かる。」

父は厳かにいうとうなづいた。


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ゴトゴトゴト

生家を離れ、馬車が行く。馬車の中には私しかいない。

地面の形を変えると思えるほどの熱が馬車を覆う。御者には悪いが、馬車の中は比較的快適だ。馬車の中には風を生み出す魔石がおかれており、それほど熱く感じない。


どれほど時間がたっただろうか。

ギィーという音とともに馬車が止まった。


コンコン馬車の入り口が叩かれた。

「お嬢様、御着きになりましたよ。」


御者が私に声をかけたのだ。とうとう魔法学院に到着したのだ。


「ありがとう」

私は御者にお礼を言って、馬車を出た。私の荷物は皮でできた大きめのカバンだけだ。

「それでは私はこれで失礼いたします。編入試験についてですが、御当主が書かれた紹介状を見せて門にいる者に編入の旨をお伝えいただければスムーズに行けると思われます。」


そういうと御者は馬車をゴトゴトと音を立てながら、元来た道をかえって行った。


御者が言ったように門番に父の書いた紹介状を見せながら事情を説明すると直ぐに編入試験を受けることができた。試験自体は簡単なもので、どのような魔法が現在使えるかといったことや国の簡単な成り立ちを答えるといったものであった。

やはり現在は貴族の交流の場と化しているといっても魔法学院であるからか、魔法に関することが試験になるようだ。


「試験お疲れさまでした。それではミレディ・ダリアさん合格です。ようこそ王立魔法学院へ」

「ありがとうございます。」


試験官が合格を伝えてきたので私は礼を言った。


「これからどのようにすればよいのでしょうか?」

私が訪ねると試験官は答えた。


「この魔法学院には伝統的に編入生にはバディを組んでもらうことになっています。彼に学院での生活については教えてもらうとよいでしょう。ミスターアザレア入ってきてください。」


「失礼します。」


赤目赤髪の少年が部屋に入ってきた。少年は純白の制服を着ており、それもあってか彼の持つ赤い目と髪は際立っているようだった。


「ダリアさん、私はクーロン・アザレアです。この度はあなたのお世話係となりました。クーロンと気軽に及びください。どうぞよろしくお願いします。」


私はスカートの軽く上げて頭を下げた。


「どうもご丁寧に、クーロン様。私はミレディ・ダリアと申します。本日よりお世話になります。不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたしますわ。私のこともぜひミレディとおよびくださいませ。」


クーロンの第一印象は冷静な仮面の中に情熱を感じさせた。きっと彼の赤い髪がそんな印象を与えるのだろう。

アザレア家は私のダリア家と同じく辺境の武家だ。確か王国の北東部に領地を持っていて、ダリア家とは離れた土地を治めていたはずだ。

私の目的はダリア家が中央政治に影響を少しでも及ぼせるような子弟と婚儀を結ぶことだ。クーロンのアザレア家では目的には合わないだろう。


そんなことを考えているとクーロンが声をかけてきた。


「それでは早速だがついてきてください。学校内を紹介いたします。」


クーロンはそういうと体を翻して扉に向かっていった。


彼が学院の中を案内してくれた。学院内は大変広く多くの校舎があった。しかしそれ以上に一つ一つの建物は内部が複雑に入り組んでいた。内部には案内板が何か所もあったため、何とか迷わずに済んだが、少しでも気を抜くと迷ってしまいそうだった。


「クーロン様、校舎の中はずいぶんと入り組んでおりますのね。私もう何が何やら、慣れるまでずいぶんとかかってしまいそうですわ。」


前を歩くクーロンは振り返らずに返事をしてきた。


「そうですね。やはり建物内部は複雑に感じますよね。私も初めて来たときはずいぶんと迷ったものですよ。でも大丈夫です。何度も通ううちにどんどん分かってきますから」


なんというかクーロンはぶっきらぼうに感じることもあったが、丁寧に私を案内してくれた。

1時間ほどたったところで、クーロンが中庭で一休みしようといってきたので、快諾した。


「クーロン様、案内ありがとうございました。申し訳ないのですが、まだまだ迷いそうですわ。」

そういって私が笑うとクーロンもうなずいた。


「安心してください。そのための案内役なのですから。」


それからクーロンと他愛無い話をした。この学院の歴史や自分の専攻している魔法分野などの話をした。クーロンは私とは違って貴族の結びつきのために入学したわけではないそうだ。どちらかというと将来国の士官となるために魔法の研究鍛錬の方に時間を割いているらしい。

私が質問をするとクーロンは笑顔で答えてくれていたが、自分のことを多く話すことはなかった。


そうこうしているうちに空が少し曇ってきた。


「夕立が来るかもしれませんね。少し早いですが、今日はお疲れでしょう中に戻って休みましょう。」

「そうですわね。今日はありがとうございました。明日は一人で見て回ってみますわ。」


貴族の関係性は複雑だ。もしアザレア家と難しい関係の貴族に近づくなら、一緒にいるのはまずい。それが案内役だったとしてもだ。余計な勘繰りを受けるようなことはしないに限る。


二人が中庭を出て建物に入ろうとしたとき、バーンと上空で大きな音がした。


はっと上を見てみると建物の壁が吹き飛び、岩が落ちてくるのが見えた。20mくらいの高さからレンガの破片が吹っ飛んできた。バラバラと岩が落ちてくる。

あっと私が見ていると横でものが動く気配がした。


「ミレディさん!」


クーロンの声が聞こえたと思った瞬間ドン!と押し倒された。

彼の体が私を覆った。


えっ?と思う間もなく、ドンドンドン、、、、周りに岩や壁の破片が落ちてくる。しかしその音は徐々に少なくなって最後にパラパラパラと小石が落ちてきた。

十秒ほどたっただろうかクーロンの声が頭の上から聞こえた。


「大丈夫ですか?どうやら上の階で実験をしていたようですね。」


魔法学院には魔法の実験を行っている部屋もあるのだろう。そして中には危ない魔法の開発をしているものもきっといるだろう。

私にとっては貴族学校という側面しか意味がなかったが、クーロンがいったように魔法の研鑽に時間を費やしている者がいたのだ。


「えぇ、大丈夫ですわ。クーロン様ありがとうございます。」


見上げるとクーロンの顔がすぐそばにあった。彼の顔にはうっすら汗が見えた。クーロンは息を吐いた。


「あぁよかった。」


彼がにっこりと笑った。ずっとすんとすました顔しか見せていなかったクーロンの笑顔にどきりとした。


どこかでゴロゴロと音がなっているのを感じた。

夏の雷は畑を豊かにし、秋の実りを祝福するという。私のこの思いが雷となりダリア家に繁栄をもたらすのかそれとも焼き尽くすのかはまだわからない。

わからないならば、、、

心に従おう


私は言葉を慎重に選んで言った。

「クーロン様、先ほどは一人で回るといいましたが、訂正しますわ。どうかぜ明日も学院内を案内してくれませんか?」

ご愛読ありがとうございました。

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