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大方の兵士は外を探しているのでしょう、宮殿内部にはさほど残っていないように感じられます。
宮殿への潜入に成功した私たちは、兵士の動きに注意しながら慎重に目的地である裏庭を目指しました。
しかし、私たちが現れるのを推察してか、裏庭周辺の警備は厳重そのものです。
「これじゃ扉に近づけそうにないな」
「でも庭の中央には兵士がいないみたい」
「本当だ……ん?ちょっと待って。裏庭って……よく見たら大きな池じゃないか」
周囲は徐々に明るくなり始めていましたが、波ひとつ立たない水面は北側の暗い空を反射し、この位置からでは広場にしか見えなかったのです。
「じゃあ、歩いては近づけないってこと?」
「なんてこった。これ以上近づけないんじゃ、心の扉の位置がわからない」
「サムにも見えないの?」
「よし。上から全景を確かめよう。そしてそこから滑空して扉に近づけばいい」
「なるほどー」
私たちは警備の目を縫うようにして宮殿内を駆け回り、裏庭の全景が見える高さを目指しました。
今夜一晩でどれほど階段を上ったことでしょう。エレベータ―がないのを呪いたくなるほどの高さまで上った頃には、空は一段と明るさを増し、日の出まであとわずかとなっていました。
「あれだ!」
北側に大きく開いた窓に向かい、私たちはそこでようやく池の中央に浮かぶ小島の上に構造物を発見することができたのです。
「島は思ったより遠くにあるみたい」
目指していた心の扉は、想像していたよりもずっと大きいものでした。
その形をしっかり確認しようとして私が窓から半身を出した瞬間です!
「いたぞ!」
階下から発せられた野太い声は、裏庭を囲むようにして立ち並ぶ棟の壁面に反射して、宮殿全体に響きわたる大きさとなっていました。
たちまちにして私たちの存在が、兵士たちの知るところとなったのは言うまでもありません。
兵士たちの慌ただしさは、複雑な音の波となって私たちにも伝わってきます。
「よし、急ごう。滑空して池を飛び越えるんだ」
私たちは東の棟から飛び降りた時と同じ要領で、窓枠に足を掛け再び空中へと飛び出しました。
サムはすぐさまフクロウに姿を変え、私をその背に乗せて滑空を始めたのですが、それと同時に今まで穏やかだった水面に突如として不思議な波が立ち始めたのです。
気にするほどのことでもないと、当初は考えていたのですが、その波が意味していたものはすぐにわかりました。
「サム!真下に何かいるわ!」
「え!?」と言った瞬間、水面から巨大な魚のような怪物が私たちをめがけ飛び上がって来たのです。
発見が一瞬遅れていたら、私たちは怪物の餌食となっていたことでしょう。
間一髪のところでサムは体をかわし、事なきを得たのですが、怪物の陰はなおも私たちの行方を追って来ています。
「わずかだが僕らの方が速い。君は島に着いたら急いで扉を開き、中に飛び込むんだ」
「うん、わかった。でもサムはどうするの?」
「言っただろう、僕はフクロウ。夜の世界にしか存在できないんだ。君が扉の中に飛び込む頃には夜が明ける。それと同時に僕の体はこの世界から消えてしまうんだよ」
「…………」
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