【6】~2/2
小島はもう目の前に迫っています。着陸態勢に入った私たちの後ろで、怪物が水面から大きくこちらへ向かって飛び跳ねてきました。そうすることで、こちらとの間合いを一気に詰めてきたのです。
しかしそのせいで、魚のような怪物は、小島の周囲にある浅瀬に乗り上げる格好となっていました。
「よし、今のうちだ。早く鍵を使って扉を開けるんだ」
「待ってサム!あの魚、足がある!」
そう言っている間に怪物はどんどんこちらに近付いてきます。
「早く、行くんだ!」
小島の端に私を降ろしたサムは、身体を怪物の方に向けたまま、その背中を使って私を扉の方へ押し出しました。
「おーい。こっちだ、こっち!」
サムはフクロウの姿のまま、体を大きく揺らして怪物の注意を引きつけています。
私は時折振り向き、その様子を伺いながら扉へと急ぎました。
見上げるほど大きな扉の前までやってきましたが、今度は過度な装飾に紛れて鍵穴がなかなか見つかりません。
「鍵穴はどこ?鍵穴、鍵穴」
雲が晴れて周囲が急に明るくなるに従い、サムの体は透明になり始めています。
「どこ?どこ?どこ?鍵穴どこ?鍵穴……………あったー!」
ようやく発見した鍵穴に、私は急いで修理したての大きな鍵を差し込み、全身の力を込めて鍵を回しました。
ガチッという音ともに、開錠した手応えが感じられます。
私は鍵を扉に差し込んだまま、両手を使って扉を向こう側に大きく押し開きました。
ところが、扉の向こうに広がっていたのは…………天も地も何もない、全方向に延々と続く灰色だけの空間だったのです。
「えっ!?まさか、この中に入れっていうの!?」
驚いて後ろを振り返ると、そこにはすでにサムの姿はありませんでした。
怪物は突然目標を見失い戸惑っているようでしたが、すぐに私を見つけ、こちらを目がけて真っ直ぐ向かって来ています。もはや躊躇などしている場合ではありません。
私は思いきってその灰色だけの世界へと飛び込んで行きました。
「きゃあぁぁぁぁ……」
落ちているのか、飛んでいるのかわからない灰色の世界の中にあって、どこからともなくサムの声が聞こえてきます。
「…‥‥目が覚めたらリビングへ行くんだ‥‥‥」
:
:
:
・
・
・
・
・
・
・
【6】~2/2