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第7話

 10月7日ぶん

 ねっむ……。

 特産品という果実を口に含みながら宿屋のベッドに腰掛ける。

 複雑な味わいだ。甘い、酸っぱい、苦い、辛い……。全ての食を幸せなものに帰る味覚が絶妙な配分で舌の上を転がる。なんでもこの果実は門前にあった大木に実ったものらしい。

 世界中の花が咲き誇り、花が散れば様々な味を一度に楽しめる果実がなる。

 そんな木であれば年中観光客で賑わいそうなものだが違うらしい。自分がそんな疑問を口にすると宿屋の女将は外へと視線を這わせ苦笑いしていた。


 皿に盛られた果実を食べ終わり、体を横にして一日を振り返る。

 噂にたがわずリスリアという女性は美しい人だった。

 可愛らしいというよりは強か。

 麗人というよりは花畑に一つ咲く大輪のよう。

 日常の中で見るより絵画の中に収めた方がより映えるんじゃないかと、芸術を一切分からない自分であっても思える程人の心を魅了することが得意そうな人物だった。



「主も面倒なことをしてくれる……」



 自分の主人はそれなりの地位にいる方である。こんな辺境に住んでいたとしても名前ぐらいは聞いたことがあるんじゃないだろうか。

 手紙の内容は目の前にいる男は結婚相手にどうかというもの。

 ある程度の地位を持つ人物からふざけ半分でも声をかけられて断ることが出来るだろうか。別れ際、返事は要らないといった趣旨の言葉を残したが思い詰めていなければいいのだが。

 今思えばこういったことのおふざけと真面目の境界線をよく理解していない主の手紙だ。検閲しておかなければならなかっただろう。だが、もう渡してしまったし、読まれてしまった。既に後の祭りというものだ。


 深い溜息を吐き出す。

 頭の隅に過った「どうせなら」なんて言葉を知らないふりしながら、それもため息と一緒に吐き出していく。

 これは一種の気の迷い。

 そうでなければ今までの自分は何だったというのか。



「ここは月が良く見えるな。他の土地のものより一回り大きく見える」



 浮ついた思考を削ぎ落すように適当に言葉を吐き出す。

 顔を横に向ければ、カーテンを閉め忘れた窓の向こう側に丸く輝く白銀色の月が見えた。

 街の中に光が少ないせいだろうか。

 あんなに昼間は賑わっていたというのに、夜は窓から指す月光も相まって神秘的なまでに静かだ。

 明かりが増えれば空に輝く灯は不要になるとは誰から聞いたんだったか。幾年か越しにその言葉を実感した気分になる。明かりに埋もれた世界で暮らしていたせいか、こうして空から注ぐ光以外消えた景色というものは新鮮だった。



「帰還は一月後……。ここで暫く時間を潰すのも一興か」



 旅の疲れを癒すように目を瞑り、久方ぶりの深い眠りについた。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回

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