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たかが一キロメートル足らずの道のりとはいうものの、階段はあるわ、回り道で障害はあるわと、なかなか目指す宮殿にはたどり着きません。
そうしているうちに私たち二人の姿は、この世界の住人たちの、注目の的となっていました。
〔おい、あれ人間じゃねぇか〕
〔人間だ、人間だ〕
〔おい、あいつが持ってるの、あれ心の鍵じゃねぇか〕
〔おぉ、そうだ〕
階段の上り下りに疲れ、私たちが休んでいると、茂みの陰から奇妙なささやき声が聞こえてきます。
「あれは何の声?」
「ここの住人たちだ。まずいな、どうやらここの住人たちに僕たちは狙われてるみたいだ」
〔でも女王様には人間を襲っちゃいけないって言われてるだろ〕
今のささやきを聞いて、なぜサムが私に鍵を渡したのかがわかったような気がしました。
〔そりゃそうだけどね。あの鍵だけならいいんじゃないか?〕
「まずい」
その声を聞いた瞬間、サムはそう言い放つとすぐに立ち上がり、辺りを見回しました。言うまでもなく、私もそれに従い立ち上がります。
「こうしちゃいられない早く宮殿に行かなきゃ」
「宮殿まであとどれくらいあるの?」
「もうあとわずかだ。行こう」
言うより先に歩き始めたサムの後に、私も続こうとしたのですが、後ろから引っ張られて進む事ができません。
「あっ!」
振り返った私は、予想外の光景に驚きました。尖った口をしたカエルのような生き物が、私が身につけていた鍵に食いついているではありませんか。
「きゃー、サムー!」
慌てて鍵を引っ張りましたが、その生き物はしっかり鍵を加えていて離そうとはしません。
私の叫び声に反応して、少し先まで歩いていたサムが急いで引き返してきました。
サムはそのまま生き物の後ろに回ると、馬乗りになってその口をこじ開けます。
そのおかげで、私はなんとか鍵を抜くことができたのでした。
二人相手では敵わないと悟ったのでしょう。その生き物は、茂みに隠れるようにしてスッと姿を消してしまいました。
「どうやら本気でその鍵を狙ってるみたいだ。宮殿まで走ろう」
それ以外に選択肢はなさそうです。
二人はもう少しで宮殿に着けるのを信じて、階段を駆け上がり、そして駆け下りました。
〔人間だ。人間だ〕
〔鍵を持ってるぞ〕
その声を後ろに聞き流すようにして走り続け、二人はようやくこの奇妙な森を脱出することができたのでした。
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