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第6話

 10月6日ぶん

 もう少し早く書き上げるようにしないと……。

 特別何かを為したいというわけじゃなかった。

 現在の自分は惰性の産物。大きな盾を二つ担ぎ、主とする人の後ろをついて歩く。貰った給金でその日仕事に支障が出ない程度の食料を買い、食べて、寝て、起きて、また仕事に行く。

 自分は後ろに立っているだけで済むこの仕事が居心地よかった。

 特別主に思いを寄せているというわけじゃない。自分より経理担当の方が主を男女の関係に成りたいと望む程に好いていた。

 自分が主の後ろから離れなかったのは、そこが誰も傷つかない場所だったからだ。



「えっと……」

「も、申し訳ない。その書き方だから、主も良い返事を望んでいるわけでは無い、と思う。だから気にしないでくれ。何か言われれば手紙を渡す相手は存在しなかったと言い張る。主は物好きだがただの噂だけでここまで自分の足で遠出しようと思い立つほど行動的な人物ではない」



 だから、今の生活で満足していたというより、今の生活でなければ自分は満足することが出来なかった。

 簡単な護衛の仕事といっても地位の高い人間の下についていれば反感は買うものだ。例え主と崇める人物が善意の塊のような人間であったとしても、である。

 自分もそう言った手合いが家に入り込んできた時がある。その時は寝首を刈られる前に対応することが出来たが、次どうなるかは分からない。


 もし、自分に伴侶がいたとして……。

 自分はその人物を守り切ることが出来るのだろうか。

 主の護衛として任に付いている間、家に賊が忍び込んだ時誰がその人を守るというのだろう。例え自分がいたとして、全てから守り切ることが出来るのだろうか。


 六人兄弟の三男。

 家督を継いでいく役割は兄が持っている。

 自分は家名に恥じないようにただ日々を過ごしているだけでいい。

 主の護衛としてあれる今、伴侶を得ないことで家が揶揄われる心配は然程なかった。そういう地位に今の自分は就いているはずだった。



「近場に宿屋は無いだろうか」

「えっと、まあ、その……。斜め向かいの建物が宿屋ではあるんですけど」

「そうか、では部屋が空いていたらそこに泊めてもらうとしよう」

「あ、あはは。きっと、埋まってても強引に止められちゃうんじゃないかなぁ……」



 リスリアと名乗る女性は歯切れの悪い声でチラチラとこちらを伺うように声をかけてくる。

 自分も人づきあいが苦手な部類でよくそうなるが、なんとなく彼女のその姿は自分のものとは違う気がした。

 一線を引かれていることが明確に理解できる視線、声色、態度。

 いつものことだし、話が発展しない方がこちらとしてもありがたい。



「ルル、だったか?」

「ルルは愛称です。名前はルクリア。リリの妹だからルル。覚えやすいでしょう?」

「なるほど……。今回は道案内を買って出てくれたこと感謝する。何かお礼が出来ればいいのだが何分持ち合わせがない。これで勘弁してはくれないか」



 懐から取り出したのは無用の長物になっている銀細工。

 彼女にとっても無用の長物となりそうだが、売ればそれなりの値段にはなるだろう。



「これは?」

「魔力を通せば中の模様が揺れ動く。ただそれだけだ。見るのに飽きたら売ってくれ。それなりの金にはなると思う」

「倒れたところを解放してもらったのに、ありがとうございます」

「先ほども言ったが、自分は何もできなかった……。何か困ったことがあったら言ってくれ。自分がここを離れた後でもいい。手紙を出してくれれば勇んでとんで来よう」



 そういえば、自分は主以外の前でこんなにもペラペラと舌がまわる人間だっただろうか。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ30回

 腹筋30回

 背筋30回

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