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第4話

 10月4日分

 平日は日中に書けないとこれぐらいの時間になりそうだ。

 早起きして眠い目をこすりながら書けばいいのだろうが……。

 朝はあまり頭が働かない。



 門の内側に戻る頃には、街の中は普段通り賑わいに満ちていた。

 そんな街中を背のちっちゃな私が鎧でガチガチに固めた無骨な男性を一人連れて歩く。

 するとどうなるか、なんて考えるまでもなく私と彼は注目の的だった。


 私達を射抜く好奇の視線。

 私の後ろをついてくる大男の様相に身を震わせながら道を開ける人や、憧れるようなキラキラとした視線を向ける者。私に対しては心配するような視線や探りをいれるような視線が多く向けられていた。

 道の片隅に集まりながら姦しく騒ぐ女の子たちは、騎士と病弱少女の恋物語でも夢見ているのだろうか。


 私達が入ってきたことで街が一層浮ついた雰囲気を持つ。

 広くても姉の足で歩けば半日と少しで端から端まで行ける程の狭さを持つ街。噂が流れれば一日と経たずに街全体に広がってしまう。

 まして、私はあの姉の妹だ。たちどころに私が騎士を連れ込んだという話は広がり、好奇心を刺激された人間が見に来る。現に、賑わいが路地裏の方まで広がっているようだった。



「これは、なんというか……。今日は祭りだったりするのか?」

「祭りではありませんよ。いつも通りというわけじゃないですけど、いつも通りですね」

「ふむ……。うん? どっち、だ?」

「毎日祭りがあるように賑わっていますけど、今日は少し際立っているというだけです」



 こうなると賑やかというより騒がしい。

 人の多さと騒がしさ、それから密集したことによって空気が淀み視界が暖炉に灯る火のようにゆらゆらと揺れ始める。


 あ、これはまずいな、なんて思った時だった。

 背中に今まで触れたことのない冷たく硬いものを感じ取った。

 息が浅くなって意識が虚ろになったまま上を見上げると、そこにいたのは案の定私が道案内している騎士さん。兜があるおかげで無言のまま冷静に立ち振る舞っているように見えるけれど、内心慌てふためいているのではないだろうか。

 背中に伝わる感触は、私がぱったりと突然倒れた時に感じることが出来る慌てふためく姉のようだった。



「お、おい、大丈夫か?しっかりしろ。体調が悪いのか?いや、悪いから倒れたのか。医者を呼べばいいか?それともお前の家に運べばいいのか?ああそういえば自分はこの街に初めて来たんだった。医者の場所もお前の家のことも知らない。どうすればいいだろうか?」



 ブツブツ、ブツブツと頭の上から大衆の騒音に紛れて言葉が降ってくる。

 思いのほか鎧の中の彼は慌てているようだった。

 案内を買って出たのにこの体たらく。自分が情けない。

 身体を鍛えておけばよかったかな、なんて考えながらもそんなことは無理だと自嘲気味に笑う自分が心の中にいる。

 体が弱いことはもう決まりきったことだった。

 門兵さんに案内を頼まなかった自分のせい。普段では姉が迎えに来るその時まであの木の下で休んでいるというのに。久しぶりに外へ出れるとあって浮かれていたのだろうか。



「……ルル!!」


 

 遠くから最愛の姉の声が聞こえてきた。

 それを最後に私は緊張の糸をぷっつりと途切れさせ、安堵するように意識を金属質な腕の中で手放した。


 今日の筋トレ日記

 腕立て伏せ:30回

 腹筋:30回

 背筋:30回

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