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第8話

 10月8日ぶん

 だんだん時間が遅くなってる……。

 考えをすぐに文章へ起こせる能力を付けなくては。

 朝、といっていいのだろうか。

 こうして宿屋に一人で泊っている時だけは何も考えず眠ることが出来る。

 寝坊助と言われても言い逃れ出来ない時間に起きてしまった自分は、ベッドから這い出て窓辺から外を見下ろした。

 未だ昨日の喧騒といった程の賑やかさはないが、それでも店先の準備のために多くの人間が行き交い物を動かしているためよく音が響いている。


 ひとしきり朝焼けの爽やかな空気を吸い込み、階下へ降りていく。

 宿屋の住人はやはりとうの昔に皆起きているようで、宿と併設された食堂の厨房内では慌ただしく動く人の気配があった。



「すまない、顔を拭いたいのだが水場はどこか」

「お客さん早いですね。裏口から出てすぐに井戸がありますんで、そこ自由に使ってください」

「感謝する」



 頭を下げて外に出る。

 さて、自由に使ってくださいと言われたはいいのだがどうすればいいのだろう。

 裏口から出て辺りを見渡し、地面が一際濡れた区画を見つけそこが井戸と言われる場所だと察する。

 円形に積まれた石造りのなにか。木で蓋が為され、その上に鉄で出来たからくりがデンと載っている。いろいろと弄ってみるとドアノブを長くしたような取っ手が動くようだが、いくら動かしても水は漏れてこない。


 水と言えば従者が持ってきてくれたし、旅の途中は水辺を見つけてそこで浴びた。

 自分の教養が足りないだけなのだろうか。

 主がいたら果たして動かすことが出来ただろうか……。なんとなくだが、物好きの主であればこういった複雑なからくりもホイホイと息をするように動かしてしまいそうだ。

 グルグルと井戸の周りを歩き回っていると、建物の陰からクツクツと笑い声が聞こえてきた。経理担当がよくやる笑い声を隠したいのに隠せていない時の笑いに似ている。

 声の方を向くと、昨日出会ったリスリアという女性だった。



「えっと、ごめんなさい。井戸の使い方、分からないんですか?」

「あ、ああ。こういった細々としたものは苦手だ。もしや魔力を使うのか? だとしたら自分は動かせそうにない」

「そこまで難しいものじゃありませんよ。やり方さえ覚えていれば誰でも使えるものです。もちろん魔力なんていりません」



 手際よくあちらこちら弄ってからジャコジャコと取っ手を動かし始める。

 その所作に淀みは無く、普段からこういったものを扱っているんだろうということが分かった。

 何度か上下に取っ手を往復させれば、水が魚の口を思わせる大きな穴から勢いよく流れ始め、下に置いた桶を一瞬で満杯にさせた。



「自分には難しそうだ」

「え、ぇえ? そ、そうですかね?」

「感謝する。顔を拭わないと一日が始まったという気にならんのでな」

「あ、それ分かります」



 桶から水を掬い取っては何度か顔にかけて寝ぼけて重たい思考をはっきりとさせる。

 顔を服の袖で拭ってから井戸の方を向くと、やはりと言っていいのだろうか。彼女はまだその場に留まっていた。

 昨日の一件で話があるのだろう。



「えっと、昨日のこと、何ですけど……」

「ああ」

「あの、ごめんなさい。私はこの街を、というより今の家を離れるわけにはいかなくて……」

「いや、構わない。今回のは全て主の気まぐれで起こったものだ。気に病むことではない。というか、笑い話の一つにでもしてくれないと自分が困ってしまう」



 もう一度、彼女は小さく謝罪しながら頭を下げるとその場から去っていった。

 このまま帰って正直に全てを話したら本当に主はゲラゲラと笑い転げてしまいそうだ。そうなったら一度折檻部屋に押し込むのもありだろうか。


今日の筋トレ日記

腕立て伏せ30回

腹筋30回

背筋30回


負荷が足りないか?

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