【2】~2/2
森を抜けた先にあったもの……サムの説明によると、それがこの街を守るための門なのだそうです。
細長く巨大な巻き貝を縦に並べたような不思議な形状のため、言われなければそれが門とはわからないでしょう。
そしてその前に立っているのは、これまた異形という表現が相応しい、エジプト神話に出てくるような姿をした数人の門番たちでした。
「街に入りたいんですが」
〔通行証はお持ちですか?〕
「これです」
〔確かに。そちらさんは?〕
「彼女は人間です」
〔ならば問題ありません。どうぞお通り下さい〕
そう言うと門番は体を門の方へと向け、上部に向かって大声で叫びました。
〔開門ー!〕
門番の声を受け、巻き貝のような形をした門扉が、並んだままくるくると回転しながら上がって行きます。
「どうなってるの、これ?」
私は目が回りそうになるのをこらえながら扉が開く様をみていると、しばらくして下の方から徐々に街へと通ずる道が見えてきました。
〔どうぞお通り下さい〕
門が開ききったのを確認した後、門番は私たちを中へと進むように促しました。
「ありがとう」
サムと私は礼を言い、早速その門をくぐり抜けました。
宮殿へと続く大通りの両側には商店らしき構えの建物がずらり並んでいます。もっとも、深夜ですから開いている店など一件もありませんが。
ただ、寝静まっているはずの街にあって、なぜか誰かに見られているような感覚を私はずっと受けていました。
(もしもここでサムとはぐれてしまったら、私はいったいどうなるのだろう)
幼い頃、両親に連れられて行った見知らぬ土地で抱いた不安、それに近い感情を甦らせる街並みです。
広い街道ではあるのですが、私はなるべくサムとの距離を詰めて歩くことにしました。
道すがら、私は先ほど気になった門番の言葉についてサムに訊ねてみました。
「ねぇ、なぜ人間だと通行証がいらないの?」
「それは、君たち人間は、この世界を構成している重要な存在だからさ」
「どういうこと?」
「ここは君の兄さんの、心の中の世界だと言ったよね」
「うん」
「兄さんの成長過程において、君はとても重要な役割を担っていたわけだ」
「兄妹だもんね」
「だから君はこの心の世界においては、この世界そのものを変える力を持つ重要な存在っていうことになる」
「良くも悪くも私自身の言動が、誰かの気持ちを動かしたりするように?」
「そう、だけど彼の心の形成に関与してきたのは君だけじゃない。家族はもちろん赤の他人も含めて、これまでに会った人たちすべてがそうなんだ」
「そういう人たちがここにもいるの?」
「うん。具体的にはわからないけど、きっとどこかにいるに違いないよ」
結局、どこをどう歩いたのかほとんど覚えていませんが、話に夢中になっている間に、私たちは宮殿の入り口までたどり着いていたようです。
【2】~2/2