【3】~2/2
女王の命を受け、鍵師は心の鍵を両手に抱えたまま部屋を出て行きました。
その背中を何気なく見つめながら、私はサムが言った気になる一言を思い出していたのです。
「ねぇ、明朝にって言ってたけど、大丈夫?たしか時間がないんじゃ……」
そう言いながらサムを振り返ると、その表情からは明らかに焦りを読み取ることができました。
サムは女王に訴えます。
「あの、女王様。何とか急いで頂くわけにはならないでしょうか」
「何だ、お前?あの鍵でこの世界を解放しようというのか。この世界は上手く行っておるのだぞ」
「しかしですが、この心の世界の外側では上手くいっていないようです。そのために、私はクレアをこの世界に招いたのです」
「鍵を使えるのは人間だけだからな。だがどうする?この心の世界を構成している者はそれを望んではおらん。お前はそれを知っているのか」
「はい、存じております。しかし、その心の奥底、どこかの部分で、実は誰かの力で錠前を開いて欲しいと考えているのではありませんか?」
「何を生意気な。フクロウ風情が私に意見するつもりか!」
「申し訳ございません、女王様。しかし、実際のところ女王様もご存じなのではありませんか」
「ええい、黙れ小癪な。衛兵、この者を東の塔へ閉じこめておけ!」
「ははっ」
その瞬間、サムはしまったという顔をしていましたが、一度漏れてしまった言葉は戻りません。
こういう事態になって、ようやく気が付いたのですが、おそらくこれは兄の心が作りだした母の姿に違いありません。
気に食わない事があれば周囲に怒りを撒き散らす様子は、最近の母そのものです。
「サム!」
サムは体格で圧倒的に勝る兵士たちに両脇を抱えられ、身動きできない状態にされてしまいました。
「僕のことは心配するな、それより君は必ず鍵を手に入れて、この世界を解放するんだ」
捕らえられてなお私を気遣うサムに、女王はさらに機嫌を悪くしたようです。
「気に入らんな。どうせなら目障りな小娘、代わりにこいつを東の塔へ閉じこめるとしよう」
「そんな、待って下さい。東の塔にはヤツが……」
「それがどうした?」
「彼女は何も罪を犯したわけではありません。私が勝手に……」
「ええい、うるさい!その娘をさっさと連れて行け」
「ははっ。では、この者の処分はいかがいたしますか?」
「街の外に放り出しておけ。どうせ明日の朝になれば、この世界にはいられなくなる者だ」
「はっ」
「サム!」
「クレア!」
私たちは兵士たちに引きずられるように、謁見室から連れ出されてしまったのでした。
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